夢幻泡沫

プロローグ

 
 ある山里に九尾の狐の種族があった。その狐の中に一匹だけ仲間にされている


  一匹の九尾の狐がいたその名は暁(あかつき)。


 なぜ仲間外れにされていたか。それは、彼は違う種族から来た狐、異質な存在、だからである。

   
 それは、今から1、2000年くらい前、暁がまだ生まれて150歳くらい


 のまだ幼いころ、暁の種族がすんでいた山を人間が木を切り開いて村を広げよう


 とした。だが、そのたびに暁の種族が邪魔していた。

ある旅の坊様に村を広げようとしていた者達が相談した。


 坊様は妖狐や元々そこの土地に住んでいるものを無視して切り開いてはならぬと反対したが
  
  その者達の圧力に負けてしまい、

 「妖狐は尾を切るとしんでしまう。だから尾を切って退治するがよかろう・・・」
 
  教えてしまった。


 村を広げようと者達はそれを聞いて大喜び。喜んで 尾を切りに退治しにいった。


 暁の種族も必死に抵抗しましたがある陰陽師の法力 により身動きがとれず退治された。

  暁の両親も、いっしょに。

 暁と金剛という狐は助かった。そして、今の種族にひきとられ、今にいたっている。


 暁が仲間外れにされているのはほかの狐と毛並がちがって、暁の毛並は黒く、目は射るような


  黄色く鋭い目。  


 だから異質な存在と思われ、避けられていた・・・。


  かつて彼をひきとった心優しかった種族の長はひきとってまもなく亡くなり、


 新しい長になってから彼への風当たりが強くなった・・・やがて種族を暁は抜けた。


 その心優しかった長が亡くなった日は、


   空が抜けるように・・・抜けるように青い日だった

危機

―――草木もねむる丑三つ時。山中は墨を流したような闇。―――

「ふう・・・」

そこに佇む一匹の狐。闇から生まれでたような漆黒の毛並み。

狐火が浮かび上がった。

彼は九つの尾をもつ狐。妖狐という妖。

ここはある山奥の森の中である。

「ここにあれは在るようだな・・・」

そう、暁である。暁は「あれ」が無いか確認しにきたのだ。

「あれ」を封印しに。

「あれ」が在るとその周辺一帯の妖怪が我を失い、人はさまざまな病にかかる。

「あれ」はある妖狐が石化したのをある坊様によって割られ、全国に飛び散った「破片」である。

「あれ」とは――「あれ」は玉藻前に化けた白面金毛九尾の狐「玉藻」という狐である「殺生石」。

 「殺生石」はその時、3つに割れ全国のどこかに飛び散った。否、それ、以上かもしれない。

それを封印せよとの上からの命令だった。上の妖狐も暁も悪狐であったが、悪狐たるもの仲間の始末は悪狐でしなければならないらしい。でなければ名が廃るのだそうだ。そもそも玉藻は裏切り者。伝説の狐だったが一派を抜け、行方を晦ませ悪事を働いたのだからなおさら。しかし、惜しい仲間を失った。
悪事というよりも悪狐として当然のことだがそれよりも抜けたことが一派にとって大罪。

今の妖狐否、悪狐は四つに分かれていた。北の「瑠璃一派」、東の「帆紅一派」、南の「琶於一派」、西の「瑪瑙一派」。

暁は東の「帆紅一派」に属しており、幹部である。他の幹部の妖狐、「帆於」と「雲雅」と「暗邪」と北と東と南と西に分かれ捜索している。

暁の担当は西、今現在は、美作国高田、勝山の山奥の森、「御香楚の森」にいる。ここには、ときどき、陰陽師が来る危険地帯である。

香の香りがするからその名なのだそうだ。妖狐や妖怪がここには滅多に来ないのだが命令なのだからしかたない。

妖狐や妖怪は善狐を除く、長時間いると眩暈がし、終いには倒れてしまうだが死にはしない。実際に暁も今軽く眩暈がしている。

(ここには長居は無用だな・・・。それに殺生石の気配が進むに連れて濃くなっていく。くそっ、よりによってなぜ今日は香の香りが強い・・・!)

一派の幹部は御香に中ってもある程度は大丈夫だ、だがあまりにも強い御香だと危ない。嗅ごうまいとしても鼻にはいってくる。術も通用しない。

どのくらい進んだだろうか・・・目の前が開けてき、目の前に巨大な岩が現れた。しかし、その前に人影がある。白装束に身を包んでいる。

(陰陽師か!)

その陰陽師はどうやらその殺生石を封印しているようだ。暁は咄嗟にそばの茂みに身を隠した。凄い霊力がその場を包んでいた。

なるほど香を気配を隠すために装束に大量に焚き染めているから気がつかなかったらしい。ふつうならすぐに気付くのだ。

身を隠すのに精一杯だ。戦えなくも無い。だが、今戦えば此方は不利だ。それほどに香の香りが強い。

強い眩暈がしてきた。

最後に印を結び、呪文を唱え、此方を振り向いた。優男な顔だが厳しい凄んだ顔が―

善狐

暗い大気が纏わりつく墨のような夜―

暁はじっと身を隠していた。あれから膠着状態が続いている。

(気づかれている・・・のか?)

あれから陰陽師は動かない。振り向いた状態でそのままだ。

「でできたらどうだ?」

(やはり!)

しかし、陰陽師は違う方向に行き何かを吹いた。

ぴゅり~~~ぴ~~~~~・・・

かなりの高音が痛いほど耳に入る。

がさっ

(!)

何かが来た、それは、・・・・・・・・・善狐。しかも、一尾、相当霊力の強い善狐である。

金の毛並み、目の色は血のように赤い。

「椿、そこの悪狐を始末しろ」

「はっ」

やはり気づかれていたか。椿と呼ばれた善狐が此方へ凄い速さで駆けてくる。

暁はやっと逃げ出した。どっちにしろ殺生石はもう封印された。ここにいる意味も無い。

瞬間移動術「戒楼」を作るにしても後ろの善狐が速すぎ、時間が無い。

もう少しで森を抜ける・・!身体がぐらりとした。

(くっ・・・香のせいか、)

ついに追いつかれた。赤い血の目が暁を見る。

「そこまで、そこを動いたらどうなるかわかるわよね」

くくっと善狐が笑う。鈴のような凛とした声。

「・・・随分速いな。しかし、俺を殺れるか?」

「善狐が悪狐を殺れないわけない!こっちの方が霊力強いんだから」

そういって仕掛けてきた。しかし、かわした。そして、火炎を吹く。

しかし善狐に掠っただけだった。

「・・・天猛坊様の見立よりも少しは強い悪狐ね」

(聞いたことのある名だ、どこで聞いたのだろうか・・・)

「・・・なんとでもいえ」


「しかし、これをかわせるかしら?」

そういうと尾に狐火を宿し振りかぶる、「燐華拳」。

しかし、暁も幹部の端くれ、そうやすやすと当たらない。

反撃に出る。「火剛炎」。さっきの火炎よりも強い、青白い炎。

それで燐華拳を受けた。しかし、香の中、悪狐が戦うには不利である。押されていく。

さっきの身体の揺れがまた襲ってくる。そのたびに、押される。

両者、飛びのく。

暁はその時できた僅かな隙をつき、尾で善狐を叩く。相手の尾に当たった。尾はどの狐も急所である。

「ぐっ・・・」

相手が怯んだ隙に戒楼を繰り出した。黒い空間のずれができた。

すかさず飛び込む。身体はぼろぼろだ。

「待て、逃がすわけには行かない!くっ」

遠くでそう聞こえたがもうすでに戒楼は閉じている。まだ尾が痛んでもがいているようだ。

雌狐には手加減した方が良かっただろうか、否、手加減するとこっちが殺られる。

それに相手が雄狐だったら手加減無く、戒楼に飛び込まず、相手をまず殺る。

(危うかったな、しかしなぜ神の使いである善狐が、陰陽師に・・・・・。)

戒楼の路に狐火が提灯のように燈っている。ここは悪狐のみ知る全国につながる路である。

一派の本陣に在る自分の部屋へ向かう。程無くして光が見えてきた。封印をすると一旦報告に行かなくてはならない。殺生石も封印されてた。光が見えてきた。素早くそれに飛び込む。

(ぐっ・・・)

飛び込むなり、不意に視界が歪んだ。意識を保とうとしたが無駄だった。吸い込まれるように闇へ引き込まれた―――

医務月炎

冷たい・・・・

(ここは・・・どこだ)

目の前は天井。薬臭い、見覚えのある場所だ。

ここは薬処。負傷した悪狐が運ばれてくる所だ。

暁は自分の記憶の糸を辿る。

(善狐と戦って・・・それで戒楼に入って・・)

そうだ、それで部屋に飛び込んで意識を失った――

冷たいのは額の上の手拭だ。

「おや、目覚めなさったかい」

振り向くと監察という一派の情報方の医務係、月炎、という悪狐である。

「なんだ、あんたか」

「やつがれじゃなかったらぁ、一体誰だというんです?」

この月炎、口調がちょっと訛っている。極めて性格が極めて悠々としている。毛並みは普通の黄褐色。

目は薄い緑。

「また、人型に化けてるのか?あんたも物好きだな」

「こっちのほうが、治療も手当てもしやすいんでね」

「だから物好きだといっている」

「はははっ、暁さんにいわれたかぁねえや」

「ふん!」

暁は人型に化け、人間の町に偵察に行くことがあるからそのことだろう。

「して、また無理しやしたねぇ」

月炎が顰める。

「仕方ない、任務だからな」

と、月炎と話していて気が緩んだのかでも淡々と話す。

「それにしても、香の中にいすぎたんでやしょう?香の中毒ですよぉ、それに薄傷も多・・・」

その時戸を叩く音がした。

「失礼します」

入ってきたのは、帆於。帆於は銀の毛並みと淡い青の目をした悪狐だ。

「帆於か。首尾はどうだったんだ?」

「はい、ありましたよ?、封印するより他の妖怪倒すのに苦労しました」

そう言いながら苦笑しながら、手、否、前右足をひらひらさせる。

「ごくろうさんでやしたなぁ」

月炎が笑う。

「それで暁さん、また無茶したんですか?」

暁は顔を顰める。

「俺の勝手だ」

「そうやっていっつも素っ気無いんですから・・・」

帆於が困った顔をする。

「まぁ、そういう方だからなぁ」

またそう言われ、また顔を顰めた。全く、ここは薬処なのだから少しは、遠慮してはどうなのか。

全く、困った二匹である。

「それで暁さんは今度はなんで薬処に来たんですか?」

そこでやっと暁を案ずる。

「否、香の中に居すぎただけだ。案ずることはない」

「そんだけじゃあないんですよぉ、善狐とも戦ったんですよぉ、全く無茶な方で」

「もう、無鉄砲としか言い様が無いですね!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

二匹は揃って笑う。もうここでは無視するしかない。しかも何でそれを知っているのだ。

そこでふと考えた。

(報告するのを忘れた・・・!!)

もうそろそろ起きて大丈夫か。試しに起き上がろうとするが、鈍痛が走る。

「っつ・・・・・!!!!」

そこで笑うのを止め、月炎が諫める。

「まだ香が残ってるから動いたら駄目ですよぉ」

「しかし、報告が・・・!」

「あぁ、それならもう暁さんの部下のものが「億読術」で暁さんの記憶を読み取って代わりに報告に行きましたよ」

「そうか・・・」

やっと安心した。それにそれじゃ知ってるのも仕方ない。

(そうか、もう報告は行っていたのか)

しかし、こんな身体じゃあ動けない。

そんなこんなで、夜は静かに更けていった――

「汚らわしい」

これはいつ何時の・・・

一匹の子狐が話しかけてきた。

「ねえ、遊ぼう?」
しかし、

「こら、奴に近づくな」

親に隔られた。

軽蔑の眼差し、渦巻く嫌悪。

周りの狐は呟く。

「異なる毛並み」

「余所者」

「余所者の癖に・・・」

「でかい面をしおって」

「もぐり!」

「もぐり」

「もぐり」

「もぐり」

「もぐり」

「もぐり」

「・・・」

「・・・」

「・・」

「」






「この孤狐が!!!!」


「っ!」

目の前は見慣れた天井があった。あれから五日でやっと香が抜け部屋に戻れた。妖物の者は

治りが早い。場合によって遅いが。それにしても・・・

「夢か・・・」

時々、あの汚らわしい幼い時の光景を夢に見る。その度に暗い心持になる。

なんであの種族に・・・。長に恩がないといえば嘘になる。優しかった長。

しかし周りからの扱われ方。長の知らないところではいつも、嫌悪されていた。この毛並み。目の色。

否、恨むべきは人間。自然を勝手に壊していく人間。自分も化けるがあれは偵察のため。

時代に取り残されると、人間に紛れるとき、人間に化けた敵や裏切り者を追う時、支障が出る。

あの時、人間さえ山に入って来なければ、あの時、あの陰陽師さえ居なければ自分の種族は・・・・

(人間めが・・・・・・!!)

悔やんでも過ぎたことだから仕方ない。しかし・・・悔やんでも悔やみきれない。

殺気が辺りを包む。

「おい、暁」

突然横から声がした。

「!?」

「何朝から殺気出してんだ?」

暗邪だった。障子の外から話してるらしい。

「幹部に集合がかかった。支度をしたら集会所に集まれ」

「・・・わかった」

幹部だけとは珍しい。何かあったに違いない。

胸騒ぎがした。

その日は黒雲渦巻く曇天の空だった――――

夢幻泡沫

のばすところがどうしても?に化けます・・・・

夢幻泡沫

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 時代・歴史
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-04-26

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  1. プロローグ
  2. 危機
  3. 善狐
  4. 医務月炎