記憶が吹き抜ける

ねえ、これはついさっき、
 私が不審に思うよりさき、
 だれか、夜風とまがう早口でしたが
 通りぬけざま、えらぶり、たかぶり、一席ぶった
 その響きがまだ消えやらぬのですが……

「聞け。今宵、よい目を見たくば
 風には身をさらさぬがよい。
 窓には、それが口を開かぬよう
 手痛く板をば打ちつけよ

這いよる夜の舌の下ばたらきが
 すきまをすりぬけ語りかけぬよう、
 今よりよほど今々しいという
 過去の禍根(かこん)が語りかけぬよう、

なぜなら、あらゆる記憶の奥底にすまう
 断罪の声は越えがたい。
 反証で勝負し、手掛かりを借り
 その手が仮に通用しなくば
 痛痒(つうよう)どころの話でなし

束の間いつかのまやかしの詩歌(しか)
 ぬけぬけ言い抜けられぬかだと?
 ぬかせ小僧め! せめて責め苦は
 いとわぬことだ。糸は抜けぬぞ
 だれの古傷の縫いあとからも

だから聞け。おまえの未来を来賓(らいひん)のように
 手厚く出迎えたいならば
 これが夢とはゆめゆめ思うな
 (おうな)の助言は聞くものぞ

さて、そろそろ
 目を覚ますのだ、
 そろそろと寝床から
 這い出すのではいけない。
 おまえは生き、
 ()きいきと暮し、
 そしていつかは
 死ななければいけない」


(2019/12/24 Tue.)

記憶が吹き抜ける

記憶が吹き抜ける

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-09-04

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted