高野そくらの選句集 1998

高野そくらの選句集 1998

はじめに

 グランパの書斎で万田竜人なるペンネームでの作家活動を行っている
お元気ぶりを拝見、グランパは小説への取り組みだけでなく、俳句にも
取り組んでいることを知り俳句仲間と俳句交換に興じている様子も拝見、
お仲間との交流はインターネット上に設けた句座で四半世紀(25年間)
も続いていると云う。

 私も大学生になってから俳句を始めておりグランパのパソコンを借り
て俳句同人衆に混じって、皆さんが句座に投稿された俳句を真似て投稿
を試みた、主宰の方が予想外の反応をされて、今度、俳句を寄せて下さ
いと誘われたが、それよりも四半世紀に及ぶグランパの投稿俳句に興味
が湧いて、私の好きな俳句を選句してみたいという興味が湧いた。

 そこで、先ずは、序章として、1998年からの投稿句についてそれ
こそ発句とも云える俳句から選句をさせていただくことにしよう。



【序 章】 1998年

001   小さくも胡瓜の形花付けて
            
            早稲田大学のオープンカレッジで日曜俳句
            講座に学んで初めての投稿だという

002   武蔵野路小鳥紫陽花夏野菜
            
            通勤途上で観る夏の光景を漢字だけで句に
            してみたかったのだという
 
003   万緑の木漏れ日近し梅雨の朝
            
            梅雨明けを予感させるとても気持ちの良い
            朝だったという

004   満天星に蜘蛛の巣張りて梅雨の玉
            
            満天星と書いてどうだんと読むと知り蜘蛛
            の巣に張った繊細な水滴を句にしたかった
            のだという(グランパの饒舌には驚き)

005   父親とバージンロード百合の花
006   主の言葉うなずくうなじ夏化粧
007   母親に物腰の似ておじぎ草
008   デザートのメロンが知らす夏の宵
            
            職場の後輩の結婚式ではあったが、やがて
            次女の結婚式を控えていて、予行演習には
            最適の結婚式であったという

009   炎昼やハンバーガー店に若き列
            
            東京都内で若者文化に圧倒されたという

010   隣家よりメロン戴き香りたつ

            伊豆高原でレストランを経営されている息子
            さんからの贈り物のお裾分けだという

011   飼い犬の裾を刈り上げ衣替え
012   打ち水の音に飼い犬逃げ回る

            飼い犬の名前はシェリー(シェルティ犬)で
            夏向けに五分刈りにしたばかりという

013   朴咲くやつがいの鳩の雨宿り

            庭先に鳩がつがいで頻繁に訪れるのだという

014   梅雨空にひよどりの声澄み渡り

            耳の中にアルファ波として届くような特徴的
            な鳴き声であったという

015   婚礼の行列に風夏木立

            明治神宮で英会話研修をしているときの体験
            で外国人が歓喜して撮影していたという

016   飼い犬や生き活きとして薔薇を嗅ぐ

            近郊の智光山の薔薇園を飼い犬との散歩がて
            ら見学に行った時の光景だという

017   菖蒲園行き交ふ人の夏衣

            智光山には、菖蒲園も併設されているという

018   嫁ぐ娘の笑顔眩しく風薫る
019   テーブルに紫陽花飾り披露宴
020   シャンパンを注ぐ花婿五月晴

            グランパが待ちに待った次女の結婚式、この
            二人の間に私が生まれました

021   奥入瀬散策の道風涼し

            十和田湖周辺の散策は変化に富んでいて楽し
            かった様です

022   中尊寺能楽堂に蝉の声

            松尾芭蕉の俳句研究のため東北の旅には三年
            連続通った様です

023   食卓に枇杷を飾りて上州路

            群馬の実家を訪ねた時の光景、弟さんが両親
            と暮らしてくれていたようですがグランパは
            車の運転が苦手で親不孝を嘆いていました

024   刈り込みの終りし庭に蝉の来る

            蝉は上空で観ているのかな?といってました

025   夏の朝いろとりどりにポーチュラカ

            同じ職場の女性が花好きで、毎朝早出をして
            駐輪場の脇に花を咲かせていたという

026   馬車で行く湖畔の木陰涼新た

            群馬県榛名山にバスハイク、自由時間に馬齢
            15歳(人間なら60歳)の馬車に乗っての湖畔
巡り、馬も定年と聞き背中を撫でたという

027   夏の朝インターネットで道探し
028   炎昼や駅前の地図確かめて
029   大通り都会の風に秋近し
030   大学の門閉ざされて夏休み
031   目印の本屋のクーラー良く冷えて
032   辿り着きアイスコーヒー飲み干して
033   カレーライス中辛にして夏料理
034   夏の日のコーヒー味に抹茶感
035   日の盛りビル風に沿い歩を進め
036   イギリスの二階建てバス炎天下
037   緑陰や営業マンの涼求め
038   日除けした喫茶店からコーヒー香
039   銀行で汗拭いて待つカード手に
040   茶碗蒸冷やして食す夏座敷
041   愛用のカバン抱えて夏の夜
042   扇持ち外で待つ客入れ替わり
043   俳人や五百人もの夕涼み
044   福耳を赤く染め上げ夏の宵
045   外国人汗かいて描く三行詩
046   白ワイン飲み干してメロン食む
047   大句会主宰の汗もデジカメに
048   新人賞眩しさの中夏終わる
049   俳句やる百歳までも夏よ来い

            夏休み中の都内散策で、味わうことの出来た
            体験をスケッチ感覚で描いてみたそうです       

050   竹の春隣家に伸びし根から刈る
051   葛花や歳時記で知る秋の花
052   二階から見下ろす芙蓉朝は白
053   栗飯に小豆を入れて我が女房
054   Eメールながら族して梨食らふ

        早稲田大学オープンカレッジの日曜俳句講座
          高橋教授が主宰される俳句誌「海」への投稿
          句だそうです
          どういう経緯かは分かりませんがこの頃から
          秘書の方を通じてグランパは大金持ちと主宰
          から勘違いされていた様です

055   曼殊沙華百万本華白一輪

          近郊の曼殊沙華の名所に出掛けた時の印象を
          白の衝撃として残したようです


056   秋茄子や頬に広がる旬の味
057   待宵は月の明かりと夕焼けと
058   十五夜は雲間の月となりにけり
059   酔芙蓉野分の朝は紅と白
060   運動会スピーカーの声天高く
061   時の鐘に明かりが灯り秋惜しむ
062   行く秋の小江戸の街に人の波
063   薩摩芋大きさ揃え店先に

            同人誌「海」(主宰:高橋教授)に投稿して
            採用された俳句を並べてみたようです

064   にごり酒ろれつまわらぬ二三人
065   新米や魚沼産を買ふて炊く
066   新米を二合半炊きまだ余る
067   秋霖や行ったり来たりアンブレラ
068   銀杏や枝にたわわに黄色帯び
069   通草(あけび)の実スプーンでしゃくる白果肉
070   酔芙蓉紅を帯びしが恋模様
071   紅鱒や宙に踊りて竿しなる
072   カヌー削る木の香りする湖畔秋
073   十月のはじめの月は男顔
074   栃の木やわれ一番に初黄葉
075   十並び体育の日に登山会

            秋は俳句の豊作期なのでスケッチ風に寄せ書
            にして並べてみたのだという

076   松茸を丸かじりして食堪能

            食べながら夢ではないかと思ったのだという

077   木枯らしや飼い犬部屋にうずくまり
078   山あいに月出でて山眠る
079   仕事場は宇宙の色紙秋深む
080   宙に浮くテニスボールや冬うらら
081   今朝の冬髭剃り後に風染みる
082   行く秋や信号待ちに月仰ぐ
083   みかん剥く手に飼い犬の眼釘付け
084   葡萄畑一面紅葉の海
085   吊り橋の向こうの山に紅葉茶屋
086   山越えて紅葉の色更に濃く

            仕事場は宇宙の色紙は、最近、宇宙から帰還
            したばかりの向井千秋さんの手書きによるも
            ので家宝にしているとのこと

087   紅葉路星狩りのひと大渋滞

            当日は星の良く見える山間部から都心部まで
            が大渋滞で帰路に困った方々が大勢居たとの
            ことでたいへんだったようです
           (グランパはテレビで堪能したとのこと)

088   庭先の満天星紅葉今盛り
089   酔芙蓉朝方少し紅を付け
090   秋の陽にベコニアの葉の照り返り
091   文化の日に葉牡丹三つ植えにけり
092   連山の紅葉燃ゆる奥秩父
093   黄葉の山ふところに滝の糸
094   堰の音近づくほどに肌寒し
095   初時雨飼い犬の待つ帰路急ぐ
096   暖房のスイッチ入れし今朝の冬
097   雨上り陽光眩し冬の朝

            文化の日に葉牡丹を三つ植えたのは奥さんと
            のことで俳句の題材において随分助けられて
            いるようです

098   花豆を買ふて信州の秋を知る
099   冬林檎乳首歯む児の泣き止みぬ
100   サンタさん冬ざれのなか缶コーヒー

            当時は旅先で紙へのメモからザウルスの機器
            への書き込みに挑戦、さしずめタブレットの
            前々世代のものだそうです

101   冬の蜂パソコンに降り逃げもせず
102   鮭雑炊熱さ冷ましに洋梨酒

            この頃は鮭雑炊がマイブームだったようです

103   行く秋や添乗員のチェックマーク
104   岩肌にすぐ手の届く冬近し
105   はらみ犬日向ぼこして耳を掻く
106   線香の煙を浴びて冬うらら
107   手でさする仏擦り減る神無月
108   境内の照紅葉にシャッター頼まれ
109   饅頭手に冬菜をつまみお茶を呑む
110   冬菜漬け買ふて定刻にバスに乗る
111   牛に引かれての民話を聞き冬走る
112   人の列冬の闇に向け牛歩

            善光寺の旅はバスは高速走行で善光寺構内の
            参拝は牛歩であったようです

113   我が家にはいつも南瓜のある風景
114   スマッシュのボール見上げる冬の空
115   打ち下ろすボール飛び込む冬木立
116   柚子の砂糖漬け食んで絶好調
117   年よりも若いといわれ万年青の実
118   風もなく勝気も捨てて冬うらら
119   飛び交いしボールの近く冬の鳥
120   長トレも短パンも居る冬ぬくし

            久々のテニスだが絶好調でスマッシュが決ま
            ると俳句が浮かぶという好感触で月曜日から
            の業務過密にも好循環を持ち込めたという

121   参拝の頭上をかすめ冬の鳩
122   差向い山菜蕎麦にとろろ蕎麦
123   紅葉背にタイマーかけて走り寄り
124   千曲川流るるままに冬ざるる
125   林檎狩り知らぬ人とも笑み交わし
126   冬の鳥啄む林檎いと甘く
127   林檎の尻をひょいと持ち上げて採る
128   露天風呂初雪の降る旅の宿
129   あんず酒と缶ビール抱えて雪見
130   旅の宿山懐に抱かれ寝る
131   冬の朝露天の風呂の熱きこと
132   今朝の味噌汁玉ねぎの美味きこと

            冬の信州の旅を満喫しての投稿だけに気持ち
            が先走ったという感想があった様です

133   諸鳥や林の中を枯葉の舞い

            枯葉にしては、不自然な動きが視界に入って
            良く見ると、小鳥たちが枯葉を真似て林間で
            遊んでいる光景を目にしたとのことです

134   朝焼けの東の空に冬の雲
135   南窓の銀杏黄葉や陽の透けて
136   脱サラの友を囲みて忘年会
137   クリスマスツリーの下で音楽隊
138   冬の鳥もつれるやうに二羽で飛ぶ
139   生牡蠣をコンロで焙り白ワイン
140   冬木立飼い犬と行く散歩道

            早稲田大学オープンカレッジの日曜俳句講座
            高橋教授主催の俳句誌「海」に投稿した俳句
            を並べてみたそうです
           (グランパの絶頂期だったかもしれませんね)

141   船盛に新潟紅葉添えてあり
142   馬刺し食む恐る恐るの試食せり
143   秋の小布施に銀色のビートルズ
144   栗ソフト巨峰を載せて秋寒し
145   信州のおやきを割って熱冬菜
146   安曇野から雪のアルプス連峰
147   姥捨ては覗けど雪の最中なり
148   旅土産広げて夕餉秋暮れる

            信州うまいもの巡りのツアーに参加、連日が
            食べまくりであったという

149   冬ざれもテニス日和に変る午後
150   冬ざれの兼題に違和感走る

            地元の句会に参加しての忘年会、宿題として
            冬ざれが次回の句会の兼題として出され困惑
            が続いた時期、はじめてのスランプに陥った
            状態だったのかもしれませんね

151   冬の月郵便局の遅くまで
152   火の番の拍子木の音懐かしく
153   冬の夜いまどきは不夜城の増え
154   冬至には南瓜を食し柚子風呂に
155   年用意の段取りに家内動く

            年賀状は24日頃までと云われ月を眺めながら
            郵便局に行ったら大きな賀状袋を持った局員
            さんが迎えてくれて感動したのだという

156   鯛一尾買ふて息子の帰省待つ
157   スーパーの特設コーナー凧が占め
158   五十路越え優しさ増して春支度

            グランパと一緒に暮らして居て長男の帰省は
            母親として格別な喜びだという

159   消防車市内巡回年の暮
160   半分の月観て感謝年の内
161   神戸牛頬張りながら年惜しむ
162   明太子舌鼓打つ年の暮

            帰省子は明太子を母親は神戸牛をそれぞれが
            好物を知り尽くしているのだという

163   街中が大渋滞して年用意
164   大柚子に指先触れて固きこと

            年内の大方の用事を済ませてホッとしたのが
            大晦日だったという

165   キッチンに蒸気が走る大晦日

            奥さんの手作りの料理が、次々と仕上がって
            行く光景を詠んだもので俳友からも絶賛され
            た俳句だという



【選句にあたっての感想】

 グランパがインターネット上に投稿を始めたのが、1998年であり
実際には 1995年に早稲田大学のオープンカレッジ日曜俳句講座で
俳句を学び始めて、講師の高橋教授が発刊されている「月別歳時記」を
購入して、高橋教授主宰の俳句誌 「海」への投稿や都内での句会にも
参加しており、この四年間の結集が 1998年に集大成として集合し
たということであり、単年度での評価ということにはならない。

 その点、これから先の年ごとの選句を進めるに当たっては1998年
ほどの充実感は期待してはいけないと考えている。

 1998年の作品群についても 「ラフなデッサン」といった印象が
強く、さらに推敲を重ねたい作品も散見されるが、グランパの気質から
云って、これを超えた推敲や練磨は無理と推測する。
(人間学的には性格から来るものでその長短は決め付けられない)

(次は1999年に続く)

高野そくらの選句集 1998

高野そくらの選句集 1998

  • 韻文詩
  • 短編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-09-02

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