転落自殺

 僕は生きてあることの苦痛に耐えかねると、まるで夢をみるような心地で、わが身を天から突き落としてもみるのだった、さながら魂の根へ墜落するがように、魂のふるさとに還るような気持で、地へ叩きつけられる夢想に耽ることをこのむのだった。
 先日夢にみたのは、女性を抱いてともに墜落するそれで、堕落の歓びともいうべく幸福がめくるめくように脳裏で弾け散った、地へ還るてまえでそれ終わって、次なる風景はふたりで生活するそれ──僕、この期に及んでもこんなことを希んでいるのだと、うっすらと微笑した。

  *

 きょう歌ったのは、ひとの欲心は転落に焦がれるときに、愛するものを抱いて墜ちて往くのを夢みるのではという仮説であり、ぼくはわが睡る水晶──いわく魂の淋しさというものを切情こめて抱きすくめ、その底辺へと墜落し、あらゆるもの等を抛り棄て、それは過ぎ往くように脇を奔るであろう、不穏な足音を立て僕は駆け降りるのだ、こいつ、僕の希みである。否。希望だ。
 わが希望は救いがないということ、虚ろな希望を抛り棄てついに不在の状態へ還らせられるということ、僕の淋しさを癒すのは淋しさの根の衝動だけ、淋しさに埋れ縋れるごとに、淋しさはわが魂を絡めとり蔓と深くふかく抉り手繰りよせてくれて、瑕にズタズタに摩耗され、ついに純粋な、無名の歌へと連れ去ってくれるというそれである。
 其処には幾たびも夢みた真白のアネモネの花畑がひろがってい、僕そこで、澄む匿名の歌を古代人等と立並びて歌うであろう、されば孤独の林立に、陰翳の一片と侍らせられるであろう。
 叫び。救われたく、ない。

転落自殺

転落自殺

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-08-15

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