月光と鱗

 空から揺れる 幽かで巨きなゆびさきの、
 不在の空無を掻き叩く 無我夢中に降るピアノソナタ、
 夜の暗みから毀れた光 たん、と湖へ墜落し、
 湖面は身いっぱいに苦痛に喘ぐ 広々とした肩波打たす。

 其処に棲む魚は誰かに恋してて 独り善がりな忍ぶ恋、
 無我夢中に躰しならしうねらせて 鱗の緊縛を悔恨する。
 忍ばれた恋は血を真赤にどぎつくする、炎ゆる血を制御する銀の鱗、
 むしろ真紅の色彩を際だたせ、夜の毀す光に内から熔けていたみを流す。

 魚は誰かに恋してて 鱗を脱いで、かのひとの元へ向かいたい、
 肉という重たい衣服剥ぎ落し 唯、かのひとへ魂迸らせたいエゴイズム、
 されど魚は鱗を負った──硬質な鱗は彼の肉に半ば食い入る。

 扨て 月の光が照りました 月の光が照りました、
 魚の肉でない領域とおなじ色(?) 鱗のそれは月の反映に似せました、
 されば月光の求むるままに舞踏りましょう、魚は恋するひとを敬っています。

月光と鱗

月光と鱗

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-09-28

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