麦穂の憂鬱
猥雑な夜の某駅地下街で
濃厚な雲に覆われた空に月が浮かぶ
絡みあった人々の喧騒を無理矢理に引き裂いて
もうこの器には何も残っていない
数分で完成された世界は
五分後に僕の中で坩堝と化した
そうして幾千もの世界がこの身体を形作っている
量産された宇宙を喰らって一日が終わる
小さな世界の代償を払って我に返ると
僕を取り巻く下らない街の中へ
乱立する建造物が空を覆い月は見えない
クラクションと酔っ払いの戯言が耳を劈く
僕もそんな世界の構成要素に過ぎないのだ
麺を形作った莫大な麦畑に生える
ただ一穂の小麦のように
世界の胃袋に消えていく。
麦穂の憂鬱