花びらの過ち

  1
あらゆる言葉の溶けこんだ 茫然たる翳の虚空、
しらじらと照る 失墜の往き着いた他人行儀な風景で、
わたし──花びら、双つ、
蒼と真紅の過ちに、手を染めて了ったのでありました。

女神よ わたしの蒼の罪をお赦しください、
わたし 言葉を信じずに詩を書いて了ったのです、
わが魂の毀す歌──光と音楽の綾織る舞踏にすぎぬものを、
あろうことか青玻璃と銀細工の、壮麗な言葉の箱に容れて歌ったのです。

女神よ わたしの真紅の罪をお許しください、
わたし ふたたび恋をして了ったのです、むろん片想い、
恋愛禁止──幾たびも、千切りを耐え結い直す絹の契り、
熱っぽいアンスリウムの重たい頭 今夜も恋愛の幻でいっぱいです。

わたしの視力は秩序からドロップアウトしてるから、
世の善悪が茫洋と視える、されば「わたし」との約束が、
光と音楽の倫理を示す。女神よ お許しください──
わたしの指先は 花びらの散らす色っぽい罪に濡れております。

  2
女神よ けっしてわたしを赦すこと勿れ、
女神よ 不断にわたしを責めたてるが好い、
逆説 貴女がわたしを裏切りつづけることで、
わたしは 貴女と「わたし」を裏切らないことを決意する。

女神よ その美しい冷然な眸をわたしへ向けつづけよ、
女神よ 不在の優しさで優しい不在を抱け、すべてを、
貴女はわたしに 義母の優しさを呉れたのでしたね、
なべてを同等に抱く、銀に燦る硝子盤──わが双頭の神の対。

女神よ 報われずとも死した魂へ蒼馬の眸を投げよ、
女神よ 如何なるわたしをも憐憫しない貴女であれ、
わたしの指先はぬらぬらと淫靡に湿っております、
暗みの籠る言葉の内奥、感情の深淵へ指滑らしたのです。

女神よ どうかわたしを路上で犬死させよ、
女神よ どうかわたしからあらゆるものを毀せよ、
湧き昇る幸福への欲心を断つため、幾夜も涙の熱で結い直す、
そうでございます──わたしは、愛し合うことに憧れております。

  3
わたしは 淋しさに死にたい想いをするから──
そいつを、生の意味にしたのです。
愛憎劇しき理不尽の女神へ呪うがように、
幸福を剥ぎ落した犬死の骸を、花と抛りたいのがわたしです。

女神よ わたしは確かに醜く、悪く、間違っています、
女神よ わたしは生涯美しく、善く、真実なものを愛します、
わたしの云っているのは、罪と善行の裏返しのコインの話じゃない、
わたしは生をひっくり返したいのです、犬死こそ豪奢絢爛な生であると。

  *

指先を伝う過ちが、甘さ 苦みへ化学変化し、肉を刻んでくれればいい、
血管を這い痛みに惑溺すればいい、染みるのを 骨が拒めば万事佳い、
私は重たい淫らな赤影のアンスリウムの幻の群に身を埋める、
其処では噴く鮮血をカモフラージュ、清楚へ剥くの手続きが先ずこれだ。

花びらの過ち

花びらの過ち

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-09-21

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