夜想日記(未完)

夜想日記(未完)

夜想詩人

2022年9月2日、「8月」を公開しました。

8月

 濃く淹れたミルクティー。狐色のトースト、バターと粗挽き黒胡椒。生まれたての葉月は目映ゆい熱を帯びて。
/1日

 蝉も鳴かない暑さ。お水とお白湯を交互にいただく。小さなチーズタルト、眼鏡を曇らす紅茶。午後4時の光は、でも少し季節を先どりしている。
/2日

 生ぬるい風、しめやかな匂い、雷鳴。おへそを守る姿勢も、あながち間違いではないのだろう――周りに何もない場所では。幸い近くの建物に助けてもらい、やがて、蝉が鳴き始めた。
/3日

 稲妻に怯えた猛暑は鳴りを潜めている。雲の切れ間を窺いながら今日を進め、ひとときの静寂に心を休める。
 生姜の香る鶏肉のスープは午後へのグラデーション。よく煮込まれたお出汁の滋味深いこと。ほんのり効かせた黒胡椒のほど良いこと。
/4日

 電話が苦手だ。雷や地震と同じくらい苦手だ。苦手だが、必要なときには腹を括るしかなく、今日はそういう日だった。側から見れば大したことではないのは分かっているので、一人でひっそりこっそり労る。私は人が好きなのに、人が苦手なのだ。
/5日

 AIと短歌についてのお話を伺った。自然科学と人文科学の融合。何かと人間と比較されがちなAIだが、AIも短歌も人間の編み出した手段の一つ。もしAIによって短歌がつまらないものになるのならば、それは使い手に改善の余地があるということだろう。すべての手段は可能性を広げるためにあるのだから。
/6日

 何かと気が休まらない日が続いているので、のど飴とペパーミントティーで心身を労る。どちらも微妙な体調の変化に美味しく優しく寄り添ってくれる。あとはこまめに自分の身体と向き合い、凝り固まっているところは揉みほぐし、なるべく良い状態でいられますように、と願いを込める。
/7日

 季節は光から変わる。影が伸びるごとに哀愁を帯びて。なぜそこに秋を感じるのかは分からない。ただ変わらぬはずの蝉の声も、心なしか物寂しく。
/8日

 変わらないことのありがたさ。変わることのありがたさ。振れ幅が大きくなりすぎないように、でも多少の揺らぎは愉しめるように。珈琲を美味しくいただける体調に感謝しながら。
/9日

 同居している家族が流行り病に。幸い順調に経過し、無事に自粛期間を終えることができた。私自身は健やかであったが、気が休まらない日々。もう二度と御免である。
/10日

 シャインマスカットをいただいた。たったひと粒で虜になってしまったのは、もう5年以上前のこと。瑞々しく爽やかな甘みが口いっぱいに広がり、至福のひとときだった。あの日を超える感動には出会えていないが、いついただいてもちゃんと美味しい。本当に贅沢で、ありがたいことである。
/11日

 風が強い。台風が近づいているせいか、頭も痛い。朝は紅茶を飲みたいし、チョコレートには珈琲を合わせたいのだが、暑さで喉が渇きやすいので控えている。滞りのない一日というのは脆いものである。
/12日

 台風は厄介だが、おかげさまでだいぶ涼しいので紅茶を解禁。空は暗くても心は晴れわたるようである。低気圧のときは珈琲が身体に合わないので、こちらはもうしばらくお預けだ。
/13日

 嵐が過ぎ去った。何もない、ということの幸せ。伸びやかな心地。とっておきのアイスクリームに珈琲を添えて。
/14日

 暑いのは悪いことばかりではなく、暑いがゆえに目覚めが早いので心のゆとりができるのはありがたい。予定していた用事を順調に済まし、気持ちはとても涼やかである。
/15日

 ここ数日は体調が良く、心身の調整が上手くいっている。滞っていたことを一つひとつこなし、新しく習慣化したいことを始めてみる。元気なときの自分が積み上げたことは、困ったときの自分を助けてくれる。
/16日

 今日は少し多めに負荷をかけてみた。出先では充足よりも疲労が上回ってしまい、家に帰るだけの力を補給するために抹茶ラテを。幸い雨に降られることもなく、無事帰宅できた今は満ち足りた心地である。
/17日

 朝、土砂降りの音と頭痛で目覚める。
 昼、いつの間にやら晴れていた。
 夏の青の濃いこと。水で溶かす前の絵の具のような、逃げ場のない青色。秋の夕暮れは、紅葉は、きっとこの青の残像なのだろう。
/18日

 句点のない一日。息を吸うだけ吸って、霧散する着地点。要約できないのは近視眼的になっているからで、何もない一日もすべてに意味のある一日もありはしない。
/19日

 和らぐ暑さ。早まる日暮れ。眩ゆい季節が薄らいでいく。息をしやすいのは冬だが、生きやすいのは夏。一番好きな季節というわけではない。それでも、一番別れ際が辛いのは、夏である。
/20日

 夏の残響。虫の音の涼やかな色。夏の岸辺に腰掛けて足先を浸しながら、白い玉蜀黍をかじる。
/21日

 濃く淹れたミルクティーに、熱々のホットビスケット。小麦の風味を楽しみたいので、メープルシロップは控えめに。温かいものを美味しくいただけると、身体の調子を整えやすいので嬉しい。
/22日

 今晩はデザートにプリンをいただいた。たまごをしっかりと感じられる固めのものも好きだが、ふんわりなめらかなものも美味しく、甲乙つけがたい。今日はクリームたっぷりのとろけるようなプリンだった。
/23日

 心が荒むのは風に吹かれたからで、体が重いのは雨に濡れたからで、今が辛いのは日が沈んだからだ。朝が来れば忘れるようなことに、この身を浸す必要はないと言い聞かせる。
/24日

 自分のことではないのだが、とても嬉しいことがあった。ひっそりささやかに、ひとり喜ぶ。何でもないはずの日が、ほのかに華やいで。
/25日

 おうちで作る抹茶ラテは、抹茶は欲張らずに、お砂糖は恐れずに、ミルクは好きなだけ、溶かし混ぜる手間は惜しまずに、が一番失敗なく仕上がる。お店のものよりも円やかな美味しさ。
/26日

 お店に並ぶ品々が秋めいてきた。かぼちゃもさつまいもも大好物。栗だけがどうしても苦手で、それさえ克服できれば秋は無敵でいられるのに、と毎年思う。
/27日

 気圧の影響を受けてこわばる身体。どこを解せば楽になりやすいか最近はだいたい分かってきたので、こつこつせっせと揉みほぐす。何をしてもだめなときはだめだが、今日は幸い頭痛を回避することができた。
/28日

 離れて暮らしている祖父が高熱に。流行り病でも入院が必要なものでもなく快方に向かっているようなのは幸いだが、看病している祖母も疲れているようだし、二人とも高齢なので心配は尽きない。遠方で、しかもこのご時世であるので、文面でのやりとりしかできないことが悩ましい。
/29日

 珈琲は好きだが、毎日いつでも身体に合うわけではない。体調の良い日の午後にいただくのが、私にとっては一番美味しい。月の1/4ほどは珈琲を控える日が続くし、気圧の低い日なども避けている。だからこそ、珈琲が美味しい日は心底幸せで幸いなのだ。
/30日

 ひと月分、毎日綴ることができた。実は日記は昔から続いたことがなく、今回が初めてかもしれない。取り留めのないささやかな記録だが、記憶を手繰り寄せる一助にはなるだろう。
 ありがとう、葉月。また会う日まで。
/31日

夜想日記(未完)

夜想日記(未完)

2022年9月2日、「8月」を公開しました。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-09-02

Copyrighted
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