ノットイコール・パライソ
けむりがみえる。対岸だ。以前も、こんなことがあった気がすると思いながら、氷がとけて、うすくなったアイスコーヒーをストローで啜る。灯台の光が、まわっているのを、物珍しそうにみている、しろくまと、あたしの呼吸にあわせたように寝息をたてる、サクマのうでに抱かれた赤ちゃん。海のむこうは、楽園だときいた。けれども、あの、けむりは、まちがいなく火薬のもの。天頂は夜。麓に近づくにつれて、茜色。美しくて、残酷なグラデーション。
しろくまと、あたしと、サクマと、赤ちゃんは、いつからかはじまった家族ごっこが、もうまもなく終焉を迎えることに、気づいている。
今度、花火大会があるね。サクマが、赤ちゃんに話しかけている。赤ちゃんは、あー、だの、うー、だのしか言わないけれど、サクマにはちゃんと、わかっているようだ。
この海はちゃんと、灯台が機能しているから、迷う船はないようだ。そのように、まじめに感心している、しろくまのとなりで、あたしは、ふうん、と思っている。ちゃんとしている灯台にも、していない灯台にも、迷子になりそうになっている船にも、あまり興味はない。
それよりも、神さまに問おう。
楽園、とは。
ノットイコール・パライソ