溺れる月
今宵 空には月が不在です、
群青の夜天 きらびやかな硬質が、
冷たく頭上にはりつめているばかりです、
またたいてるのは、瑕のように燦る星々です。
夜の風景の底には 湖がございます、
湖上には月の翳がゆらめいて映り、
瑕の星々をきんと撥ねかえしながら、
悩ましげに 身を折るように震えています。
おそらくや、月は溺れているのです、
暗鬱の黒々となみうつ湖のなかで、
空に視えない月 その翳が溺れているのです。
苦痛に捩るようにわなわなと打つ波紋に、
いま 久遠の火が一刹那垣間見えました、
しんとした風景が、瞬間どぎつく鮮明に昇りました。
溺れる月