二度目の春

例えばある始まりの日
苦しい時代を乗り越えて得た出逢いは
終わりもまた連れてくる
形あるものには終わりがあるように
形が無くても終わりはあるんだけど
そのときは永遠のように感じたんだよな
感じていたかった

ぐちゃぐちゃに散らかったあの部屋も
今は懐かしい思い出の中だけ
僕の部屋だって片付いてしまって
思い出の欠片も残されていないんだ

幻だったのかな
むしろそうだったらいいのにな

過去の幸せなんて消えてしまえ
今の不幸を際立たせる記憶たち
それらの消滅を望むには
それらは大きくなりすぎた

記憶を消すことなんてできないから

そうして寒い部屋から眺めた一本の枝垂桜
破裂しそうなほどに蕾が膨らんでいる
一年前にどんな気持ちで眺めていたのかなんて
もう忘れてしまったよ
だけど忘れたいことは忘れられない

だったらこの記憶も連れて行こう
一人の部屋で話し相手にでもしてやろう

気付いたら蕾が一つ開いていた
一人の人間の苦悩など知りもしないでさ

今年もまた、いつかと同じ春がやってくる

二度目の春

二度目の春

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-09-18

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