リング
心音。おだやかに、雨の夜。くりかえし降る、だれかのやさしさを思いながら、プレーンで、安価な、一袋に六つ入っているドーナツを、もそもそとたべてる。
あのこはもう、蛇の夢をみないし、星は静かに、呼吸をしているし、わたしは一つ、二桁価格のドーナツでも、まんぞくできるし、恋はいつも、うまくいかなくて、ときどき、じぶん以外のだれかを好きになるようにした(おそらく)神さまを、すこしだけ、うらみもするけれど。不幸なわけではなく、とりわけ幸福でもない、ほどほどの、ぬるま湯な感じが、いいと思う。いいと思うようにしている。忘れていたことをふいに思い出すみたいに、そう思いながら、ちいさなこどものようにドーナツを、牛乳で流しこんだ。
リング