夏の逢瀬

 柩みたいな、かたい箱のなかで、めをとじて。夏をやりすごす。
 海は、昼中のざわめきにつつまれ、しろくまは煩わしげに、両手で耳を塞いでいる。わたしは、はんぶん虚ろな存在となり、本体が眠っている冷凍室からぬけだして、いまはまだ、しろくまのとなりで、ちっともやわらかくならない日射しをまぶしいと感じながらも、このからだでいる以上、変わることのない、一定の体温のまま、海での、刹那の再会を眺めている。たくさんの、不特定多数のこどもたちと、遥かに広大な、ひとつの母。
 蝉の、個体のおわりに、秋の気配を嗅ぎとり、しろくまは憂鬱さをかくさない。
 
「もうすぐ私も、私ではなくなる」

 知っている。
 わたしは、うすぼんやりしている、じぶんの、たよりない掌をみつめて、夏だけのきみをつなぎとめられない近い未来を想い、ふるえた。

夏の逢瀬

夏の逢瀬

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-08-23

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