小舟と湖
其処は地上より穿たれた 低みに宿る湖です、
ざらつく群青の巌のなかに ほうっと翳りを伴れ沈む、
陽の射すことない 幽かで淡い、碧いろした湖です、
ほんのり硬い香気を曳いて、夜の注がれる音がします。
其処は地上とは隔絶された 暗みを帯びる色彩ですが、
夜がその場を熔かすのです、淋しさ癒すは淋しさです、
月夜と一帯に横臥す湖、僕は小舟をゆらゆらさせて、
微睡の孤立のままにします、月光射すことないけれど。
鱗燦らし、壮麗にしなる魚の翳は視えるけど、
僕には手中に掴めません。その代わり まだみぬ友へ、
歌の光の漂流をします、音楽のうごきで抛ります、
嗚 この風景は、夜空いったいへ舞い散りました、
天空は 閃き昇るように其処映し、底はざらついた虚空です、
扨て僕は、巌に転がる小舟に埋まり、また湖を俟ちましょう。
小舟と湖