常冬の惑星(第四話)
常冬の惑星第四話をお届け致します。今回は主人公のコテージにある女性が訪れます。私の小説にはよく登場する人物です。お楽しみに!
第四話
「常冬の惑星」(第四話)
堀川士朗
風雪が落ち着いたある日の昼。
僕のコテージに一台の車がやって来た。
女性が一人乗っていた。
以前の予感は的中したんだ!
僕は中に入れてやった。
もう独りぼっちも飽き飽きしていたところだったからだ。
女性は名前をティチヴァン・ミュノリと名乗った。
背の高い人で若くてプロポーションも良い美人だ。
僕はミュノリにコーヒーを淹れてやった。
コーヒーと紅茶は栽培していない。前社会で手に入れた大量のストックで毎日飲んでいる。
きっと独りで飲んでいても、一生飲みきらないんじゃないかな。
彼女はあたたかい飲み物を大事そうに愛おしそうに飲んで息を吐いた。
カップから湯気が立っている。
コーヒーはお湯を完全に沸騰させてから淹れるとより美味しくなるんだって。
今日からミュノリと僕は二人暮らしとなった。
ミュノリは、僕が作る料理を美味しそうに口に運んだ。
「これはこのコテージの地下牧場で育てた牛と豚だよ」
と僕が言うと、ミュノリは少女みたいに驚いて肉を咀嚼して微笑んだ。
僕はミュノリをお風呂に入れてやった。
慣れてくると二人で入るようになった。
たっぷりの泡でからだを洗ってやる。
よっぽど苦労したのだろう。ミュノリのからだは全身が古い傷痕だらけだった。
でもそれは決してグロテスクではなく、美しい痕跡のように僕には思えた。
ミュノリは太陽が活動をサボってからの十数年をどうやって生き抜いてきたか、あまり多くは語らなかった。
僕は興味があったのだけれど、多分軍の施設か要塞ラボに居たんじゃないかな。
彼女の乗ってきた車も飛行式四駆で、完全断熱に金がかかっている。
今日、ミュノリを初めて抱いた。
でもうまくいかなかった。
無理強いはしなかった。
彼女は、1万ペセタ(1000万円)も出せば買えるセクサロイドじゃない。
その代わりに僕はミュノリを強く優しく抱き締めてキスをした。
寝袋の中で二人してスヤスヤと眠り、ミュノリのかわいい寝息を僕は聴いていた。
ほら、漆黒の完全なる夜がやって来た。
僕は彼女の事を大事にしたかった。
ビュオオオオオオ。
ビュオオオオオオ。
風と雪が強い。
毎日ミュノリと大スクリーンで映画や音楽を楽しんだ。
ミュノリは200年も前の白黒映画が好きだった。
そして一言こう言った。
「とても懐かしいわ」
と。
僕は意味が分からなかったけれど、そうだねと言って適当に相槌を打った。
続く
常冬の惑星(第四話)
ご覧頂きありがとうございました。次回はいよいよ最終回です。お楽しみに!