噛み煙草

 幾たびも、苦みと苦痛を噛み潰し、
 頭をクラクラとさすいたみに酔うがように
 私は片恋の現実を 歯で砕く、押し潰す、
 吐きだした浮遊する煙は ふしぎにしんとしている。
 
 かのひとのオマージュはとおくで耀いている、
 ましろい霞で ほうっと姿が浮んで消え、星と散り、
 はや逢うことなきひと、オレンジの香気のみが漂ってくる、
 幻 私の切情と綾織り棚引いて、刹那の空に、久遠を一瞬間照らす。

 転調──私は悲哀の騎兵隊に衝き動かされました、
 不穏な 渦巻く、黒いサイケデリックな宗教音楽がいたします、
 めくるめく淋しさの空白に わが身音なく突き落されたのです…

 されば私は、片恋という生涯の呪い、
 不在の現実を 理想の不在を、慈しみながら噛み砕く、
 私は淋しさに死にたい想いをするから──そいつを生の意味にした。

噛み煙草

噛み煙草

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-08-09

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