リング

 心音。おだやかに、雨の夜。くりかえし降る、だれかのやさしさを思いながら、プレーンで、安価な、一袋に六つ入っているドーナツを、もそもそとたべてる。
 あのこはもう、蛇の夢をみないし、星は静かに、呼吸をしているし、わたしは一つ、二桁価格のドーナツでも、まんぞくできるし、恋はいつも、うまくいかなくて、ときどき、じぶん以外のだれかを好きになるようにした(おそらく)神さまを、すこしだけ、うらみもするけれど。不幸なわけではなく、とりわけ幸福でもない、ほどほどの、ぬるま湯な感じが、いいと思う。いいと思うようにしている。忘れていたことをふいに思い出すみたいに、そう思いながら、ちいさなこどものようにドーナツを、牛乳で流しこんだ。

リング

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-09-29

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