溺れる月

 今宵 空には月が不在です、
 群青の夜天 きらびやかな硬質が、
 冷たく頭上にはりつめているばかりです、
 またたいてるのは、瑕のように燦る星々です。

 夜の風景の底には 湖がございます、
 湖上には月の翳がゆらめいて映り、
 瑕の星々をきんと撥ねかえしながら、
 悩ましげに 身を折るように震えています。

 おそらくや、月は溺れているのです、
 暗鬱の黒々となみうつ湖のなかで、
 空に視えない月 その翳が溺れているのです。

 苦痛に捩るようにわなわなと打つ波紋に、
 いま 久遠の火が一刹那垣間見えました、
 しんとした風景が、瞬間どぎつく鮮明に昇りました。

溺れる月

溺れる月

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-08-10

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