生花

 うまれてきた意味を、ね、おとなになってもかんがえる瞬間の、一瞬の、刹那の、肺がおもたくなる感覚を、うわぁと思っているあいだに、ねむれなくなる。
 なんか、さいきん、真夜中の街には、にんげんをたべるにんげんがいるとか、いないとか。それって、もう、にんげんをたべるにんげんって、にんげんじゃないのでは。漫画やアニメめいた、フィクションが、インターネットを伝って、跋扈して、真実味を帯びて、うそを、まことにする輩がでてくるのが、現代。
 ぼくは、クーラーにより冷やされた、部屋で、生花を愛でている、金糸雀の分身が、いつ、その肉体を手離すのかを、まっている。
 からだは、金糸雀のもので、でも、なかみが、金糸雀じゃない。金糸雀は、ぼくのことを、そんな慈しむみたいな、やさしい撫で方をしない。かんたんにこわれてしまいそうな、うすっぺらいガラスをたいせつに触れるような、そんな扱い方を、しない。
 テレビも、ちょっとおかしくなってきた。たぶん、部屋が冷えすぎているのだ。金糸雀の分身、もといにせものが、生花のためにクーラーを消さないでいるから。

(でも、いきているのだもの)

(いきているものは、いずれ、みんな、いきているものではなくなるのだもの)

 いたずらに、寿命をのばしている、金糸雀のにせもののうしろすがたを、ぼくはにらみつけて、はやく、ほんものの金糸雀に逢いたいと思う。

生花

生花

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-07-11

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