束の間の安寧

 よりかかったのは、いつものアルビノのくまではなく、しらないくまで、あ、どなたかしりませんが、よりかからせてください、とお願いしたら、しらないくまは、いいですよ、と答えた。迷惑そうではなく、もちろん、うれしそうでもなく、ぼく、という、くまからしたらしらないにんげんを、害はないだろうと判断したのか(もちろん、害をあたえるつもりは微塵もない)、邪険にはせず、ただ、きまぐれにうけいれた、という感じだった。三日前に、一頭のおおかみと交わり、森はすこしだけ、その表情を、雰囲気を変えて、アルビノのくまは怒り狂い、でも、ぼくをころすことはせずに、どこかへ出掛けたまま、帰らない。交わったおおかみは、朝になったら、消えていた。ぼくは、とつぜん、生きる気力をうしない、ぼんやりして、一日を過ごしていた。彼らに、生命を搾り取られたような、そんな無気力さで、ふらふらと森を彷徨い、背凭れにちょうどいいと、ちょっと休憩のためによりかかったのが、しらないくまだった。しばらく、ねむってもいいですか、とたずねると、くまは、かまいません、と言った。ありがとう、と、ぼくがおれいをしても、しらないくまは静かに、だまって、呼吸をしていた。背中に伝わる、息をするたびにふくらむからだには、妙な安心感があった。

束の間の安寧

束の間の安寧

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-09-05

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