『select』

利用者M

優しく手を繋ぐことすら、ためらわれる。
朗らかに笑いかける唇すら、隠されている。
誰も彼もがなにかしら奪われている。


世界にヒーローも敵もいないことを僕たちはすでに知っている。
悲哀と憤怒を疑念で塗り潰し、嘘をつくりだしていくのも僕たちなら、ごまかしのきかない現実に圧倒されながら、自分らに託されたものをただ精一杯、護って日々生きているのも僕たちだった。


繋がりたいから寂しい。
解りあいたいから苦しい。
希望に気がついているから、恐れている。
未知の脅威はいともたやすく僕たちをあばく。


だからこそ僕たちは、僕たちの勇気を想像する。
混沌のなかでさえ芽吹くものがある。
僕たちのちいさな瞳に青空は咲く。
不安と恐怖をかきわけて、それでも春は来る。


僕たちは、世界には決してわからない孤独を、物語る。
黙ってそれを受けとめるのは、僕たち自身だ。
そうやって少しずつ強くなっていく。
僕たちはふたたび繋がれると、信じられるくらいには。


ヒーローに救われなくても、敵を倒せなくても、きっと良い。
僕たちは正しくはない。
だからせめて、間違っていない生き方をしていく。
ここから、僕たちは顔を上げる。眼は、ふせない。


繋ぐ。世界を絶たないために。
助ける。きみと触れあえなくても。
変えられる。僕は僕を。
僕たちは選択する。
思い通りにならない、この世界のなかで。

『select』

『select』

決めた。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-09-02

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