額縁の向こう

あおい はる

 わにさま。夜空を仰いでいるあいだに、あしもとの花が枯れていく。月が欠けて、次第に、この星の酸素は飽和して、意識が、炭酸水に浸かって、まぶたのうらで光がはじける。図書館でみた、あの、古生物の図鑑のこと。ああいういきものが、実在していた時代に、わたしはうまれたかった。きもちわるいって、きみは吐き捨てたけれど、でも、わたしたちだって、きっと、遠い昔、遥か未来のだれかからみれば、きもちわるい、かもしれない。もう、あとは、朽ちていくだけの、わにさま。かれのまわりだけ、セピア色に変わっていく。
 ふたご、ではない。分裂しただけの、あのこたち。ひとつが、ふたつになっただけのはなし。
 すこし気のはやいマカロニグラタンをたべながら、いま、いきている意味ではなく、これから、いきてゆく意味をかんがえている、きみの、左右の、まったくちがう造形のイヤリングをみつめて。
 おなじかお、おなじからだの、あのこたちが、わにさまのかたわらで、ねむりにはいろうとしている。

額縁の向こう

額縁の向こう

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-09-14

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