月光と鱗
青津亮
空から揺れる 幽かで巨きなゆびさきの、
不在の空無を掻き叩く 無我夢中に降るピアノソナタ、
夜の暗みから毀れた光 たん、と湖へ墜落し、
湖面は身いっぱいに苦痛に喘ぐ 広々とした肩波打たす。
其処に棲む魚は誰かに恋してて 独り善がりな忍ぶ恋、
無我夢中に躰しならしうねらせて 鱗の緊縛を悔恨する。
忍ばれた恋は血を真赤にどぎつくする、炎ゆる血を制御する銀の鱗、
むしろ真紅の色彩を際だたせ、夜の毀す光に内から熔けていたみを流す。
魚は誰かに恋してて 鱗を脱いで、かのひとの元へ向かいたい、
肉という重たい衣服剥ぎ落し 唯、かのひとへ魂迸らせたいエゴイズム、
されど魚は鱗を負った──硬質な鱗は彼の肉に半ば食い入る。
扨て 月の光が照りました 月の光が照りました、
魚の肉でない領域とおなじ色(?) 鱗のそれは月の反映に似せました、
されば月光の求むるままに舞踏りましょう、魚は恋するひとを敬っています。
月光と鱗