夏の逢瀬
柩みたいな、かたい箱のなかで、めをとじて。夏をやりすごす。
海は、昼中のざわめきにつつまれ、しろくまは煩わしげに、両手で耳を塞いでいる。わたしは、はんぶん虚ろな存在となり、本体が眠っている冷凍室からぬけだして、いまはまだ、しろくまのとなりで、ちっともやわらかくならない日射しをまぶしいと感じながらも、このからだでいる以上、変わることのない、一定の体温のまま、海での、刹那の再会を眺めている。たくさんの、不特定多数のこどもたちと、遥かに広大な、ひとつの母。
蝉の、個体のおわりに、秋の気配を嗅ぎとり、しろくまは憂鬱さをかくさない。
「もうすぐ私も、私ではなくなる」
知っている。
わたしは、うすぼんやりしている、じぶんの、たよりない掌をみつめて、夏だけのきみをつなぎとめられない近い未来を想い、ふるえた。
夏の逢瀬