SS57 無言の帰宅
「行ってきます」と家を出た娘が無言の帰宅をした。
「行ってきます」と家を出た娘が無言の帰宅をした。
出迎えた父親の顔は強張り、母親のそれは紙のように蒼白になっている。
耳がおかしくなったのかと思うような無音が玄関を支配し、それは永遠に続くと思われた。
しかし……。
娘が「エヘヘ」と笑った。
仰け反った父親、母親の口からはヒィッと悲鳴が漏れた。
紫のトサカ。
鼻にピアス。
唇にもピアス。
捲れたTシャツの裾からも臍を貫いた金のピアスが覗いている。
くちゃくちゃとガムを噛みながら、忙しなくスマホを弄る指。
一時も止まることのない貧乏揺すり。
娘が再び少し引き攣ったように「エヘヘ」と笑った。
「これ、カレシ」
両親は揃ってくるりと背を向けた。
SS57 無言の帰宅