雨と音楽、後髪曳く

 地中海風の内装は瀟洒で佳い雰囲気、基調は白、
 ブラウンとブルーの微妙な諧調の妙が素敵な、海辺の珈琲店。
 扉ひらくたび、潤い揺れる香気曳いては立消える俄雨、
 それさながらに、小鳥の翼とひるがえる 女のひとの髪が去来する。

 その端 粉薬のようなしらじらと照る壁に影になった席には
 ひっそりと淋しい詩人の僕が在る──まるでキルヒナーの心地だ。
 彼女等の美しさは、わたしの幻影にて雨と音楽へ着付させて頂く、
 花の香気曳く髪にしゃんと蔽い降る横貌は雨と打ち、音楽と肌つねる、

 褒めてくれるかい? 僕はちらとなす一瞥さえも耐えたのだった、
 されどほんのり揺らゆれる花は、わたしには視界にはむしろどぎつい、
 脳髄荒らすgramな花束さながら、後ろ髪引かれる想いで悔恨をする。

 なぜ 女のひとびとの美が雨と音楽へ象徴できるといって、
 眸に映れば全身の統治を乱されるがふっと立ち、触れるまえ
 姿は翳と霧消え、はや 後髪曳く香気を追懐するほかはないから。

雨と音楽、後髪曳く

雨と音楽、後髪曳く

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-08-17

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