夏の影

 望まれたままに、あいしていたひとの瞳が星となり、はじけた。夏は、肺と、心臓を傷つけないように、すきまをぬって、熱をさしこんでくる。
 焦燥すらも焼きつくして。
 あのこが、学校の青いプールでみた、きみのまぼろしは、はかなげにゆれる蜃気楼よりもさらにたよりなく、はんぶん、透明だった。光をうしなったあのひとが、彼の頭蓋骨のひたいに、くちびるをつける。わたしのうえでは、夏をつかさどる怪物が、すこしずつ衰えてゆく肉体で、それでもいまは、餓えた獣の如く、必死に、生にしがみつくみたいに、律動をくりかえしている。
 果てには、ある種ひとつの、世界の終幕があって、そしてまた、新しい世界の幕が上がり、わたしたちは、ぽろぽろと、ぽろぽろと、たいせつなもの、どうだっていいもの、あらゆるものを、とりこぼしながら、短命の小宇宙に身を寄せるのだ。

夏の影

夏の影

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-08-21

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