奇想詩『大きな犬がいるルート』

奇想詩『大きな犬がいるルート』

私は犬が怖いです


けれども駅に行くまでに


大きな犬がいるルートを


通らなければなりません


毛が白くてベロが長くてリードは赤です


図書館に行くまでにも


パン屋に行くまでにも


喫茶店に行くまでにも


大きな犬がいるルートを


通らなければなりません


私が行きたい場所と大きな犬がいるルートは


切っても切り離せないのです


だったら大きな犬がいるルートを


大きな犬がいないルートに


してしまえばいいと思い


先日大きな犬の赤いリードを


ハサミで切って


大きな犬を町に放ちました


そしたら私が行く先々で


大きな犬が現れるようになりました


さらに困ったことに


大きな犬が私についてくるようになりました


大きな犬を混乱させようと思い


緩急をつけて走ってみたり


入り組んだ路地に何度も


出たり入ったりしてみたのですが


振り向くとそこには必ず大きな犬がいました


どこまでもどこまでもついてきて


ついには私の家にまでついてきました


町では犯人探しが始まっていました


私は家に閉じこもりましたが


大きな犬がずっと家の前にいたので


すぐにパトカーがやってきました


私は犬が怖いです


事情聴取ではそう答えました


大きな犬はもとの場所へ戻され


リードは頑丈なものに取り替えられました


プロメテウスやシーシュポスの気持ちが


わかったような気がします


近いうちに別の町へ引っ越しますが


町を出るにも


大きな犬がいるルートを


通らなければなりません

奇想詩『大きな犬がいるルート』

〈あとがき〉
トミイマサコさんのイラスト作品に
インスパイアされて書きました。
ちなみに僕は犬も猫もだいすきです。

奇想詩『大きな犬がいるルート』

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-08-09

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