ヤクザ者
虚し、この泡沫、処女なる詩、/ ただ 酒盞を示すのみ。
──ステファヌ・マラルメ「禮」
盃を掲げよ、
死際の鶴が最期の生命を引き絞り、
頸をしならせ蒼穹を呪い睨むがように、
杯には虚空が煙とくゆる、失望のいきれ噎せる程。
盃を交わそう、
兄弟の契りだ、天涯孤独の果ての領域で、
隣人の契りだ、天蓋疎外の果ての領域で、
杯には虚空が煙とくゆる、空無を痛みと呑み下せ。
盃を棄てよ、
つぎつぎに所有せるものを抛れ、
ありとある愛着を剥ぎ落し削ぎ落せ、
杯には虚空が煙とくゆる、此処に宿るは我等の信仰。
盃に視線を向けるな、
後ろ髪引かれ乍ら既にして棄てたものは脳裏で描け、
貴様は路の真中歩けぬヤクザ者、身の程を知れ、
杯には虚空が毀れて洩れる、俺達の宿命がその泡沫。
ヤクザ者