病室のカーテン

 病室のカーテンは
 しらじらとそっけない光をなげだしていて
 愛してもいない男にからだをひらく
 女のひとの裸体のようにきんと硬い反射をあげている

 外から風が吹いて
 ふっくらとましろい布が曲線を曳く
 その表面に浮びすべり落ちる粉薬のような光を眺め
 卑怯に擦り寄り毀れ落ちて往く わたしの肉体と宿命とを想う

 私は義母を抱くようにカーテンに頬を縋る
 貴女だけが 唯貴女だけが私のすべてを抱いてくれる
 すべての私を不在の愛情で愛してくれる私の不在を すべてを

 私の身はいま病室に不在である
 すればわが心に一個の病室をカーテン一つで建築しよう
 外から風が吹きふっくらと弓なりにしなる病室を 不在を

病室のカーテン

病室のカーテン

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-08-18

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