蒼茫
あおい はる
ルル。だれかのなみだが、海になった。
うまれた星しか知らないので、ぼくは。あたかもはじめから存在していたかのようにふるまう、ルルの、その、順応性というか、度胸というか、そういうのすごいと思うし、こわいなぁとも思う。
ある夜に、あのこが、おおかみとともにこの街を去り、森が燃えて、灰となり、つりぼりのわにが、あのひととまじわって、ひとつのものとなり、ああ、世界は一夜で、こんなに変わってしまうのに、いつまでも、うしなったルルにとらわれている、ぼくは、変化を拒むように、せんせいがつくった図書室に閉じこもっていて、本ばかり読んでいる。どんな小説も、自叙伝も、図鑑も、詩も、ルル、という影を掻き消してはくれないけれど、さみしさは、まぎれるんだよ。あのこも、あのひとも、ルルも、街も、そして、この星でさえも、まあたらしいものとなって、いつか、ぼくのことを、わすれてしまっても。だいじょうぶ。呼吸をゆるされているということは、星はまだ、ぼくの存在を、みとめてくれているのだということ。
きょうは、月がきれいで。
蒼茫