さかしまの城

暗に穿たれた処彷徨う、銀に燦爛とする硝子液保存された その湖には、
さかしまの荘厳な城 ほうっと宿り、波うち翳うつろわせ乍ら、沈鬱にしずむ、
その建築を注視しよう 銀の彫刻の精緻に施された、月光浴びるに相応しい城だ、
すれば蒼褪めた金属質な照り返し 呻くがように毀し散る、憂鬱の絶景の風景だ、

僕いくたびも、その湖へ潜ったもの。気をつけろ、硝子製の水は神経に痛い、
けっして喉を徹しては不可ない、唯歌うが為に口開き、うたかたの泡沫吐きだして、
壮麗な城の硬質な線上に、わが音韻、流麗に沿わせ揺蕩わせようともしたのだが、
何処を捜しても城は無い、埋まる虚空のような真空、黒く清む原初の浪音響くばかり。

愚かな僕は漸く気付いた、さかしまの城が湖の裡に在るのではない、
傍らの城壁を、湖が鏡さながら映しているのだ──僕 地上へ這い昇り、
漸く外気に躰を晒すも──其処には城の姿なく、僕にとる美だってひとつとない。

僕ふたたび、城映る寛ぎの虚空へ這い潜る。嗚此処が──疎外者の僕の故郷か。
さかしまの城の幻。わが身は土へ落葉するがように、苦痛に畝り鱗剥ぎ落し乍ら、
絶景の亡き幻影へと失墜して往く──恰も生が、弧えがき死へと還る線に似て。

さかしまの城

さかしまの城

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-07-10

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