僕の腕をカット

腕を切りました。
深い、深い傷を。
切り込みを入れました。
別に、誰も心配しないので。


母親は一瞬、嘆きました。
一時期嘆き哀しんだ後、直ぐにまた普通の生活に戻りました。
悲劇のヒロインに陥りたかっただけなのです。
父親は、腕に傷が入っていることも知りませんでした。
腕の傷は深さ1㎝程度はあったと思うのですが、
彼の目にはその現実は映し出されていなかったようです。


そんな家庭で、育ちました。


腕を切っても尚、私の生活は変わりませんでした。
同級生は深い私の腕の傷跡を見ても、何も言いませんでした。
単刀直入な言い方をすれば、無視をしました。
彼等にとっては、それが一番いい方法だったからです。
都合のいい接し方だったのです。
家庭に帰っても、私の立場はあまり変わりませんでした。
私は家族ののけ者(外れ者)として、生活しました。
私は思考回路が先天的に他人とは少し違っていたからです。
けれども表面的にはごく一般的な人達と何ら変わりありませんでした。
そこがかえって、私の不幸だった部分だと言えるでしょう。
もし見た目がハッキリと分かる化け物のような形をしていたら、
私はこんなに悩まなくて済んだかもしれません。
   と、言ったら正真の化け物の方に怒られるので、
それは言わないようにします。


私は、容器の中に化け物のようなエグイ中身を抱え込みながら、
毎日を生きていました。
   生きて、 いたのです。


けれども、ついにその時が来ました。
同級生達が、私を殺してくれる日が。
私があまりにも周囲から逸脱した空気を放っている為に、
同級生の何人かが、私の存在を疎ましく感じるようになったのです。
いいえ、疎ましく感じたのではありません。
「排他しなければならないような状況」に、追い込まれたのです。
そうしなければ、学級内が、1つの集団が、
崩れかねないという危機感が、
暗黙の内に、この小さな教室の中にはびこっていたのです。
私は、肩の辺りに小さく両手を挙げました。お手上げ状態でした。
「抵抗はしないよ」という意味でした。
同級生達はそれを見て、「コクリ。」と頷き合いました。
彼らが、何を考えて頷き合っていたのかは分かりません。
私は、うな垂れました。
次の瞬間、私の首の骨は折れ(割れて)、教室の床の上にどん、と
ひとつの頭が落ちました。


腕を切ったもんじゃない、とんでもない感覚が、
取り返しのつかない感覚が、
私の脳裏をよぎり、私の思考や記憶もろとも、消えていきました。


ゴキッと。


実際、どんなことを同級生達が思ったのかは分かりませんが、
同級生達は、「これでとんでもないことになった。」と思いました。
同級生の一人は、受験が完璧に失敗したことを悟り、
同級生の一人は、他校の友達が幾らか消失したことを思い、
同級生の一人は、刑務所の中での生活のことを思い、
最後の同級生の一人は、今後の自分の人生のことについて考えました。
「自殺でもしようかな。」と。


そんな無為な中学生活を送るくらいなら、
早い段階でコースアウトしていた方が、何倍か得していたのではないかと、
落ちた頭の中で、狂った脳の思考回路が、そんな計算結果を弾きだしました。

僕の腕をカット

僕の腕をカット

リストカットを題材にしようとしたのですが、話がわき道にそれました。 久しぶりの投稿です。読んで頂けると、幸いです。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-12-21

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted