1日の奇跡

うっちゅのたまご

1日の奇跡

1月に入っても東京ではなかなか雪が降らなかった。
今年大学4年生で4月には就職する娘が一人、スーパーでレジ打ちのバイトをしている。

「こんにちはー。いらっしゃいませー」

「あやちゃん。今日もバイトー毎日えらいわねー」

常連のおばちゃん。
名前は知らないけれど、買い物に来たのか話に来たのか分からないくらい、たくさん話しかけてくれる。

今日も昼から夜まで退屈だけれど、それなりに充実して終わると思っていた。

「あのー」
「どうしたのー!?」

今日はずいぶん可愛らしいお客さんが来た。

「たまごぼーろ」
「たまごぼーろね、それならあっちにあるよ」
「ありがとう」

女の子はそう言って奥へ走っていった。

たまたまだけれど、私も好きなお菓子だった。
この歳になってもたまごぼーろは今も好き。

小さい頃一人でおつかいに行けたとか、小学校の時にはテストでいい点数をとった時とか、ご褒美で何かともらっていて、縁起物っていう印象がある。

何か特別なことがあったわけではなかったけれど、久しぶりにたまごぼーろを買って帰ることにした。

いつも通りの帰り道、また明日もバイトをして1日が終わるのだろうと思っていたら、ダンボールが家の近くに置いてあった。

職業病でダンボールが置いてあるのをみてしまうとすぐ畳んで片付けてしまうところがある。
誰がこんなところに捨てていったんだろうと少しイライラしながら近づくと……。

「にゃー」
そこには猫がいた。

そのまま放っておくのも可哀想だったので、飼い主が見つかるまでと思って引き取った。
食べる物がなく、仕方なく手にもっていた、たまごぼーろをあげた。

「あやちゃん」

どこからか声が聞こえた。

「今すぐ外に出て!」

どいうことなのだろうと思っていたら目が覚めた。

昨日猫にエサをあげていつ寝たんだろうと思いながらもいつも通りにバイトへ出掛けた。

また今日も常連さんと会話してらいつも通り家に帰る。
一つ違うとすれば家には猫がいること。

そして、どこからか聞こえる謎の声。
日に日にその声は頻繁に聞こえるようになった。

外に出てと言われても、その外とはどこのことなのか、さっぱり分からない。

友人にも相談して病院へ。
そして精神科にもかかってみた。
試しにということで睡眠薬をもらい、様子を見ることになった。

私は深い眠りに落ちた。

目を開けると白衣を着た先生がいた。

「被験者No.142目が覚めました」

その隣には家の前で拾ったあの猫がいた。

「まだ動かないで」

この時状況がつかめなかったけれど、私は単発のバイトで動物と脳の電子信号を通してコンタクトをとるという実験をしていたみたいだ。
その中でも私は想像力が強く、仮想現実の世界で生活をして、会話の相手と出会って話すまでに時間がかかったそうだ。
実験は無事に成功し、実用化のための材料にするみたいだ。
それにしても外に出てってどういう意味だったんだろう。

一週間は安静のため病院に泊まることになった。
会話をするための動物はまた次の被験者のところに行くみたいだ。

「外に出て」

またあの声が聞こえた。
今はしっかり目が覚めているのにと思って見ると猫はまだそこにいる。

まさかなと思ったけど、そのまさか。
私は脳の電子信号介さず直接猫と頭で会話をしている。

猫は走っていく、私も後を追う。

病院はものすごくぼろぼろだった。
誰一人いない。

とにかく扉に向かって走った。


今でも思い出す。
扉を開けた時暖かくて眩しかったことを。


私はベットにいた。
近くには母がいた。

私は訳が分からなかった。
私は三日ほど昏睡状態だったらしい。
近くには猫がいた。
私はどうやら交通事故にあったようだ。
記憶にはない。
バイトに行って猫を拾ってからどうしたんだろう……。

とにかく私は猫に導かれるまま現実に戻ってきたのだ。
外を見ると雪が降っていた。
今年初の雪らしい。

1日の奇跡

1日の奇跡

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-09-20

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