リッケール大橋

一本の街頭が、夜の暗闇に吸い込まれ、ぼやっと付近を照らしてる。光を探して、男の子は歩いているのさ。僕のママはどこにいる? パパは、みんなはどこにいる?
「寂しくなんかないさ。」
男の子は、ふふっと笑って、街中をふらり。石造りの道路と煉瓦造りの家。中から、お爺さんが出てきたとき、彼は言うんだ。
「ぼうや、楽しそうだね。」
「楽しいよ。夜の街は静かだから。」
「そいつは、君の連れ?」
後ろを見たら、僕より小さい子犬が座ってた。
「そうだよ。」
男の子は丸い目をしながら、またふふっと笑って言う。
「僕は家族を探してる。あの特別な存在を。」
「見当はつく? 彼らがどこにいるかの。」
「さっぱりわからない。でもきっと会える気がする。いつかきっと。」
お爺さんは、大きな歯を見せた。
「歩けばいい!」
「歩けばいい!」
男の子も笑ってた。きっと楽しい旅路になるんだから。子犬を抱えて、煉瓦造りの家を後にしたら、次の街頭が見えてくる。街頭はぼうっと暗闇に輝いて、小さな腕に小さな子犬。光りに照らされ、ぼやけてる。今度は大きな白い家。屋根まで伸びる扉が開くと、若い女の人が顔を出す。
「こんばんは。」
彼女は綺麗な瞳をこちらに向けて、微笑んだんだ。相手を突き放さない、本当に魅力的で、自然な笑みだった。男の子は、しばらく彼女を見つめてた。すると、家の中から、男の子と同じくらいの幼い少女が駆け寄ってきた。母親の片足に隠れて、男の子と子犬を交互にちらちら見てた。
「あがる?」女性が言うと、男の子は首を横に振った。
「可愛い子犬ね。」
「うん。」
「あなたのママは?」少女が聞いたら、
「分からない。どこかにいると思うんだ。」男の子が言った。
そしたら、母親が言った。あの微笑みを向けて。
「海に行くといいわ。海に行ったら。木製の家がある。そこには漁師がいるわ。このあたりに詳しい漁師。この先の橋を渡って、真っ直ぐ行くだけ。簡単でしょ? ただし、朝に行くのよ。朝の海。」
「橋の名前は?」
「リッケール大橋」
男の子は、子犬をぎゅっと抱きしめて、彼女が指し示す方を見た。
「家で、朝を待つ?」母親が聞いた。
男の子は黙って、また首を横に振った。
「だって、少しでも早くみんなに会いたいから。僕の家族に。」
女性は男の子を少し見つめた後、やさしく彼を抱きしめた。少女も一緒に抱きしめた。どうしてだろう? 何だか悲しくて、寂しくて、気づくと男の子は泣いていた。温かい色をした、小さな涙。夜の街灯が、三人をぼうっと照らしてた。

 男の子は抱えていた子犬をおろし、子犬の前で人差し指を暗闇に立てた。
「君だってきっと歩きたいだろう。でも、いいかい。僕から離れてはだめだよ。こんなに暗いとすぐに見失ってしまうからね。もし僕を見失ったら、小さな声で叫ぶんだ。そしたら僕が迎えに行く。分かったかい?」
 子犬は男の子を見つめたまま、じっと忠告を聞いていた。男の子はくるりと振り返り、永遠と続くような暗い夜道に目を向けた。怖くなんかなかったさ。不安なんてなかったんだよ。この先にきっと僕の家族がいる。そう思うと早く行きたくて仕方がなかった。ただ、少しだけ、勇気が必要だった。そして男の子は歩き出した。優しい風からは微かに潮の香りがしていた。
 男の子は歩くあいだも、ずっと家族のことを思い出していた。中でも彼のママのことを。夜眠るとき、ママが僕の肩を優しく叩いてくれたっけ。子守唄を歌いながら、僕が眠るまでいつまでも見守ってくれてたんだ。何だかとっても嬉しくて、僕は眠っているふりをしながら、ママの歌をずっと聞いていた。それは、もっと幼いときの思い出だけれど、男の子には昨日のことのように思われて、いつでも彼の心を落ち着けた。家族のことを思い出しながら、男の子はふふっと笑っていた。
 そのとき、遠くで大人の犬の鳴き声が聞こえた。後ろを見ると、彼の子犬はいなくなっていた。暗闇に耳を澄ますと、またどこかで大人の犬の声が響いた。男の子が顔を上げると、空には綺麗な月がぼんやり輝いてた。あちこちに小さな星も見えた。
「寂しくなんかないさ。だって、お月様が僕を照らしてる。リッケール大橋まであと少し。」
そう言って、男の子は少し俯いた。
でもすぐに、「歩けばいい!」
そして、ふふっと小さく笑った。

リッケール大橋

リッケール大橋

短編、実験、直観、小説

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-07-16

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