蒼茫

 ルル。だれかのなみだが、海になった。
 うまれた星しか知らないので、ぼくは。あたかもはじめから存在していたかのようにふるまう、ルルの、その、順応性というか、度胸というか、そういうのすごいと思うし、こわいなぁとも思う。
 ある夜に、あのこが、おおかみとともにこの街を去り、森が燃えて、灰となり、つりぼりのわにが、あのひととまじわって、ひとつのものとなり、ああ、世界は一夜で、こんなに変わってしまうのに、いつまでも、うしなったルルにとらわれている、ぼくは、変化を拒むように、せんせいがつくった図書室に閉じこもっていて、本ばかり読んでいる。どんな小説も、自叙伝も、図鑑も、詩も、ルル、という影を掻き消してはくれないけれど、さみしさは、まぎれるんだよ。あのこも、あのひとも、ルルも、街も、そして、この星でさえも、まあたらしいものとなって、いつか、ぼくのことを、わすれてしまっても。だいじょうぶ。呼吸をゆるされているということは、星はまだ、ぼくの存在を、みとめてくれているのだということ。

 きょうは、月がきれいで。

蒼茫

蒼茫

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-09-10

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