夏の影
望まれたままに、あいしていたひとの瞳が星となり、はじけた。夏は、肺と、心臓を傷つけないように、すきまをぬって、熱をさしこんでくる。
焦燥すらも焼きつくして。
あのこが、学校の青いプールでみた、きみのまぼろしは、はかなげにゆれる蜃気楼よりもさらにたよりなく、はんぶん、透明だった。光をうしなったあのひとが、彼の頭蓋骨のひたいに、くちびるをつける。わたしのうえでは、夏をつかさどる怪物が、すこしずつ衰えてゆく肉体で、それでもいまは、餓えた獣の如く、必死に、生にしがみつくみたいに、律動をくりかえしている。
果てには、ある種ひとつの、世界の終幕があって、そしてまた、新しい世界の幕が上がり、わたしたちは、ぽろぽろと、ぽろぽろと、たいせつなもの、どうだっていいもの、あらゆるものを、とりこぼしながら、短命の小宇宙に身を寄せるのだ。
夏の影