僕だけの英雄譚
週一のペースで更新していけたらと思います。
おそらく受験が終わればペースと量も早くなっていくと思います。
第一話 始まりのゲーム
僕の学校ではある家庭用ゲーム機が発売されてから僕含めてゲームブームが起こっていた。毎日、友達と休み時間に集まってはどのゲームをクリアしたやどのゲームが面白いらしいとかゲームの話で連日盛り上がっていた。
しかしながら友だちの話しているそのゲームを全員を持っている訳ではなく、ゲームの為に何本も買い揃える資金を持っている人はいなかった。そこで僕達はゲームの貸し借りを友だち同士で頻繁に行っていた。そうすれば皆が色んなゲームをする事が出来て話の幅が広がると言う事で仲間内での反対など誰も言わなかった。そして始めこそそのゲームを買う目安程度だったのが、今では友だちの持っているゲームと被らない様にするための目安に変化していた。
そういった中で僕も交換する為のゲームを探しに近所のゲーム屋へと自転車を走らせていた。その道のりの間はいつもドラクエの様なRPGを買おうか、それともマリオの様なアクションにするか、悩みながらペダルを漕ぐ。その悩む時間もゲームの醍醐味だ。たとえ面白くなかったとしてもそれをプレイするまでのわくわく感、あれほど心地よいものも滅多にない。それこそゲームをやっている時と同じくらいにわくわくするのだ。たくさんのゲームを買えないからこそ味わえる感情でもあるのかもしれない。そんな事を考えつつ、僕は早く現物で品定めをする為に更にペダルを強く踏みしめた――。
ゲーム屋を意気揚々と退転した僕の腕には袋に詰められたゲームがあった。そのゲームは僕が元々欲しかった忍者龍剣伝のソフトが入っていた。ゲーム屋に入りこのゲームを見つけた時、神様からの贈り物かと思ったくらいだ。しかも、中古ソフトだったからか新作を買う金額の六割程度で買う事が出来たのだ。余ったお金を次に回す事が出来る。子どもである自分にとってこの事程うれしい事はなかった。そして買ったゲームを早くするために時々使っている人の余り通らない道で帰っていた。人がいないのでスピードを出しやすいのだが人攫いがでた事があるので大人たちには利用しない様にと言われていたがそんな事、今の僕は気にも止めていなかった。
その途中で僕は雑貨屋の様な個人商店を見つけた。田んぼの間にぽつんとあるその商店の立て看板には『ゲームソフト入荷!』と書かれていた。怪しさ満点だったが異質ながらも何か心を引き付ける魅力と言うものがあった。危険に感じればすぐに逃げ出せば良い、そう思い自転車に鍵を掛けずに降りて中に入った。
店内は意外と涼しくロボットの玩具や文房具、小物入れそしてゲームソフト、雑貨屋としても統一感が無かった。ゲームソフトを見てみるとボンバーマンの隣にファミスタ、スウィートホームと言う名のゲームなどやはり統一感は無かった。ゲームソフトを見ている内に後ろで水が勢いよく流れる音が聞こえてきた。振り向くと小部屋から厚手の服を着た三十代くらいの男が出てきた。今は夏なのに着ている服装は冬そのもので不気味だった。その男が僕に気付くといきなり話しかけてきた。
『そこの君、今って何年だ?』
たいそう不思議そうにしながら僕に質問していた。僕はその質問に答えつつ、その男への質問を割り込ませた。
『一九八九年ですけど……。おじさん、どうしてこんな所に店を構えているの。しかも夏なのにそんな格好だし』
その男の人は一旦外へと出て周りを確認した後、戻ってきて小考し始めた。その間もちらちらと僕の方を見ていた。そして、点と点とが繋がったのか、再び僕に向かって話しかけた。
『私の世界では今は冬だったんだよ。この店はその世界に順応して形を変えるはずなんだけど転送機能には不備があったっぽいな。辺鄙な場所に出てしまった。でも、目標にはしっかり会えている様だしその辺は優秀なのかな』
何がなんだかさっぱりだった。多分、頭がおかしい人なのだろう。しかし、逃げようにも道を塞がれているので逃げる事も出来ない。幸福の後には不幸がやってくるらしいがその通りになってしまった。僕は何故あの時立ち寄ってしまったのだろうと後悔の念を振りまいていた。
『信じないのが当然の反応だけどね。でも、君に今危害を加えようってわけじゃないんだ。一つ頼みを聞いてくれたら直ぐに家に帰すつもりだから。お願いするよ』
そう言って僕に対して頭を下げた。何をするつもりかも分からない人のお願いなどろくなものではないと分かっていたがが他に手を思いつかない今、どうする事も出来なかった。僕は何事も起こらない様に祈りながらその男の言葉に頷いた。
『よかったよかった。頷いてくれなかったら何しようかと思っていた所だったよ。実はこのゲームをクリアして欲しいんだよ』
差し出されたゲームの箱には「only your tale」と書かれたファンタジーもののRPGらしき絵が書かれていた。
第二話 おじさんの物語
手渡されたゲームに僕は呆然としていた。もちろん、何か卑猥な事をされるのかと思っていたのもあるが意味が分からない事を発言していたその男が何の目的でこのゲームを渡してきたのかも理解できなかったからだ。
『これ、なんなんですか?』
僕がその男に問うと何食わぬ顔で告げてきた。
『見て分かる通りゲームソフトだ、私が作ったゲーム。このゲームにはある世界に繋がっているんだ。その世界は科学の代わりに魔法が発達していて魔物と人類が対立して住んでいるんだ。その世界には伝承があるのだよ。魔物を束ねる指導者が現れ人類に戦いを仕掛けてくる時、タ世界の勇者様が現れて魔王を打ち倒してくれるって言う伝承がね。でもその時は魔王が勢力を伸ばし始めた時に勇者様は現れた。そして、勇者様は負けてしまったんだ。魔王軍の軍勢の前にな。私はある人の命より禁忌の力を使って違う世界に飛び、時間を逆流させる術を手に入れた。しかし、その術でも魔王が現れるのと同時には出来なかった。因果律の原因を潰す事は出来なかったんだ。絶対に魔王は誕生する。そして、勇者様は一定の時間が経つまで出現しない。だからこそ、私は伝承に乗っ取って勇者様をこの世界に引き込む方法を考えた。その一定の時間を数え、最も最短になる時間をこのゲームへと刻み込んだ。勇者様が少しでも経験を積める様にして、勇者様が魔王に勝利できるようにする為に。そして、勇者様が死ぬ可能性を減らすためにな』
その男がこのゲームのあらすじを話している事は分かった。それは紛れもない作り話であったが、嘘を言っている様に思えない、その話を信じてみたくなる物語ではあった。だからか、僕はその男に更に質問をぶつけて話を聞いてみたくなった。更に僕はその男のそのゲーム独特の雰囲気の話を聞いてみたくなった。その時の僕の感情にその男への恐れは薄れていた。
『それじゃ、何故僕の所にやって来たの?さっき外を見た事とか、何かを確認している様だったし』
それを聞いた時、その男は言うのを一瞬躊躇った。しかし、頭を振り話をまた話を始めた。
『実は私が此処に来れたのはこの世界よりもずっと科学の発達した世界の力なんだが、君の元に来れたのは勇者様の元の世界の所持品をたどってきているんだ。つまり、私が此処に飛ばされ君の前に現れたと言う事は君から私達の勇者様と同じ力が宿っていると言う事なんだ。だからこそ、君にしかクリアする事が出来ないゲームだからこそ頼んだんだよ』
そこまで聞いて僕はすっかりその男に対する恐怖心など無くなりこのゲームのあらすじから買って来たゲームよりも先にこのゲームをやってみようという気になっていた。僕はその男の手を握って、今の率直な気持ちを言葉にしていた。
『わかった。きっとこのゲームをクリアしておじさんがこんな事をしない様にして見せるから。おじさんの大好きな世界を必ず救って見せる!』
その勢いのある率直な言葉がその男の心に届いたのか、大の大人が涙を目に溜めていた。
その男に見送られ外に出ると青い空が広がり、真っ直ぐな一本道が映えて見えた。僕は自転車に飛び乗り、その男の方に向かい合って親指を空の方に上げて、グットラックの動作をした。
『クリアしてまた此処に来るから、絶対にまた此処で会う約束だよ』
その男は少し驚いた顔をした後、同じようにグットラックの動作をして
『この世界からこの動作はあるんだな。ああ、約束しよう。またきっと会える』
と満面の笑みを見せた。それを見た僕はペダルを此処を見つけた時よりも強く踏みつけた。タイヤは地面としっかり擦れ合い、前に進みだした。そして、もう一度その男の方を向いて手を振った。その男は手を振り返しながら口を小さく動かしていたが、僕はもうその声が聞こえなかった。
家に着くと手洗いとうがいをして、台所からジュースを持ち出して、自分の部屋へと入った。そして、自分が買った忍者龍剣伝より先に男がくれたゲームの箱を取り出した。やはり何の変哲もないRPGであったが、男の話で盛り上がっていた僕は先にそちらをする事を決めていた。ソフトを取り出しゲーム機に差し込む。そのわくわく感は今までやってきたゲームのどれよりもわくわくさせた。男のあの話術に感謝して、神妙な面持ちでゲーム機の起動させた。その瞬間、テレビが今まで見た事もない程の光を発した。僕はその突拍子の無い出来事に仰天し、同時にその光に耐えられずに両腕を交差させて目への光を遮った。依然として光は強まっていった。
光が徐々に収まり始めたのが分かると僕は交差させた腕を少し上に上げ周りを見た。そこは僕の部屋ではなく、頭上から光が差し込み、壁は石を削り装飾していた。少なくとも僕はこんな場所に一度も来た事は無いと悟らせた。
僕だけの英雄譚