連続RP⦅覚醒の刻⦆ 準備中
お~とらいぶらり and Friends 作
お~とらいぶらり 編
創作系ブラウザゲーム「英雄クロニクル」内にて、
お~とらいぶらり(S鯖≪放浪図書館≫3l5w/N鯖【名前屋】128e)と、
その友人達によるロールプレイを繋げて編集するログの予定地になります。
(友人達から掲載許可は得ております。)
◆現在は下書き段階で、編集途中です。余計なものもある状態です◆
実質的には一次創作(共作)ですが、
プラットフォームの関係上、二次創作とも解釈できるので、
こちらで公開します。
※「英雄クロニクル」は
「株式会社サクセス」が制作・運営するサービスです。
※禁・無断転載。
お友達リスト・進行につれて増えます
S鯖
フェム(ルインウォーカー 3jb9)
第一章「想い籠める器」前編
≪放浪図書館≫ featuring
フェム <ルインウォーカー>
[ プロローグ ] ナブとナブ
これは、かつてあったやりとり──
ナブレクアンド
「やあ、日出づる世界の我輩」
ナブレカンド
「やあ、逢魔が刻たる世界の我輩」
ナブレクアンドは、ナブレカンドの分身にして同一存在である。
並行世界のブリアティルトの中で、近似した世界線に居る彼らは、
互いに念話を通じて会話を行うことができる。
ナブレカンド
「我々は魂が繋がっているから、≪放浪図書館≫の機能を使用すれば情報が伝わる。 にも関わらず念話を使ってきているということは……緊急の用件かな」
ナブレクアンド
「ご名答。少々無理をしてしまってね。我輩は休眠状態に入る。
詳しくは部下のアンダ_バ_から情報を送らせる」
ナブレカンド
「了解したよ」
そう返答すると、すぐ念話が切れた気配があった。
「……やれやれ、我輩の分身ながら、随分と無茶苦茶じゃないか。
環境の違いで多少、性格に差が出ているのかな?」
と独り言でお道化てみせた。
しばらくすると、丁寧な情報が送られてきた。
ナブレクアンドが優秀な部下達を生み出していたのは、以前情報を検索した時に知っていた。
中でも、片腕として重用している副館長の名がアンダ_バ_だったはずだ。
ナブレカンド
「ははぁ、これはうまいやり方だな。
緊急時に管理者権限を副館長に委譲するシステムにすれば保険になるのか。
前線に立つならそれくらいはしておくのが無難ではあるね」
全く同じ手法とはいかないが、参考にすべき所はある。
それはさておき、今大事なのはその内容の方だ。
ナブレカンド
「ふーむ。
応急処置はともかくとして、こいつはなかなか難題だな。
こちらはこちらの方法で解決策を探ろうか」
ナブレカンドは、直属の部下を生み出すことはしない代わりに、
故郷である六面精界・リーフラムの人間をスカウトすることで
名前の精霊単独では成し得ない体制を作り上げていた。
────────────────────
[ 第一節 ] ナブからの事情説明
ファリル
「珍しいわね、あたしたち全員を集めるなんて」
ナブレカンド
「少々、厄介なことになってね。我輩としては一大事だ」
ベルク
「ってぇことは、この図書館に居る俺らにも関係があるわけだな」
ナブレカンド
「間接的には、そういうことになるかな」
ティルク
「なんだなんだぁ?」
シルスが目配せをすると、ナブレカンドは軽く頷いた。
ナブレカンド
「そう、シルスには先んじて手伝って貰っていたあの件だ」
シルスに視線で先を促されると、ナブレカンドは一呼吸おいて話し始めた。
「厳密には我輩ではなく、我輩の分身が消耗して休眠状態にある。
その分身はこことそっくりなブリアティルト──並行世界に居る」
ベルク
「ぁあ? ヘイホーセカイ?」
シルス
「似た世界が存在して、そこには似たような僕らがいるかもしれないんだ。
性格が少し違うかもしれないし、見た目がだいぶ違うかもしれない。
ファリルのそっくりさんはいても、ベルクに似た人物はいないかもしれない」
ファリル
「ふーん、それで、その分身さんのこと?」
ナブレカンド
「ご名答。
その分身は名前を『ナブレクアンド』と言う」
ベルク
「ややこしいな。クアンドで良いか?」
ナブレカンド
「構わないよ。きっと彼も承諾してくれるはずだ」
ナブレカンドはフフッと笑った。
「さて、そのクアンドを目覚めさせることが今回の目的になる」
シルス
「ここからは僕が話します」
ナブレカンドがシルスの方に体を向けると、シルスが後を継いだ。
「実はこの件について、僕はだいぶ前に相談を受けていて、
ひとまず期を乗り越えるだけの応急処置は済んでいたんだ」
ナブレカンド
「それから、我輩は長い期間を掛けて精霊力を少しずつ送ったけれども、
クアンドが目覚めるには至らなかった」
シルス
「精霊力が足りていても目覚めないならば、別に必要なものがあるはず、
そこで僕らが出した結論は、<目覚めさせるきっかけ>が足りないということ」
ベルク
「きっかけ、か……寝てるやつに声を掛けるってことか」
シルス
「考え方としてはまさにそうなんだ。
具体的には、<濃い精霊力を注ぎ込む>ことになるんだけれど……」
ファリル
「えっと……ちょっと待って」
ファリルは考えながら言った。
「ナブレカンドは名前の精霊の長なのよね?」
「それより濃い精霊力を送ることなんてできるのかしら」
シルス
「そこが難しい所で、その為に必要な準備がいくつもある」
ティルク
「ZZZ……」
ファリル
「寝るの、早かったわね……」
ティルクの方を見て呟くファリル。
シルス
「まず、濃い精霊力の塊を作るには、
<ナブレカンドと同等以上の力を持つ精霊>がいないと始まらない。
例えばベルクやティルクの精霊力ではムラがあるから安定しないんだ。
そして、<精霊力を凝縮させるための器>がいる。
容量は少なくて良いと思うけれど、凝縮させる為にかなりの精霊力を消費する。
ナブレカンド自身の保持精霊力量では足りないし、様々な属性が欲しい」
ベルク
「ってえことは、俺らだけじゃ無理だな」
シルス
「他には、<器を並行世界に送る手段>も用立てることになるし、
<器の開封に耐えられる者>と……、
さらにはクアンドが宿っているという懐中時計に<精霊力を注ぎ込む者>
の協力も不可欠になる」
ファリル
「だいぶ大掛かりになるわね」
シルス
「だから、細かいことはその都度説明していくよ。
そんなところでいいだろうか──ナブ」
ナブレカンド
「上出来だね。例によって我輩は、
いくつかの理由でこの≪放浪図書館≫から離れることができない。
……クアンドがこうなったのも、離れて大掛かりな力を行使した結果なんだ。
故に、我が契約者シルスにこの件は一任させて貰う。
──頼んだよ」
────────────────────
[ 第二節 ] 精霊力の器
必要な準備:<精霊力を凝縮させるための器>
シルス
「さて、まずは[器]を作らないといけない。
“彼”ならできるだろうか……?」
思い浮かべるのは、一人の知己。
シルス
「手紙を書く、かな。
『ご相談ごとがありまして、近い内にお伺いしたいと思っています。
いつ頃がご都合よろしいでしょうか。
詳しくはその時にお話しします──シルス=D=ブラス』」
名も無き精霊
\手紙だーーー/
\わーーーーー/
\持ってけーー/
シルスが念じると、名も無き『名前の精霊』達がわらわらと走って来る。
封筒に入った手紙を渡すと、また小さな叫び声を上げながら持ち去った。
やがてそれは運び手に渡り、そこに記された人物へと届くのだろう。
**************
【専用RP】 想い籠める器【Side:フェム】
一通――ふわりと送られてきた手紙
内容を見れば、友人からの近況報告
そして、
「・・・・・・相談? 何か、あったのか?」
久方ぶりの再会に、彼は思いをはせる
――――――――――
しばらく使われていなかった一室
地下にあるその一室にて、暗蒼髪の青年が資料の整理を行っている...
「流石に埃っぽいな。使っていないにしても整理はしておくべきだった」
しかめっ面をさらにしかめて、青年は愚痴る
手際は中々に良いのだが、いかんせん埃の量が多く苦戦しての事だった
「――?」
ふと、埃の積もった一室には場違いともいえる清廉な気配に振り返ると
手紙が一通――ふわふわと漂っている
おもむろに手に取ると、気配はそこで帰ろうとするが
『まぁ、待つといい。手紙なんだから返事を持って行ってもらえると助かる』
力ある言葉で引き留め、手紙を開く
さっと目を通すと友人からの手紙であった
「シルスから、だな」
****
『親愛なるフェムさんへ
ご相談ごとがありまして、近い内にお伺いしたいと思っています。
いつ頃がご都合よろしいでしょうか。
詳しくはその時にお話しします──シルス=D=ブラス』
「・・・・・・相談? 何か、あったのか?」
かの《放浪図書館》に所属する友人を思い出し、
彼らだけでも大抵の事は出来そうであると結論付けた青年
それなりに大事の予感がした彼は、
目の前の一室――彼の研究室を一瞥し
「返事が向こうに届くまでに終わらせないと、だな」
周囲に魔法陣を巡らせ、掃除の続きを
本人は綺麗にした机にむかって筆を執った
『拝啓 親愛なる友人 シルス殿へ
近頃は暑さの盛り、春先の陽気が恋しく思います。
日中、健康に気を付けてお過ごし下さい。
さて、ご相談事との事でしたが、
おそらくは何か大きな出来事の一端かと、
勝手ながらに準備を始めております。
この手紙がそちらに届いた頃には、準備も終わっているかと思いますので、
日取は問わず、中天を過ぎた頃を目処にいらっしゃってください。
楽しみにお待ちしております。
敬具』
「よし、こんなところだろう。筆不精にしては上出来だろうさ」
数度頷くと、封筒に手紙を封じ
呼び止めていた存在に手紙を渡す
『頼んだよ』
運び手は、手紙を受け取るとその場を去っていった。
手紙は直接届くかもしれないし、いくつかの精霊を回って届くかもしれないが
まず間違いなく届くだろうと、確信じみた何かを背に
―彼は掃除を再開した。
================================
手紙が往復したあくる日。
ルインウォーカー部隊の拠点近く、
だだっ広い空間に半透明の光の玉が薄っすらと出現した。
フェムが何かに没頭していなければ、
それ――”アクセスポイント”の精霊力に気づいたかもしれない。
しばらくするとアクセスポイントの光は段々と強くなり、
あたりを一瞬、眩い光が覆う。
光が収まると、そこには一人の青年――シルスと小動物の姿。
しばらくするとアクセスポイントと≪放浪図書館≫の気配は霧散していく。
無事に転移できたことを確認し周囲を見回すと、
シルスはおもむろに魔術の詠唱を始めた。
十八番とする結界魔術「 水の空間 」ウォーターフィールドを発動。
何も弾くことのない、柔らかな加護に限定したそれを超広範囲に展開する。
「なるほど、そちらの方向にいらっしゃいましたか」
フェムならば結界範囲に入ればおそらくは気づくだろうと見越しての魔術展開。
いわば「扉をノックする」ような感覚である。
「懐かしいにおいがするぞぉ」
「こちらにお邪魔するのは久しぶりだね。行こうか、ティルク」
夜通し語っても話が尽きない友人との再会だ。
逸る気持ちを抑えつつ彼の元に向かう。
門を潜り、庭を通り、廊下を抜け、階段と扉の先にはきっと――
-------------
扉を開け、地下室の中に入れば扉が開く音に気が付いたのか
蒼い視線が、シルスたちを見つける。
「久しぶり、だな。シルス」
普段あまりしない笑みを浮かべて、
待っていたとばかりに声をかけてくる。
まさに、『楽しみにしていた』のだろう。
「まぁ、立ち話もなんだ。かけてくれ。コーヒーでも入れよう」
少し椅子を引いて着席を促す。
卓上には、クッキーだろうか。
お茶請けが置かれているのが伺える。
「フェムさん、お久ぶりです」
こちらも、人前では滅多に見せない口角のだいぶ上がった満面の笑み。
促されるままに椅子にかける。
「お変わりないようで何よりです」
いつだったか、好みのコーヒーの味や淹れ方を語り合ったことを少し思い浮かべながら……
そっと掌を握ると、薄く展開されていた結界が収束しゆっくりと消えていく。
大きなネズミかキツネか判別のつかないような小動物は、
座ったシルスの肩から膝の上に移動し、早速お茶請けに興味を示す。
「うまそうな匂いがするぞぉ」
無邪気に口に出してしまうものの、これまでの経験から伸ばそうとした手を引っ込める。
シルスが良いと言うまでは訪問先の物に手をつけない約束をティルクは守っている。
「ティルクにはミルクをお願いしても良いですか?」
こちらの分はお任せでと言外に含めつつ、フェムが準備をして腰を落ち着けるのを待つ。
「あぁ、もちろんだとも。すぐ用意しよう。最近、香りのいい豆をヴァルトリエの方から仕入れてな――」
軽い足取りで棚へと向かい、用意していたのであろうキャニスター缶や器具を取り出し、準備を始める。
キャニスター缶のふたを開け、計量した豆をミルで挽く。
その間も随分と楽しそうに仕入れた豆について語る口がふさがらない。
「少し前に北の方に遠征で出たときに、偶然見つけた豆でな。
ヴァルトリエの北部でしか出回っていないらしい。
物珍しさから購入したが、香りが華やかで飲み口が軽い。
深煎りしたら本来は香りもトブものなんだが…
むしろ少し深煎りにした方が落ち着いた香りになって人心地つける。
酸味は強めなんだが、果物の爽やかな酸味というか、
華やかな香りと相まってほとんど気にならないし、今度また買い付けに行くべきかとも思うぐらいだ――」
手際は良く、お湯は魔術でも使用したのだろうすぐに用意され、
ハンドドリップのコーヒーが入れられるまでに5分も時間は取られなかった。
「っと、すまない、喋りすぎたな。迷惑でなかったならいいんだが」
コーヒーを淹れ終わり戻ってきた彼は、少し申し訳なさそうにシルスにカップを差し出した。
ティルクの前にはぬるめに温めたミルクを差し出す。こちらからは何か甘い香りがしている。
「小さな友人にはこちらを、どうぞ。
精霊樹由来の蜜を使用しているから、体質に合わないということもないと思う」
そう言うと、彼も自分のカップを手に席に着いた。
香りの良い豆と聞いて、強く関心を惹かれたようで、耳を傾ける。
豆を挽く動作を阻害しないように声は掛けないものの、彼の姿を目で追いながら
時に浅く、時に深く、何度もうなづく。
フェムが戻って来た時には、既に珈琲のかぐわしさが部屋を温めていた。
香りを吸い込み、一足先に堪能し始めていたようだ。
カップを受け取り、いただきますと、口の形で伝え、ティルクにも合図をする。
普段ならば、お茶請けに真っ先に手を出すはずだが、
ティルクは新たに用意されたミルクの方に吸い寄せられていた。
「な、なんかこれ、ぼんやり光ってるぞ」
亜精霊であるティルクには、濃い精霊力が含まれた蜜が光って見えているらしい。
本能的に一気に飲み干す。
小さな体の内側から、光が一瞬弾けて周囲に光の粒がキラキラと舞った。
全身から力が溢れているのが人目にも解る。
フェムが直視すれば猶更だろう。
「うっめーーー」
「これは、素晴らしい豆ですね。なるほど、確かに。
特に香りが格別です」
ゆっくりと一口味わった後、カップを静かに置く。
「珈琲の件も、蜜の件もとても興味深いので、もっと知りたい所ですが……、
またいずれの機会に詳しく聞かせて戴けますか」
残念そうに、しかし、いつかに期待を込めて。
――それは、表立って語られることはないだろう、別の話。
今は、それらを差し置いても成すべきことが、ある。
真剣な顔つきになり、告げる。
「ご相談というのは……、
≪放浪図書館≫の管理をしている〔精霊ナブレカンド〕の、
並行世界の分身に関することです。
実質的にナブレカンド自身の危機と言っても差し支えありません」
フェム
思い思いの言葉を聞いて嬉しそうに微笑んで頷きを返す。
「気に入ってくれたのならよかった。用意した甲斐があったな」
飲み切ってしまったティルクに微笑ましそうにミルクを注ぎ、
自分もコーヒーを一口啜る。
ふと、友人の空気が変わったのを感じ取ると
彼も真剣な顔つきへと変わる。
顔見知りの精霊の危機と言われれば、猶更に
「相談事と言うのは、そのことだったか。
・・・わかった。詳しく聞きたい。続けてくれ。
まずは、話をすべて聞いておきたい」
シルス
フェムが真っ直ぐに向き合うと、シルスは話し出した。
「ナブレカンドの分身の名は、ナブレクアンドと言います。
便宜上、クアンドと呼びますが、どちらで呼んでも構いません。
いずれにせよ、ナブを呼んでいることになりますので」
と前置きをして。
「並行世界でできた知り合いに協力した時に、
クアンドはこっそり無茶をしていたらしく、休眠状態になってしまいました。
充分な精霊力を送ってあり、消滅を防ぐ対処は済んでいます。」
つまり、一刻を争うような状態ではないということである。
シルス
「しかし、数期が経過してもクアンドは目覚めません。
きっかけが必要なのだと僕とナブレカンドは推定しました」
そして、一息置いて、続ける。
「……ここからが、本題です」
声の大きさ自体は変わらないにも関わらず、その声色は真剣みを増した。
シルス
「僕達は、[濃い精霊力の塊]を並行世界に届ける計画を立てました。
フェムさんには<精霊力を凝縮させるための器>を作って戴きたいのです。
これが難しく、こちらのブリアティルトにおいて、
僕の知る限りではフェムさんにしか作れないと考えています」
シルスは予め想定していた内容を思い浮かべ、宙を仰いだ。
「詳細な条件としては……
●大精霊クラスの濃い精霊力を封じ込めます。
つまり、いわゆる魔力的強度面では相当強固なものが前提になります。
●蓋をすると周囲の精霊力や魔力と干渉せず、
長時間拡散しない密閉性が肝です。
●7つの属性用に、7つの器が必要です。
地・水・火・風・光・闇・無属性になります。
●7つを人間1名で持ち運べるくらいの大きさと重量に抑えて欲しいのです。
形は不問です。バラバラでも問題ありません。
……こんな所かなと……」
視線をフェムの方に戻し、手を膝に添え前傾姿勢に。
友に対するにしてはやや他人行儀な居住まいに、
本気度合いが見て取れるかもしれない。
シルス
「如何(いかが)でしょう、お願いできますか……?」
他に確認などあれば、それも合わせてお伺いします、とつけ加えた。
フェム
「・・・・・・・・・・・・。」
お願いできますかと問われ、目を瞑り黙り込む。
――恐らくできる。
作成自体は、どうにかなる。
問題は――
「・・・材料と対価、次第だな」
目を開くと眉根にしわを寄せ、言いにくそうに呟いた。
フェム
「材料は、1つを除いて揃っている。
ただ、残りの材料が…あまり、褒められたモノではないし
何より、その対価もそれなりに大きくなると思う――」
そう、暗に提案したくないと仄めかせながら語る口は重い。
諦めを口にしたくないが、諦めを選ぶそんな選択肢を考えて――
……………………………………
……………………………
…………………
……………………………………あぁ。
シルスを見て、決意の固まった色を見て「あぁ」と納得してしまう。
自分自身がそうだった。
きっと止まらないだろう。そんな色。
フェム
「――材料は、必要となる属性ごとの中級以上の精霊の魂を半分。
純度は問わない。最悪、精霊でなくてもいい。
精霊力との親和性と容量が目的だ。今回は七属性分の魂を核にする」
諦めた。諦めさせることを諦めた。
諦めて口にするのは、魂を切り裂き材料にする悍ましい技法。
全く持って邪法邪道な行いに、自分自身で辟易する。
「使用後の器が残っていれば、元に戻せるように細工はする。
――それでもリスクは大きいだろうが、しないよりはいいはずだ」
「それから、対価が必要になる。
要求されるのは、依頼者の――シルスの魂の一部」
重い対価。魂を弄るには相応しい対価。口にするにはあまりに軽い対価。
その対価を支払えば、それだけの何かを用意するぞ。
と、彼の中にある邪神の知識はそう口にする。
「――用意、出来るか?」
86: ティルク
ティルクは2杯目を飲み、満腹そうにひっくり返る。
シルスの話の途中で、既に夢うつつだったティルクは、
気持ちよさそうに眠り出してしまう。
シルスは、返事を待つ。
思考と逡巡の後、フェムが重い口を開く。
……………………………………
……………………………
…………………
……………………………………
視線が真っ直ぐに交わる。
躊躇い、しかし何かをを覚悟した顔。
難しいことは理解していた。
フェムから示された内容は、人の道を踏み外しかねないもの。
かろうじて戻って来れる配慮のされた、ギリギリのライン。
流石に求められるものがそこまでのレベルとは思っていなかった。
口にすることすら、気乗りがしなかったことだろう。
それでも、彼はこちらの望み通り、選択肢を導き出した。
倫理的な問題を理由に、断ることもできたはずだ。
敢えて共犯者になっても良いと、申し出てくれたのだ。
88: シルス
提示された条件は、相応に高いものであったが、
フェムの編み出した対策により、取り返しはつくレベルのようだ。
「――おそらく、用意できると思います……」
シルスには、引けない理由がある。
背景にある事情にフェムを巻き込むつもりは無かったが、
既にここまでの負担を強いているからには、彼には知る権利があるだろう。
眠っているティルクを一瞥し、続けた。
「僕は手段があるならば、それに賭けます。
クアンドが目覚めなければ≪放浪図書館≫の機能を完全には制御できず、
僕達の故郷リーフラムに帰還することができません。
そして、≪放浪図書館≫は、リーフラムのバランスを保つ調整弁なんです。
接続が弱い状態が続けばリーフラムは緩やかに衰退していきます。
これは僕とナブだけが知っています」
89: シルス
それでも、無闇にリスクを取る決断をするわけにはいかない。
慎重に事を運ぶのは、こちらの意向を汲み取ってくれた友への最低限の礼儀でもある。
「二つ、確認させてください。その儀式が成功した場合の想定ですが――」
贄が必要なほど大掛かりな術式と推定し、【儀式】という言葉を用いた。
シルスも儀式魔法の初歩はかじっているが、単独で完全に行使するだけの技量はまだまだ足りない。
「――提供した魂は、それ以降さらに失われていくようなことはありますか?」
悪化していく状況ではあの時の二の舞だ。
脳裏に浮かぶのは、かつて存在が消滅しそうになった共通の友人のこと。
決め手に欠けるならば、フェムに任せる他無いと感じていた。
面識が無かった当時、人づてに聞いていた優秀な研究者である彼なら、
どういう手法を導き出すだろうか?
模索していた時、自分に何度も問い掛けた。
あの時、既に心の中で協力者であり、切磋琢磨するライバルでもあった――
「二つ目、これは確認というよりお願いですが、
対価の方は、皆に内緒にして戴けますか?
ナブは契約で繋がっているので気づくでしょうが、
ファリルなどはうるさいと思いますので……」
材料の半減とほぼ同時期に減り、後で半減が解消されれば、
その差に気づかれることはあまり無いだろうと推測する。
長話になることを見越して、一人で来たのが僥倖だったと頬を掻く。
ティルクもすっかり寝ている。
関連した依頼をしにいく予定の『彼』は、
存在が揺らぐことが心的外傷になっているかもしれない。
とある大精霊達には根回しをしておいた方が良いだろうか。
契約で繋がっている対象には、情報も筒抜けだろうか?
そんなことをとりとめもなく考えながら、反応を待つ。
フェム
理由も含めその覚悟を、確かに聞いた。
目に映るその覚悟は色濃く、彼の目に移り込む。
視線を外すことはなく、
ただ一言、「そうか」とだけ答える。
慰めも謝罪も礼を失する行いに思えて、目の端で色を失って消えた。
ただ――
「1つだけ、訂正するぞ。
絶対に賭けにはしない。
これは契約だ。
材料と対価を差し出したなら、器は確実に用意する。
覚悟を決めたのなら、『運命にも奇跡にも、負けるな』
いいな?」
フェム
それだけ言うと、いつも通りのしかめっ面に戻り、話を続ける
「――1つ目は問題ない。
今回は存在の器には傷一つ残さないし、器がある限りは魂の漏出はない。
そちらは断言する」
己が親友を思い出し、悔しさが込み上げるも
今回はそうはならないと告げる。
術式の精度も、自身の練度もあの時よりも遥かに向上した。
「――2つ目は、そうだな。
俺が言わないことはできるが、
まぁ、『普段から見ている人をあまり舐めない方がいい』とだけ言っておこう」
ふと過ぎるのは、またも親友の事だった。
共に何度も叱られた過去を思い出し、
つい、口元が綻んでしまうのを止められなかった。
シルス
フェムから向けられる、力強い言霊を、受け止める。
〔絶対に賭けにはしない〕
〔材料と対価を差し出したなら、器は確実に用意する。〕
研究者は[絶対]や[確実]と軽々しく口にしない。
未知の領域がこの世には沢山あることを知っているからだ。
それでも、フェムは朗々と明言した。
覚悟であり宣誓。並々ならぬ物を、言葉の端々から感じ取る。
きっと彼も、どこまでも深いその瞳に多くの物を背負ってきたのだろう。
それが今は何よりも頼もしく思える。
シルス
〔覚悟を決めたのなら、『運命にも奇跡にも、負けるな』〕
ハッとした。
[運命]や[奇跡]とは、
人智を越えた領域で未来を左右する何がしかがそう呼ばれる。
しかし、フェムはそれにすら負けるなと言う。
嵐が吹き荒れるのならば、周到な用意と絆と意志で乗り越えられるだろう。
乗り越えて見せよと。今の我々ならば、
それに必要な物は用意できるはずだという自負も込められているのだろう。
色を見抜く視線と、形を把握する視線が交錯する。
「……はい……そうですね。……ええ」
自分に言い聞かせるように、
その意思を体全体に行き渡らせるように首肯した。
シルス
〔今回は存在の器には傷一つ残さないし、器がある限りは魂の漏出はない〕
「それならば、安心しました」
今回はということは……、以前小耳に挟んだ
【存在が薄くなったフェムの知り合い】とやらの件だろうか……。
〔俺が言わないことはできる〕
〔『普段から見ている人をあまり舐めない方がいい』とだけ言っておこう〕
苦笑する。
ファリルは誤魔化せても、
共通の友人である『彼』、ティファレトには伝わるだろう。
伝わることも、怒られることも大したことではない。
「存在が薄くなる事態」を知ってティファレトが取り乱すことを避けたいのだ。
いっそのこと、最初から伝えてしまう方が無難かもしれない。
直接会うよりも、手紙で送った方が驚きは少ないだろうか?
読んでから会えない間、余計な心配をさせてしまうかもしれない。
それは、後で考えよう。
今は、ただ、目の前の友人に感謝を。
「助かります」
フェム
「友の役に立てたのであれば、何よりだ」と、
少し優しい笑みを浮かべる。
「日程については、いつ来てもらっても構わない。
場所は、この地下室。そちらの準備が済み次第、始められるようにしておく。
他に何か質問はあるか?」
大事な確認は済んだ。
これで、友を心配させるようなことにはならないはずだ。
あとは……何か、違和感を見落としているような……
――フェムは『存在の器には傷一つ残さない』と言った。
――つまり、存在の器を扱うということ。考えてみればその必要がある。
――それに、只の人間に、精霊の魂を材料にするような儀式ができるだろうか。
――『禁忌』に触れるようなことはないのか?
――フェムがティファレトの件で経緯を知らないはずがない。
――しかし――
シルスには、フェムと違って心を読むような異能は無い。
<分析>アナライズはあくまで形を視るだけで、それを活かすのは判断と推理だ。
シルスがこれまで戦場を切り抜けてきたのは、判断力に拠るところが大きい。
――『運命にも奇跡にも、負けるな』
奇跡とは、一般的に人間に都合の良い出来事を指すものではないか。
その奇跡に「負ける」という表現は、人間でない立場の物言いだろうか。
――これは契約だ。
――絶対に
――確実に
単に契約というならば、冒険者や傭兵も使う。
しかし、「絶対の契約」とは……まるで精霊のような……
「もうひとつだけ、良いですか」
仮定に仮定を重ねた可能性の話を頭の中でこねくり回しても埒が明かない。
「フェムさんが、代償を負うことは、無いのでしょうか?」
連続RP⦅覚醒の刻⦆ 準備中