続・小さな重要性のなにか

6、まみの歩いている道のすぐ後ろで瀬戸物が割れる激しい音がした。(それはまみが2秒前に通った地点だった。)音の様子から推察するに、道沿いのアパートの三階の一室から落とされたものだろうとまみは思った。
バスを降りてから家路までは何通りかのルートはあったのだが、なぜ今日そこを通ってしまったのかと猛然と後悔しながら、歩みを止めず速度も変えず恐怖を悟られないようにしてそのまま歩いた。立ち止まって振り返るのは危険だ。まみは事故ではなくわざとだと直感していた。これは世界にちりばめられた悪意のひとつなのだ。

7、大通りにて信号待ちの間、木田はトラックの積み荷にのせられてひしめき合っている養豚を見た。木田は養豚を間近で見たのは初めてだった。豚の中の生命には捌け口が無かった。外皮を破って出て来ることはできない。「得体」が抜き取られているからだ。当人(豚)も自身の得体にありつけないのだ。木田はその異様さにおののいていた。

8、前方から向かってくる車をフロントガラス越しに見ながらトモは絶えず落ち着かない気分だった。運転している友人はいつものスーパーに駐車する。駐車場は出入りする車で入り乱れている。とくに今日は土曜日だったから余計に。トモは車同士も車から降りた人も自転車も歩行者もよく撥ねられないなと不思議だった。トモは友人の車の中で仮説を立てる。あの人たちは地面と繋がっているのだ。だから過剰にはね飛ばされる危険を想定することも無い。私がここまで行き交う車を見てるだけで落ち着かないのは地面に見放されているからなのだ。

9、倉庫を模したような雑貨屋。天井には白いシーリングファン。それだけで演出として完璧だった。足りてないところは有り余った想像で補足できた。それはもう本物と言ってもいい。今思うと何て安上がりだろうとサチは思った。ドライとウェットの中間くらいの当時流行った洋楽をBGMに。私達にはただ予感だけがあった。まだ何も知らない、と大人を見上げていればいい。子供扱いされるのを嫌がって、大人のことを大人扱いしていればよかった。まだ懐かしさすら知らないのだ。

10、並木の緑がやけに爽やかに感じる。「あの女」が向こうから歩いてくるのをキリノの目はとらえた。会うのは学生時代以来?毒気のようなものは消えていた。それはお互いに。手を挙げて久しぶりー!なんて言う。現金なものだわとキリノは思った。言いたいことは山ほどある気がするのだが、お互いありすぎて、相殺。あの日々はどこへ消えた?「若さ」とか「かつて」という言葉に集約されるなら言葉に負担がかかりすぎているとキリノは思った。

続・小さな重要性のなにか

続・小さな重要性のなにか

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-08-07

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