『ヒーロー』

利用者M

なんだか不思議な気持ちだ。僕が君に手紙を書くのは。
できるなら最後まで読んで欲しいけれど無理強いはしない。
まあ、言っておいてなんだけれど僕は君がどうでもいい。
心底、どうでもいい。


君がある日突然死んでいても、まともに生きていても、そんなことはどうでもいい。
君がひりつくような悲哀に暮れても、激情に身を任せそうになっていても、小さな幸せに心が踊ることがあっても、君の人生は僕にとって関心が無い。
そんな僕が君に手紙を書いている。
不思議だよね。


僕は君を救わない。もっと言えば助けることさえない。
見守ることもない。
そもそもそんな資格は僕には無い。
君の人生への愛や敬意、そうしなければならない必要性さえ僕には一切無いから。
それでも僕は君にこうして手紙を書いている。
時間を割いて。
どうしてだろうかと、君は思うだろう。
そのささやかな疑念はできることなら持っていて欲しいけれど、すぐさま忘れてしまっても僕はかまわない。
そもそも君の存在の可能性に僕は期待していないんだ。
どうでもいいからね。


さて、かつて君が僕へと送った直筆の手紙の文章が今、僕のもとに2通ある。
君の、丁寧に書かれた字。
文章の流れも支離滅裂ではない。
自意識過剰で自身の欲望に忠実、他者へ配慮に欠け切羽詰まった衝動性。
君の文章は君の孤独だけをうたい、檻から放たれたがっていた。


僕は君をただ、理解する。
君の孤独の意味を理解することはないけれど。
孤独であろうという事実。そして、それを僕に伝えたいという思いは、理解する。
次に、これは弱さだと思う。
人としての、君の弱さだ。
それが君らしさという文章への、僕の評価だ。
そして僕はこうも思う。
君が文章に掲げた願いは叶わないほうが良い。
独りよがりな孤独を動機にしている願いはきっと、誰ひとり幸せにできない。


僕は君を、赦したり罰したり支えたり憎んだり、しない。
僕と君は他人だから。
少し似ているところがあるとしたなら君は孤独で、僕も孤独であるというところだろうか。
でも種類が違う。
僕の孤独は僕の所有物ではないんだ。
僕の孤独に捧げられるものは感謝なのかもしれない。
君には理解できないだろう。
個人的にはそれでいいと思う。
君と僕はこの手紙をもってもう交わることはないだろうから。


僕のことを被害者なんてただの他人である君が呼ばないでくれよ。
僕には名前がちゃんとある。
これが、君の傷が選んだ僕だ。
君を決して選ばない、僕の孤独だ。
そして、僕の孤独は君の弱さを笑わない。
君や僕に必要なのは正しさなんかじゃない。
報われることだ。
ふたりとも、報われること。


これが、君が僕に為した行いへの僕なりの答えだ。
君の周りに存在する、君を罰したり憎んだりせずに、支えて赦す人々に僕は敬意を表する。
今度は君が評価したらいい。
僕の文章を。
返事は、いらないよ。

『ヒーロー』

『ヒーロー』

ヒーローに倒されることを、化け物は待っている。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-09-02

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