黒髪

 いわせてください あなたの黒髪は美しい、
 すと一途に垂れこむ艶の翳 まるで清む湖へ往き着くよう、

 その水音しずかに立てるような 潤う光のうつろいは、
 暗み辷らせ舞踏させ、滴の反映と毀し落つるようでありましょう。

 たとえば春の柔らかな風 一条一条にリズムをふるわせながら、
 淡いヴァイオリンの音楽 滔々と、彼方の風景へそそぐことでしょう、

 たとえば夏の炎ゆる陽射 風に波うつ一房は、鏡の如くそれ映し、
 ひたむきに「あなた」を生きた証は、刹那久遠を照らし燃ゆるでしょう、

 たとえば秋の木々の翳 揺れるふっくらとした髪は翳りに飾られ、
 陰翳の美さらし墜落をする柘榴こそ あなたの情愛の真紅な贈物でしょう、

 たとえば冬の積雪のうえ 静謐な雪に映える青みのかかったその肌に、
 守りつづけた約束さながら、水音零す黒髪は清んでいるのでありましょう。

  *

 いわせてください わたし、独りで湖へ向かう片恋詩人、
 いわせてください わたし、あなたの「あなた」が好きなのです。

黒髪

黒髪

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-08-23

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