暗転
まだそんなくだらないことに囚われているのか、と声がした。まだそんなつまらないことに拘っているのか。
ああ、じきにお前も己のようになるよ、と声に出さずに応えた。精々嗤っているがいいさ。
翳りを捕えたのはいつだったろう。それは己に捕えられる前からそこに在り、冷然としてそこに在り、頑なとしてそこに在った。
それは次第に勢力を増していった。勢力は増すことはあっても、減じられることはなかった。
減じられるのは己の記憶か。記憶、苦痛、正気、これらが同義であることが判らない人間を己は相手にしない。
記憶は偽りであればあるほど好ましい。尤も、翳りは記憶の虚実を問題にしない。
生き延びる為にお前は偽れるか、と声がした。お前は生きたことがあるのか。
暗転、それは翳りが空を覆い尽くすのか、己が眼を閉じているだけなのか。
将又、それらは同義なのか。
暗転