ヘラクレスの難行 邂逅

あめだま

エリクソンとキリエ(前世) ヨーロッパ編 

邂逅

Only people capable of deep love can experience deep grief as well.
深く愛することができる人のみが、深い悲しみを経験できる。

 キリエがその若者に出逢ったのは、夜の森の中だった。その時間帯の森を抜ける危険をわかってはいた。
それでもキリエは早く帰りたかった。家で妹が待っているし、叔父の家に連泊するのは気が引けたからだ。
叔父はせめて従者を付けてくると行ったが、叔母の冷たい目が怖くて断った。キリエは一人、愛馬のハンナに飛び乗って、夜の森を全速力で駆け抜けていた。完全に日が暮れるまでに森を抜けるつもりだったが、途中道を間違えたり、ハンナがバテてしまい休憩を取ったりして、予定は大幅にずれ込んでいた。だが、月明かりが明るいので助かった。もうすぐだ。広大な森を抜けられると。そこから、キリエの住んでいる村までそんなに距離はない。
 夜の森に盗賊が出るとか、魔物が現れるとか、村の人々が言っていたと思い出して、キリエは急に寒気がした。前方に小さく光るものを発見したのはそのときだ。松明の火ではない。動物の目?複数ある。キリエは速度を落とした。何か分かるまでは警戒を怠るべきではない。片手で腰に差していた短刀を握った。近くまで迫ったとき、複数の人が木々の下にいるのが分かった。光っているのは彼らの眼だった。人間ではない。人間の眼はそんなふうに光ったりしない。そう思った途端、
キリエは馬上から引きずり下ろされていた。背後から何者かに羽交い締めにされている。生臭い息が彼女の首筋にかかった。凍りついたように動けない。ハンナは無惨にもズタズタに引き裂かれていた。遺骸の上を何人もの人間に似て非なるものが群がっている。血を啜っているのだと分かって、キリエは自分も殺されて同じ運命を辿るのだと思った。ああ、神様・・・お助けください。キリエは目を閉じて祈った。今自分に起きていることがおぞましすぎて、耐えきれない。
 急に背後のモノが低く不気味な唸り声をあげた。場の空気が一転したのが分かった。次の瞬間、羽交い締めから急に解放された。何か弾け飛ぶ音が連発し、辺りに血生臭さが漂う。
「もう大丈夫だ」
 気がつくと、誰かが抱き起こしてくれていた。キリエが恐る恐る目を開けると、見知らぬ若い男だった。恐怖でまだ口が利けないキリエに立てるか聞いてくる。彼女は立ち上がろうとし、男も手を貸してくれようとする。だが、足に力が入らず無理だった。
「無理しないで。私が運んでやる。この近くに私が使っている小屋があるから、そこで休んでいけばいい。夜が明けたら家まで送っていこう」
キリエが頷くと、男は彼女を軽々抱き上げて、しっかりした足取りで歩いてく。感謝をしていることを伝えなければと思うが、キリエは声が出せなかった。
「君の言いたいことは分かっている。ただ、私は当たり前のことしたまでだから。今は無理をしては駄目だ。目を閉じて、心を安らかにするようにして。何も心配することはないよ」
 男の声は優しく心地よかった。キリエは目を閉じた。
 それが二人の最初の出逢いだった。

 青年はエリクソンと名乗った。寡黙な男で、それ以外は、一時的に森のこの小屋に滞在していることくらいしか話さない。年は二十歳過ぎくらいだろうか?明るい金髪に色白の顔立ちの整った若者だ。知的な話し方をし、身なりもちゃんとしている。特徴的なのは、左右の瞳の色が違ってることで、左がブルーで右がヘーゼル。どこか不思議な印象を受けるのはそのせいだろうか。キリエはその瞳を美しいと思った。
 最初の邂逅から彼女が彼に惹かれるのにそんなに時間は掛からなかった。命の恩人だし、彼は好ましい男性だ。一方の彼の方も、キリエに魅了されているのは確実だった。彼女を見る彼の表情はとても優しかったし、しあわせそうだった。

ヘラクレスの難行 邂逅

ヘラクレスの難行 邂逅

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-09-06

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