か わ る

 こわいくらいの、心臓の音。網膜を焼く、赤と、神経をざらつく指で撫で上げるみたいな、あのひとの行為。陰鬱さを晴らすために、もう、自由に空を飛べなくなった蝶の翅をもぐ、かれの残酷さ。こわい。幽霊よりもこわいのが、いきているにんげんって、よく言うよなぁと思いながら、いま、この瞬間に感じる、さまざまな大きさの、あらゆるこわい、という感情を、忘却するために、カレーライスを食べたあとの、ぎゅうぎゅうづめの胃に、さらに、チョコチップスコーンをあたえる。夜。

(ほんとうに、夏は、ねむってしまったの?)

 すぐそこで、秋が、ねぼけまなこをこすり、あくびをし、だれかれかまわずに、おはよう、と微笑んで、ああ、夏はとうとう、いってしまったのだと突きつけられたとき。わたしはすこしだけ、無垢になれた。

か わ る

か わ る

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-09-27

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