浸食する夜
花がひらいた、夜空に。
どこかの惑星からの電波もとどかないまま、鉄塔が溶ける様子を眺めて。咲いて、一瞬で散る儚さに愁いを抱くのは、にんげんだけではないと語る、釣り堀のわに。この街で、日々、粛々とおこなわれているのは、非人道的な行為だと、気づいたときには、街のひとのほとんどは、狂っていたね。いまさら、と、わにが嗤い、ぼくは、なにも言い返せないで、ただ、溶接されたみたいに溶けてゆく、鉄のかたまりをみている。てをのばしても、さわれない、無数の花を背景に、なにかの、ことばにはしがたい、なにかひとつのおわりのように、高く、そびえ立っていたものが、くずれていく。
わにが云う。こういう日には、きんきんに冷えたビールを飲みたい、と。
ぼくとわにがいる釣り堀のむこうでは、きょうも、だれかが、だれかを、黒く染めている。
浸食する夜