麦穂の憂鬱

猥雑な夜の某駅地下街で
濃厚な雲に覆われた空に月が浮かぶ
絡みあった人々の喧騒を無理矢理に引き裂いて
もうこの器には何も残っていない

数分で完成された世界は
五分後に僕の中で坩堝と化した
そうして幾千もの世界がこの身体を形作っている

量産された宇宙を喰らって一日が終わる

小さな世界の代償を払って我に返ると
僕を取り巻く下らない街の中へ
乱立する建造物が空を覆い月は見えない
クラクションと酔っ払いの戯言が耳を劈く

僕もそんな世界の構成要素に過ぎないのだ

麺を形作った莫大な麦畑に生える
ただ一穂の小麦のように
世界の胃袋に消えていく。

麦穂の憂鬱

麦穂の憂鬱

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-09-18

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