箱庭療法

朝からテレビがついている
また誰かが星占いで一位

朝から強い風が吹いている
思いつくだけの言葉をかき集めて
ぺらぺらのコピー紙に乗せて
ベランダから飛ばしてみたい
きっと札束が空を舞うように見えるだろう

九階のベランダから
地上をのぞき込むと
ぞっとするから
まだ生きてるんだなと
安心する

言葉をどんどん吐いていって
身軽になった時
九階から地上の植え込みへと
すんなり 身を預けられるのだろうか

今日はまだ
言葉と生きていくので
ラッキーカラーの青の靴を履いて
エレベーターで地上に降りて
他人の歌がはびこる世界へ
歩き出す

地球に生まれてしまったよ

地球に生まれてしまったよ
どこまでも海
どこまでも陸
どこまでも空

自販機の前に人はいるのに
自販機の裏に人はいない

あなたに触れていても
僕は地球にひとり

宇宙に生まれてしまったよ
月の表も裏側も
おんなじ月なのに

終わりのあるのとないの
どちらが美しいのかわからないまま
僕は今日も眠る

ナイフ

何も言えないので
ナイフを磨いている
もし何か言いたくなった時
刃を握りしめて
手のひらから血を滴らせるために

音楽を聴きながら
ナイフを磨いている
わたしの言いたかったことは
他人の詩の中で
既に歌われていた
もう音楽は聴きたくないと思う

銀色の刃が
結ばれた唇を映す
やっぱりこれは
りんごの皮を剥くために生まれてきた気がする

それでもナイフを磨いている
一度も傷ついたことのない手で
ナイフを磨いている

嗚咽

あこがれているものを
言いつくす前に
僕は死んでしまう

あこがれているものを
言葉に書き起こすとき
感情が
旅立っていく



音楽
先輩
あこがれているものを
書き連ねても
全て馬鹿馬鹿しい
言葉にしても
中身のないものが出てくるだけ

あこがれがいつも
喉に詰まっていて
吐き出せない

先輩の何にあこがれているのかなんて愚問だ
そんなものが分かっていたらとっくの昔に死んでいる

あこがれを言いつくして死ぬことが
ひとつのあこがれ
(嗚咽)

展覧会

地下を走っていた電車が
地上へと顔を出すあの瞬間
光が車内にあふれだす
そういうものをあなたと見たい

美術館の暗がりで
海の絵を見ている
あなたの気配を
すぐ横に感じつつ

あなたと見たものを並べて
心の中で展覧会を開く
何気ない路地裏の細道も
人のまばらな駅のホームも
公園の木々の長い影も
すべて飾っておくね
今日のあなたの横顔も
お気に入りの額に入れて飾っておくね

まずは次の展示室に行って
それからもっといろんなところに行こう
この大船を飛び降りてみてもいい
星雲を駆け抜けてみてもいい

うなぞこの水草を脚にたくさんつけて
ほんとうの
絵画を
海を
光を
あなたと見たい

たましひ

あなたが手を振ってくれるのがうれしいよ、と口にしたことはない
あなたがわたしを覚えていてくれるのがうれしいよ、と口にしたことはない
プールサイドの足あとが乾いても
卒業アルバムの寄せ書きが焼かれても
いつか安らかに眠れればそれでいい

消えていくものの中にあなたがいたとしても
いつか安らかに眠れればそれでいい
あなたが安らかに眠れれば
それだけで

包装紙をひらくように
思い出をしまうたび
あなたが手を振るのがむらさきの朝焼けの向こうに見えている

箱庭療法

2022年9月 某高等学校文学部の部誌に掲載

箱庭療法

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-09-21

Copyrighted
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  1. 地球に生まれてしまったよ
  2. ナイフ
  3. 嗚咽
  4. 展覧会
  5. たましひ