小舟と湖

 其処は地上より穿たれた 低みに宿る湖です、
 ざらつく群青の巌のなかに ほうっと翳りを伴れ沈む、
 陽の射すことない 幽かで淡い、碧いろした湖です、
 ほんのり硬い香気を曳いて、夜の注がれる音がします。

 其処は地上とは隔絶された 暗みを帯びる色彩ですが、
 夜がその場を熔かすのです、淋しさ癒すは淋しさです、
 月夜と一帯に横臥す湖、僕は小舟をゆらゆらさせて、
 微睡の孤立のままにします、月光射すことないけれど。

 鱗燦らし、壮麗にしなる魚の翳は視えるけど、
 僕には手中に掴めません。その代わり まだみぬ友へ、
 歌の光の漂流をします、音楽のうごきで抛ります、

 嗚 この風景は、夜空いったいへ舞い散りました、
 天空は 閃き昇るように其処映し、底はざらついた虚空です、
 扨て僕は、巌に転がる小舟に埋まり、また湖を俟ちましょう。

小舟と湖

小舟と湖

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-08-17

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