琴葉の言の葉

第一話『茜と逢う日』

〇葵の家 夕
目覚ましの音が鳴る。葵起きる。
葵「なんだか懐かしい夢を見ていた気がする。続きを見に戻りたいところだけど残念、仕事の時間だ。
足元のゴミに注意してベッドから降りる。洗面所に行く前に、昨日残してたパンを牛乳で流し込んで朝食。顔を洗い、歯を磨いて、身だしなみを整えて、寝覚めの一服を済ませたら、準備完了。
それでは、行ってきます。
ドアの閉まる音。暗転。タイトルコール。『琴葉の言の葉』

〇学校 階段裏の空間 昼
殴りあう音が聞こえる。琴葉茜が最後の一人を殴り倒す。倒れている内の一人の懐から財布を取りだす。軽く誇りを払って、隅っこで怯えてた弱そうなやつに差し出す。
茜「これ、お前のやろ。
弱そうなやつは口を魚みたいにパクパクさせて、消え入りそうな声で言う。
雑魚「あ、えっと……、あ。
茜「お ま え の や ろ !
雑魚「は、はいぃ!ありがとうございましっ!
雑魚は財布を奪い取るようにして受け取り、走り去っていく。茜は不満げに膨れる。
茜「なんやねん。財布取り返し立ったのに……悪いことしたみたいやん。
階段の側から結月ゆかりがやって来る。
ゆかり「あんな言い方したら、誰だってビビりますよ。
茜「そんな強ぅ言うた気はないんやけどなぁ。
ゆかり「殺す勢いでしたよ。
茜「マジか。
また階段の側から弦巻マキが現れる。
マキ「お前ら終わったかー?パン買ってきてやったぞー。って、派手にやったねぇ、椿三十郎かぁー?
ゆかり「なんですかそれ?
茜「いやー、流石のうちでも三十人はムリかなー。
ゆかり「なんで通じるんですか?
マキ「向こうのほうで何か勘づいたっぽいよ。頬ペタ引っ張られる前にさっさと退散しようぜ。
茜「せやなー。また呼び出し喰らうんは勘弁やで。
教室の方へ歩きだす茜。二人も後に続く。
茜「ところでマキよ。うちの頼んだエビサンドは買ってきたかね?
マキ「あー、うん。おいしかったよ。
茜「おまえ後でシバくからな。
少しづつ声が遠くなっていく。

〇同 教室 夕
チャイムが鳴って一日の終わりを告げる。SH。担任の吉田が一日の総括をしている。茜は退屈そうに頬杖をついている。
吉田「それじゃあ、今日はここまで。気をつけて帰るように。ーーあ、それと琴葉は後で職員室な。
思いがけないご指名に思わず立ち上がる茜。
茜「えっ、何でですか!?
吉田「心当たりあるだろー。
舌を出して不服の意を表する茜。
吉田「それじゃ、解散―。
みんなが茜をからかいながら部活なりなんなりに向かう。
茜「ぺっ。

〇同 廊下
茜、ゆかり、マキ三人で歩いている。
茜「めっちゃだるいんやけど。おまえ誰も見てへん言うたやん。
ゆかり「ええ、誰も見てませんでしたよ。私以外はね。
茜「さてはお前チクったな?
ゆかり「茜の情報って高く売れるんですよね~。
茜「わしゃ希少動物か!このー!
ゆかりにエルボーをかける。
ゆかり「あはは、はは、冗談ですよ冗談!
茜「てか何でウチ一人やねん!お前らも一緒で道理やろ!
ゆかり「私見張ってただけですし~。
マキ「ワタシ購買にいたし~。ほーれ、茜!ファ~イトw
茜「戦う~キミ~のこ~とを~……ってええねん!
ゆかり「さっきから何か古くないですか?
茜「あー、もう着いてもた。だる~。
マキ「じゃ、ワタシらはお先失礼しまう~。おつで~す!
ゆかり「後で感想聞かせてくださいねw
茜「おーう、楽しみにしとけや。
二人を見送って、ため息ついて、職員室の中へ。
茜「おじゃまします~。
吉田「おう、来たな。それじゃ、ちょっと移動しようか。
生徒指導室へ。
吉田「何で呼び出されたかは、分かるよな?
茜「喧嘩です。
吉田「そうだな。
茜「でも、あれはあいつ等が悪いんやで。人の財布取っとたんやで!
吉田「うん、知ってる。それに関してはあいつらが悪いし、それを見逃さなかったおまえはエライと思う。
茜「じゃあなんで、
吉田「前にも言ったよな、いじめを見たら報告しに来いって。
茜「ほんなん、言いに行ってるうちに全部終わってまうやんか。
吉田「写真なりなんなりで証拠を取っときゃいいだろ。
茜「でも財布は取られてまうやん。
吉田「それで、おまえがそこで暴れたらいじめは解決するのか?
茜「論点がちゃうやん。
吉田「一緒だよ。おまえが一度いじめの現場を押さえたら、もう同じことは起こらないのか?それとも、全部見つけ出して叩くつもりか?
茜「ほんなん、無理やけど……。
吉田「そうだろ?それに、今回、この話をチクったのは誰だと思う?
茜「ボコられた不良やろ。
吉田「おまえが助けたやつだよ。脅されたんだろうな、随分悪しざまに言ってたよ。
茜「……。
吉田「悪いことするやつってな、自分で変わろうって思わない限り絶対に更生しないんだよ。絶対更生しない悪いやつを、表面だけでもマトモにするにはどうしたらいいか?そのために、国の法律があって。学校には校則がある。おまえ一人に、他人を変えるような力なんてない、だから学校に任せろと言ってるんだ。現にお前の善意は報われず、こうやって説教されてる。そうだろ?
茜「……はい。
吉田「それに何より、暴力沙汰はお前の成績と、俺の消化器官に悪影響だ。俺の胃腸を気遣うと思ってさ、一つ頼むよ。
にこりと笑う吉田。
吉田「あと、これは俺の独り言。お前のそういう正義感ある所はすごいいと思ってる。
しょんぼりする茜。

〇帰り道 夕
マキと電話しながら家路をたどる茜。
マキ「えー、それで長いこと絞られたわけ?
茜「しぼられた、っちゅう程のもんでもないけど。
マキ「これでもう7回目でしょ。もうお気にだね、茜。
茜「かなんわ、あんなおっさん。
笑いあう二人。
マキ「そういえばさ、今日の帰りにナンパされちゃってさ!
茜「おー、どうしたん?
マキ「それがさ、ゆかりがテンパって、パニくって、そのまま泡吹いて倒れちゃってさ。
茜「おおぅ、強烈やな。
マキ「そんで、ナンパ連中とみんなで病院まで運んでったのよ、も~大変!
茜「えーめっちゃ見たかったわ。吉田バックレたらよかった。
マキ「茜がいたらナンパされてないわ~。
茜「なんだとてめー?
マキ「ソーユートコヤデ。
茜「ぐぬぬ…。
突然、茜の瞳孔が開く。視線の先に人影、そこにトラックが迫っている。双方ともに気づいている気配はない。
マキ「連中の申し訳なさそうな顔ったら……
茜「おまえ何してん!
そう叫ぶなり、スマホをぶん投げ通行人めがけて突進。間一髪でトラックから救い出す。トラックはクラクションを鳴らして走り去る。
茜「ドアホが!よー見て走れ!
車に向かって吠える茜。
茜「おまえもやぞ。いくら車とか少ない通りやからって横着したら……。
突如、焦るような顔をして相手の顔をつかむ。
?「あの……、なんでしょう?
茜「おまえ、葵か?
琴葉葵「え……?
茜「いや間違いない。葵やろ、おまえ。
葵「ええ、確かにそうですけど。何で知ってるんですか?
茜「何で知ってるも何もないやろ!今まで何してたねん、おばさんもおじさんも、猫も杓子も狸も犬もみんな心配してたねんで!
葵「あー、えっとー。すいません、どちら様でしょうか?
茜「はぁ?どちら様って、お前の双子の姉貴の琴葉茜やんけ。なんや、冗談のつもりか?
葵「いやいや!そんなつもりじゃないんです!じつは、昔の記憶が全く無くって……。
茜「へー、昔の記憶がー、全くないー。へー。へー、へーええええええええ!?!?!?いやいや!ほんな事ある!?
葵「すいません……。
茜「ほんまになんも覚えてへんの?例えばこの顔とか見覚えーあるに決まってるよな、おんなじ顔やし。
葵「えっと、助けてくれてありがとうございます。仕事に遅れそうなので……。
茜「仕事してんの!?そうか、それなら……。
紙切れを取り出し何やら書き付けて葵に渡す。
茜「これ、うちの電話番号!昼なら絶対でれるから!連絡してな!
困惑したような顔で紙切れを受け取る葵。
葵「分かりました……。それじゃぁ、ありがとうございました!
一礼してかけ去る葵。その背中をぼんやり見つめる茜。投げ飛ばされたスマホからマキの声。
マキ「茜!?なにがあったの?ねぇ、聞こえてないの?茜!茜!

〇学校 教室 昼
マキ「茜ってば!
茜「はっはい!?なんや?
マキ「なんや?じゃなくてさ、今日ずーっと上の空じゃん。昨日何があったの?
茜「いや、べつに、ちょっとな。
ゆかり「昨日ぶつかった人がめっちゃタイプだったとか!
マキ「それでそのまま連絡先交換までしちゃったりとか!?
上の空な茜。硬直する二人の顔。
マキ「え、まじで?
ゆかり「いやまさか、茜に限ってそんなこと……、はは。
電話のコール音。茜、びくっと反応し、スマホの画面を見る。
茜「すまん、ちょっと外すわ。
去る茜。残された二人。固まる二人は顔を見合わせる。
マキ「そんなばかなぁぁぁああ!
ゆかり「茜に先を越されるなんてぇぇぇえ!

〇同 教室前廊下
息をのみ、電話に出る。
茜「もしもし?
タカハシ「もしもし。琴葉、茜ちゃんでよろしかったかしら?
茜「はい、合ってますけど……。
タカハシ「はじめまして、私はタカハシ。葵ちゃんの雇い主?をしている者です。
茜「あ、はい、どうも。
タカハシ「はいどうも。それでね、葵ちゃんから話を聞いたんだけど、ちょっとお話させてもらいたいなって思って。ほら、私は葵ちゃんのお姉ちゃんだ!なんて言っても、当の本人からしたら赤の他人なわけじゃない?
茜「あー、たしかに。
タカハシ「それで先に私からお話しさせてもらいたいなって。
茜「そういうことなら。分かりました!
タカハシ「よかった。それじゃあ、暮伽路商店街の門下で6時に来てもらえるかしら。
茜「わかりました。
タカハシ「それじゃ、よろしくね。
電話が切れる。
茜「(オカマだった……。

〇同 教室
茜が戻ってくると、二人が神妙な面持ちで待っていた。
茜「いやー、すまんすまん。で、なんやっけ?
マキ「茜、言いにくいことかもしれない。
ゆかり「キャラ的にちょっととか、樹を逃したとか、理由はいろいろあるでしょう。
マキ「でもさ、ワタシら親友なんだからさ、大事なこと、秘密にされてると悲しいな。(茜に彼氏だと?百年早いわ!)
ゆかり「何があったって、私たちの友情はかわりませんよ(私たちを差し置いて男だなんて!許さん、許さんぞ茜ぇ!)
急に距離を詰める二人。目が血走っている。
二人「だからさ、昨日何があったか教えてくれないかな?
なにか感激に打たれる茜。涙すら流す。
茜「おまえら……!そうやな、そうやったな。おまえらに隠し事なんて、水臭いよな。
さらに詰め寄る二人。茜は感動にのぼせたような顔で口を開く。
茜「実は昨日、妹にあったんよ。三年前に家出したきり音信不通で、昨日会ったときには記憶喪失になってた。
笑顔を保ったまま硬直する二人。
マキ「へー、生き別れの妹……。
ゆかり「三年前に家出したきり音信不通……。
二人「はあぁぁぁああぁ?!
マキ「なに?!妹がいるとか初耳なんだけど?!
ゆかり「しかも家出?!記憶喪失?!情報量多すぎて茹で上がりそうですよ!
茜「隠しててすまんかった。さっきの電話もそのことでな……。

〇商店街門下 夕
スマホの画面を見ている。5時半。
茜「早く来過ぎたか……。
マキ「だから一時間は早いっつったじゃんか!
ゆかり「もう足の感覚がないです……。
マキ「いやそれはそれで貧弱過ぎない?!
ゆかり「もう帰っていいですか?
茜「親友を置いて帰ると。
ゆかり「……。
マキ「そういえば聞いてなかったけど、待ち合わせの相手ってなんて人?
茜「あー、確か……。
茜が言い終えるより前に足音、人の声。
タカハシ「あら、お待たせしました。かしら?
タカハシが現れた。
茜「いやいや、全然そんなこと……
マキ「タカちゃん?!
マキが目を丸くして叫ぶ。
ゆかり「え、ほんとに?!
ゆかりも、信じられないといった顔で叫ぶ。
タカハシ「ウソ……。マキちゃんに、ゆかりちゃん?大きくなっちゃって……。
マキ「タカちゃんも……、思い切ったねぇ。うん、似合ってるよ!
タカハシ「そう、ありがと。マキちゃんも色々と大きくなって、見違えちゃった!
マキ「ほんとにー?あんま変わってないと思うけどなー?
タカハシ「ホントよホント!私ったら、二人ともずっと小さいもんだと……っ!マキちゃん?
マキがタカハシに抱き着く。
マキ「連絡もなしに……、心配したんだぞ。
タカハシ「そうね。ごめんね、マキちゃん。……ゆかりちゃんも。
ゆかりもこらえ切れぬといった様子で、タカハシに突進する。
ゆかり「会いたかったですー!!
三人相抱擁して再会の喜びを分かち合う。なんと美しい光景か。
一方、蚊帳の外の女は一人、困惑している。
茜「あ、あのー……。

〇路地 夕
かくかくしかじか。
タカハシ「そんなわけで、一緒に暮らしてた時期がったのよー。
茜「あー、ほーやったんですか。ウチ、なんも知らんかったで、何事かと。
タカハシ「ごめんね。
茜「いやいや謝ることやないですわ。てか、なんで連絡なかったんですか?
タカハシ「色々あったのよ。雷に打たれて持ってた携帯が消滅したとか。
茜「あー、それはそれは。生きてて何よりです。
タカハシ「運がよかったわぁ。じゃなきゃ、こんな素敵な巡りあわせもなかったんだからね。
茜「そら間違いないですわ!
少し間をおいて。
茜「そういえば、葵とってどこで会ったんですか?
タカハシ「葵ちゃんねぇ、ここのごみ箱にぶっ刺さってたのよ。犬神家みたいに。
茜「犬神家みたいに。
タカハシ「それで急いで引っ張りぬいて、手当てして、てんやわんやしてるうちに今に至るって感じ。
茜「何がどうなってそうなったんすか?
タカハシ「何かがどうにかなったんでしょうね。ま、そこは後々話すとしましょ。ほら、着いたわよ。
目の前にそびえる怪しげな建物。ピンクネオンの看板が薄暗い空に輝いていた。
茜「おぉお……。ここが、葵の働いてる……。
タカハシ「そうよ。裏町の居酒屋、かもめへようこそ。
タカハシがドアを開け、店内の明かりが外に流れ出してきた。

〇かもめ 夕
ちりんちりんと鈴が鳴り、来客を知らせた。
店の奥から葵がやってくる。
葵「いらっしゃいませ!……、って、もう連れてきたんですか?
タカハシ「いやそれがね、聞いてちょうだいよ。この二人ね、私とは深ぁ~い縁のある子たちなんだけどね、なんと茜ちゃんの友達なのよ!この子たちのお友達なら心配無用と確信してね!
葵「へ、へぇー。えっと。
マキ「弦巻きマキです!そこのバカレッドとは高校一年からの付き合いです!
茜「誰がバカレッドじゃ。
ゆかり「結月ゆかりです。えっと、私も同じです。バカレッドの友達で……。
茜「だから誰が、
葵「琴葉葵です。バカレッドさんとは、双子の妹……だそうです。
茜「おめーも乗んなや!それと、だそうです、やなくてそうなんです!
茜、葵の横に並ぶ。
茜「ほら、こんなに似た他人がいるかよ?
マキ「おお、並ぶとよく似てるな……。
茜「せやろ、な?
葵「ええ、なんて言うか、信じられないですけど。
茜「なにが信じられへんよ!実際にウチとおまえは双子の姉妹で、こうやって感動の再会を演じとるんやないか。
葵「そうなんですけど。出来すぎっって言うか。
タカハシ「たしかに、奇跡みたいな話ですものね。
マキ「交通事故の恩人が実の姉貴だなんてねぇ。これが白馬の王子様だったらロマンティックが止まらないんだけどねぇ。
ゆかり「なんせ茜ですからねぇ。
茜「なんやお前らさっきから、死にたいん?
葵、笑いがこらえきれない。
茜「なんやて。
葵「いや……、仲、いいんですね。
茜「はぁー?これ見てそれ言うかぁ?かすやでこいつら。
マキ「うわ、かすとか。ひどいこと言いますよ。
ゆかり「ひどい人でんねぇ。
茜「ほれ。
葵「仲良くないとできないですよ、そんなの。
茜「そうけ?
葵「ですよ。
マキ「そいえばさ、これ聞いていいか分かんないんだけどさ、記憶なくす前の葵ちゃんってどんなだったの?
茜、急に深刻な顔になる。
マキ「あ、聞いちゃまずかった?ごめん、なかったことにして。
茜「聞きたいか?
マキ「ま、まぁ、無理にた言わないけど……。
茜「葵も、もしそれがとてもショッキングなものやとしても、聞きたいか?
葵「は、はい。聞きたいです。
茜、少し考えるそぶりを見せてから、重大な真実を話すようにして口を開く。
茜「昔のおまえは、琴葉葵は、ものすごいネグラやった。
葵「…………、は?
茜「人の顔もよく見れへんレベルのネグラやった。変な思想にもはまってたし。
マキ「なんじゃそら!
ゆかり「肩透かー!
茜「いやいや、結構衝撃やで!久しぶりに見たら、接客業なんかやってんにゃもん。
ゆかり「接客業で衝撃てどんなんですか。
茜「ほらもう、とんでもないで。人殺しみたいな顔しとったもん。
突如、茜のすぐ横から声。
月読アイ「かわいい女の子に、人殺しなんて言っちゃいけないよ?
茜「あっはっは!そうやな、ごめーんごめ……ん?
さっきまでおまえいなかったよな?って顔。顔が真っ青になる。
茜「うわぁぁぁあ!?なんじゃおまえ!ドっから湧いてきた?!
アイ「レデーに向かって、ヒドイコト言うわねー。ぐすんぐすん。
タカハシ「来たときは来たって、言ってくれなきゃビックリしちゃうじゃない。驚かせてごめんね、この子は月読アイちゃん。うちのオーナーよ。
アイ「アイちゃんって呼んでね~。
茜「いや、いやいやいやいやいや、オーナー?子供やないですか。
アイ「子供がオーナーじゃダメなの?
茜「いや、そういうわけやないけども……。てか、さっきまでいんかったよな?それはなんで、
アイ「乙女のヒミツです。
葵は全く動ぜずにアイちゃんの近くによる。
葵「久しぶり、アイちゃん。
アイ「うん、久しぶり。こっちはお姉ちゃん?
葵「そうですよ。それでこちらがその友達で……。
アイ「弦巻マキちゃんと、結月ゆかりちゃんだよね。よろしく。
笑顔を浮かべて手を差し出す。マキたちは冷や汗を浮かべる。何で知ってるの?
マキ「よ、よろしくね。アイちゃん……。
ゆかり「よろしくお願いします……。
常連の人たちが入ってくる。
常連「おばんですー。
常連「なんだ、カワイ子ちゃんが増えてるじゃねぇか。
葵「あ、いらっしゃい……
タカハシ、立ち上がりかけた葵の肩を持つ。
タカハシ「今日はいいから、お姉ちゃんたちとお話ししてなさい。
ウインクするタカハシ。
葵「あ、ありがとうございます!
楽しい時間はあっという間に過ぎ去る。日も地平線の向こうに姿を隠した。
アイ「へー、茜って天然なんだねぇ。
マキ「そうだよー、水張ってないプールに勢いよく飛び込むんだもん。ビビるよ。
葵「それケガしなかったんですか!?
茜「うちは頑丈やからな。
ゆかり「わたしらが病院運んでやらなかったらそのまま仏さまですよ。
葵「あ、危なかったは危なかったんですね。
アイ「よく今まで生きてこれたね、キミ。
茜「でへへ……。
全員「褒めてはない。
茜、爆速で真顔になる。
アイちゃん、外を見て呟く。
アイ「あ、もう十時だ。アイちゃん、もう寝る時間だから帰るね。
茜「おー、一人はまずいや……
アイちゃんの姿はすでにない。
茜「おまえの店はハッピーセットかなにか?
葵「どういう意味?
茜「なんでもねーです。ほたら、うちらも帰ろか。
マキ「だね、そろそろパパが心配に胃を痛め始めるころだよ。
茜「マキやんはパパコンでんねー。
マキ「は!?そんなんじゃ、ねーっ!
店の出口あたりで立ち止まり、葵を振り返る。
茜「ほな、葵。また明日な。
はっとした様な葵。
葵「うん、また明日。
タカハシが葵の横にやってくる。
タカハシ「信号無視の車とか多いから、気を付けて帰るのよ。
茜「ホンマですねぇ。
二やつきながら葵を見る茜。
茜「ほな!
マキ「じゃぁねー葵ちゃん、タカちゃんー。
夜の闇へと帰路をたどる三人の背中を見つめる二人。
タカハシ「よかったわね、葵ちゃん。
葵「ええ、あの災難のおかげですね。
タカハシ「ほんとに、神様が運転してたのかもね。
葵「なんです、詩でも書くんですか?
タカハシ「おちょくってるのかしら?
少し笑う二人。
タカハシ「さ、いままで楽しんだ分、たっぷり働いてもらうわよ!
葵「お手柔らかにおねがいしますよ~。
店の中に戻る二人。
葵『それから季節は流れて、

茜「おいコラボケマキそのエビフライはうちのや。
マキ「けち臭いこと言わないの!こんなに美味しいものを独り占めだなんて、キリスト様が泣いてるよ。
茜「うちのなけなしの小遣いで頼んだんやぞ!
マキ「はい、葵ちゃんも。あーん。
食べられていく茜のエビフライ。
茜「あああぁぁぁああ!!!

ゆかり「葵さん歌上手なんですか
タカハシ「そうよ、葵ちゃんはうちの歌姫よ。
葵「一回歌っただけじゃないですか
茜「えーめっちゃ聞きたいなー。
マキ「一曲お願いしますよー葵さんー。
葵「恥ずかしいですよ……
茜「そういうことなら、うちが場を温めてやろう!
店のカラオケスペースの壇に上がる茜。
葵「茜さん歌上手いんですか……、て、どうしたんです?耳なんか抑えて、、ゆかりさんも、、、。
大都会のイントロが流れている。
葵、何かに感づいた様子で耳を抑えようとーーー
茜「あああぁああああ!!!はてぇしないいい!!
気持ちの好さそうな爆声が店内を縦横無尽に反射する。振動に耐え切れないガラスたちの割れる音など、
歌い終わってすっきりした様子の茜。
無言で近づく。
葵「……、姉さん。
茜、嬉しそうな様子で
茜「おまえ……、ついにおねぇちゃんって……!
葵「いますぐ片付けろ、あと金輪際マイクは使用禁止だ。
鬼のような形相の葵。
茜「あ、はい。

12月23日。かもめの店内はクリスマスに向けて装いを改めつつある。
葵「デコレーション手伝ってくれてありがとうございます。
茜「ええでええで、ちょこちょこ無料で飯食わしてもろてるし。
マキ「貧乏学生にはありがたいよ~。
ゆかり「ですです。
タカハシ「お礼に24日はたっぷりご馳走してあげるからね。
茜「それホンマに楽しみです!今日から断食しときますわ!
葵「そこまでする?(笑)
茜「する。うまいもん。
マキ「また太っちゃうな~こまるな~。
ゆかり「楽しみです!
茜「それじゃ、またあした!
葵「うん、あしたね!
帰る三人。笑みを交換する葵とタカハシ。

〇葵の家 夜
葵が洗面台の前に立っている。顔をじーっと見ている。
葵「ホントにそっくり。
茜の顔真似をする。
葵「葵―うちの眼鏡知らんか?―お姉ちゃん、つけてるよーほんまや、うっかりうっかり。―もー、おねえちゃんったら!
一人でやり取りを再現しくすくすと笑う。
葵「もし怒ったらこんな感じかな?
怒り顔を造ったとたん途端、頭の中に記憶が流入してくる。忘れていた過去の記憶たち。
葵「突如押し寄せた記憶の濁流に抵抗もかなわず、私の意識は過去の奈落へと押し流された……
大量の記憶のフラッシュバックの後、ブレーカーが落ちたように暗闇。

第二話『相生い』

〇病院 病室
真っ暗な空間が明るく開ける。女の人の顔。なんだか優しそうだ。
母「はじめまして。私はあなたのお母さんです。あなたは葵、琴葉葵。冬に花咲くフユアオイが名前の由来です。暗く冷たい苦境の中でも、あなたの笑顔が枯れませんように……。

〇どっかの山 昼
幼いころの葵が息を切らして歩いている。
葵「お姉ちゃん、まって……。
ずっと先の方で茜が走っている。
茜「遅いで!はよはよ、めっちゃ景色キレイ!
父「そんな走って、転んでも知らんぞ。
茜「おとんもおかんもはよ来や~。
汗まみれの葵の肩を母が押してくれる。
母「さ、もうちょっと頑張ろ!おいしいご飯が待ってるで!
父「なんたって今日はパパが頑張って……。
葵「えー。ママのがいい!
父は拗ねてしまう。
母「あーあ、パパ泣かしたー。
やり取りを知らない茜は待つのに飽きてきている。
茜「なにしてん!はよはよ!

〇家の庭 昼
作り笑いを浮かべて二人並んで立つ制服姿の茜と葵。
茜「なーまだ撮るん?もーええやん。
父「あーこらこら、動くな、あーかーねー。
茜「もーいいてー。
葵「ワタシもつかれたー。何枚撮るのー?
父「可愛い娘の小学校デビューだぞ、何枚撮っても足りない足りない!
茜「1ぬけっぴ!
走って逃げる茜。
葵「ワタシもー。
続く葵。
父「あーっちょっと!なー頼むよー!
二人を追って走り回る父。

しばらくして、買い物から帰ってきた母。リビングで三人疲れ切って寝ているところを認める。ほほ笑み、父の近くに転がってたカメラを取り上げその姿を収める。

その写真をはじめにたくさんの思い出が飾られた棚。それを満足げに見ている父と母。時刻は夜。
母「夢のように幸せよ。
父「ところがこいつが現実なんだな。
母「私たちでつかんだ幸せね。
父「あの家にいた時の君とは大違いだ。
母「さぁ、どうだったかしら。
父「あんなドラマみたいな駆け落ちしたんだ。幸せにならなきゃ、道理が合わないよ。
母「今でも昨日のように思い出すわ。屋敷の警備をかいくぐって家を出た日のこと。張り詰めた空気、強さを増す心臓の音、あなたの手の温かさ。
父「君は足がすくんで動けなかった。
母「あんなこと、バレたらどうなるかって考えたら恐ろしくって、そう思うと足が動けなかった。
父「そんな君を勇気づけた。
母「どんなふうに?

眠れなかった茜がやってくる。
茜「あっー!!!オトンと悪寒がチューしてんでええええ!
ものすごい物音、どんがらがっしゃーんがらがらばりーん!笑ってる双子。

〇街路 昼
父と葵が二人で歩いている。
父「買い物ついてきてくれてありがとな。
葵「いかないって言ったら隅っこで拗ねるんやん。本屋寄ってくれるんやろ?
父「葵は本を読むのが好きだな。将来は小説家か?
葵「うん!大きくなったら小説家になってたくさんお金稼ぐの。
父「おー!すごいな!パパのことは格好よく書いてくれよ。
葵「えー、どうしようかな~。
葵、道路を挟んだ向こう側で何か催しをやっているのをみる。
葵「おとうさん!向こうで何かやってる!身にいこ!
父の返事も聞かずに走り出す葵。
父「おい、葵!危ない、走るな!
父のことばも馬耳東風。道路を渡り公園の中に近づく。突如、鈍い音。後ろを振り返る。父が道路の真ん中で倒れている。
葵「……お父さん?
救急車の音。暗転

〇家 朝
玄関先、葵と茜が外に向かって立っている。視線の先には母。知らない男と立っている。
母「それじゃ、行ってくるから。
ドアが閉まり、薄暗くなる部屋。残される姉妹。

茜が金を勘定している。
茜「七、八、九、十……!今度の男はエライ景気のいい奴やな。
葵「やった、贅沢できるね。
茜「あほ、こういうのはチョキンしとかなアカンねん。ヤリクリってやつやで。
葵「へぇー、流石おねぇちゃんだ!
茜「へへへ、褒めても何もでぇへんで。
葵「すごい!かしこい!あたまいい!
デレデレとする茜。
葵「ところで私ほしいものあるんやけど。
茜「なんやなんや、なんでもいいや~!
葵「っへ。
ちょろいな、と心のなかでニタつく葵。

〇買い物帰り 昼
並んで歩く姉妹。二人でもつ買い物袋の中には一杯いっぱい者が詰まっている。
葵「結局たくさん買っちゃったね。
茜「やってもたな。来週からもやし生活やで。
葵「ゆうて結構残ってるやろ。
茜「まぁね~
葵「さっすが!
茜「もー何も買ったらへんで~
葵「けち!
茜「ケチやない~

カレンダーが捲れていく。姉妹の生活の様子は侘しいながらに子供の活気に満ちている。そして時は八月十二日。琴葉姉妹小学六年生の夏。

〇家 朝
葵が起きてくる。
葵「おはよ~。お姉ちゃん今日は早起きだね。ん?
机の上にメモ書き。『買いもんいってくる!』
葵「行くなら行くって言ってくれたらいいのに!
プンプンしながらメモを読んでいると座敷の方からすすり泣く声が聞こえる。不審に思いながら音の主を盗み見る。
母だった。衣装ダンスの上に置かれた父の遺影に向かって土下座のような態勢でうずくまっている。
葵「お母さん。
母が葵を見る。枯れ柳にように垂れた黒髪の間から、真赤に腫れたうつろな目が見える。
母「葵……。
ふらりと立ち上がり、葵の方に近づく。焼けつくような視線を葵に注いでいる。
葵「……お母さん?
母「……お前のせいだ。
パサついて口紅が乾泥のようになっている口をゆっくりと開く。目はうつろなまま。
母「おまえのせいで、お父さんが死んだんだよ。
葵「……わたしの、
突然、母が葵の肩を掴んだ。
母「おまえのせいで!お前のせいでわたしはこんなに苦しんでるんだ!ようやく掴んだ幸せが!おまえのせいで全部パーだ!返せよ!私の!返せよ!
擦り切れそうな叫び声を上げながら葵の肩を揺さぶり、床に押し倒す。
母「おまえさえいなかったら!みんな幸せだったんだ!お前さえいなかったら!お父さんは死ななかったんだ!おまえさえ!
ひたすら葵に罵詈雑言を投げつける。葵は何も言うことが出来ずにただただ怯えている。
茜「おまえ何してんねん!
茜の叫び声。母の身体を弾き飛ばす小さな体。
茜「珍しく帰ってると思ったら、何のつもりや!死にたいなら一人で死ねや!死ぬ勇気がないなら……うちが殺したるわ!
母に向かってとびかかり、殴りつける。
鈍い音、叫び声、喧騒のなか葵の意識は白く霞んでいった……。

気が付いた時には日が暮れていた。茜は葵の近くに座り込んでいる。
葵「……お母さんは?
茜「出てった
葵「そう。……ねぇ、お姉ちゃん。私が、みんなを不幸にしたんかな。私がいなかったら、みんなはまだ幸せだっんかな
茜「おまえが?なんでやねん
葵「わたしのせいで、おとうさんは……
茜「おまえがいんかったら、先にうちがあの世いってもとるわ。覚えてる?うちが雨ちゃんと間違えてビー玉のどに詰まらせたとき、おまえ、見つけるなりうちの腹にけりいれたやん。あんときは怒ったけど、お前がいんかったら、えらいことなってたで
葵「そう
茜「ビー玉と一緒に色々吐いてたけどな。あんなん見られたら、嫁に行けんで
葵「そうかも
茜「そこは否定するとこやん
笑いあう二人

朝、葵は皿洗いをしている。茜が尋常ではない様子で飛び込んでくる。
茜「葵!ちょい来てくれ!
葵「そんなにあわてて、そうしたん?
茜「おかんが倒れてる!
葵「え?
母は扉のすぐ横に座り込んでいた。顔は真赤にむくんでいる、体のそこら中にあざが見られた、酷いところは血が出ていた。
茜「うち頭の方持つから、葵は足持ってくれ。
葵「う、うん。
二人「せーの!
家の中に運び込み、座敷の真ん中に寝させる。
茜「体ふいといて、うちなんか作ってくるから。
葵「分かった。
服を脱がし、濡れタオルで体をふいてやる。全身に打ち傷、痣があり、特に腹部が赤紫に変色していた。
葵「こんなになって、一体、何してたの?
母「ごめんなさい……
葵「何で謝るの?
母「ごめんなさい……
身体を拭き終えるのに合わせて茜が粥を持ってくる。
茜「熱かったらいうてや
そういってすこしずつ粥を口に運んでやる。
母「……あ、
茜「なんや、熱いんけ?
母「ぁりがとぅ……
茜「……、冷めたらうまなくなるで
粥を食べさせ終えた茜は食器を片付け私と共に母の傍らに座り込んだ。正午の太陽が白く輝き、部屋の中から色素を奪っていった。
母「わたしは、いったいなにをしてたんだろうな。
母「あなたたちにひどいこをして……、私が母親でごめんなさい。
そういって涙を一筋流し、目をつむって、もう二度と開かなかった。蝉の声が部屋を包んだ。

葵『母をもなくした私たちは、父方の親戚へと預けられた。でも、その家の人たちは私たちをあまり快く思わなかったようだ。平凡な言葉の裏にいつも何かしらの悪意を感じた。あの人たちが悪いんじゃない、あの人たちにだって家族がある。そこに割り込んできたら、誰だってよい思いはしないだろう。表面上は優しく接してくれているのだから、腹の中にまでをも求めるのはワガママというものだろう。彼らは親切で、私たちはそれに感謝しなきゃいけない。茜は家事だったり雑行をやったりしてうまくやっている。一方、私はといえば、誰とも話さず付き合わず、一人で本ばかり読んでいた。知りたかった。どうしてこんなに不幸が続くんだろう。どうしてよりにもよってお父さんが車にはねられたんだろう。どうしてお母さんはあんなに苦しまなきゃいけなかったんだろう。どうして、幸せな人と、不幸な人がいるんだろう。
茜「そんな難しいこと聞かれてもわからんわ。気の持ちようちゃう?
葵「気の持ちよう?両親を亡くして、疎まれながら人のお世話になっているこの現状が気の持ちよう?
茜「受け入れてくれる人がいるんやから、有難いことやんけ。文句ばっか言ってても、気ぃ悪するだけやんか。
葵「おかあさんは古いしきたりで縛られた実家から努力して抜け出したのに、あんな最期だったよ。
茜「みんながみんな、報われるわけないやんか。
葵「私はね、こう思うの。大多数の幸せのために、人生の幸福すべてを売りに出された人がいるんだって。その人は何をしたって報われなくって、ひたすら不幸な人生を歩かされ続けるんだ。でもその代わりに、彼らが捧げた幸福を代価に、その他大勢の人々は幸福を享受することが出来る。
茜「それがホンマにそうやったとしても、うちらはどーもできひんやん。
葵「そう。だから、不幸な人は自分の役割を自覚して、自身の不幸を誇るべきなんだ。これが私の役割なんだって。私が不幸であることで幸せになれる誰かがいるんだって。
茜「家事の手伝いもせんで本ばっか読んでる言い訳がそれか?変な思想にかぶれてる暇があったら庭の草むしり手伝ってや。
葵「お姉ちゃんは疑問に思わないの?どうして私たちは普通の人と違うんだって……
茜「うちは、今生きるので精いっぱいやから。ほら、お日様の日に当たったら、ふさぎの虫も退散するで!
ぽいと鎌を投げてよこす茜。悲しそうな顔をする葵。

〇学校 昼
不良A「よう、ちょっといこうや。
葵『モブくんがまたトイレに連れていかれた。みんな知っている。彼はカツアゲされてる。一か月前、不幸にも不良のシャツにジュースをこぼしてしまったモブ君。彼がああやって不良の悪意を受け続けてくれるおかげで私たちは平穏無事な学生生活を送ることが出来ている。綺麗ごとではない、事実だ。いじめを傍観する理由は自分の安寧を守りたいの一因に尽きる。そしてその安寧はモブ君のような不幸な人によってもたらされるのだ。これは、感謝すべきことなのだ……。

帰り道、葵はモブが不良に絡まれている現場を見止める。見なかったふりをして通り過ぎようかと思ったが、少しの逡巡の後、立ち止まってスマホのカメラをその方へと向けた。

翌日、モブ君は不良に絡まれていない。満足げな顔の葵。しかし帰り道、また昨日と同じ場所でぼこぼこにされるモブ君を見る。
不良A「おまえチクっただろ。
不良B「おかげで進学取り消しになったじゃねぇか。
モブ「いや、そんなこと
不良A「じゃあほかに誰がやんだよ!言ってみろや!
不良B「これは賠償だな、……
葵、耐え切れないといった様子でその場から逃げ出す。
葵『私は一つ思い違いをしていたかもしれない。幸不幸の論理は絶対だが、不幸をもたらす存在に対して、干渉できる場合もあるんじゃないか。論理には向かうのではなく、その不幸の原因に対して働きかけることが出来れば、不幸な人の数を少なくできるんじゃないか?それすらできないほど、私たちは無力か?

先生「みんなもニュースで知っているとは思いますが、モブ君が亡くなりました。なぜこんなことになったのか……
唖然とする葵不良の方を見やるとなにやらニヤニヤしながらささやきあっている。
葵「どうして、こういう人間が存在しているのだろうか?どうして、他人の幸せを破壊して平気で笑ってられる人間が存在しているんだろうか。それは、つまり、彼らは幸福な人間でもなく、不幸なのでもなく、そのバランスを保つために存在している、いわば幸せの徴収人だからだ。人の幸福を弄ぶことが彼らの使命であり、役割なのだ。だから、他人の不幸に際してああも愚劣に笑ってのけるのだ。
家、夜中。おもむろに包丁を取り出す葵。
葵「幸福な人間と不幸な人間がいるという論理を曲げることはできない。でも、その原因に対して働きかけられる場合がある。この悪の因子を除くことが、私たちに課せられた正義の義務なんじゃないか。これからも彼らは他人の不幸を餌に人生を謳歌することだろう。それは、許されていいことなのか……いや、そんなわけ!
茜「包丁なんかもって、どうしたん?
暗闇から茜の声。ひどく不審げ。
葵「い、いやぁ、小腹がすいたなぁとおもってね。なんでもないよ!
茜「まな板も、具材も出さずに料理か?
葵「今から出すとこだったの!あ、そうだお姉ちゃんも……
茜「何考えてるか知らんけど、おまえ……
葵「もう、なんなのさ、そんな顔して!
茜が葵の腕をつかむ
葵「もう、ほんとにどうしたの? 離してよ、結構掴む力強いよ!
茜「お姉ちゃんは、お姉ちゃんはおまえの味方やから、な。ほら、はなし
包丁を取り上げようとする
葵「ちょっと、やめてよ!危ないじゃんか!離して……
茜「いいから……離せ!
葵「だから、離してってば!
二人しばらくもみ合う。突如手のひらに伝わる鈍い感触。茜の腹に包丁が刺さっている。
茜「葵……
葵「あ……違うの、そんなつもりじゃ……
座り込む葵。視線の先、倒れ伏す茜のしたから赤黒い血がぬらぬらとあふれ出る。
葵「ごめんなさい……ごめんなさい……
茜と目が合う
葵「うわああぁぁぁあ!
狂ったようにその場から走って逃げる葵。残された茜はうつろな目で葵の姿を見る

〇走る葵
葵『どうして……! どうしてどうしてどうしてどうしてこんな事に! 私は、私はただ……っ
何かにけ躓いてすっころぶ。葵の瞳孔が開く
葵『突如、頭に降ってわいた考え。確信めいたそれは絶望の一撃のもとに私を打ち砕いた。
フラッシュバック。父の死、母の狂乱、モブのいじめ、倒れる茜。
葵『みんな私のせい。私が……ほかならぬ私こそが、幸せの徴収人じゃないのか。
視界がゆがみその場にうずくまる
葵『なにも考えることが出来なかった。私は、不幸な人間じゃなく、人の幸せを奪う人間なんだ。
母『おまえさえいなかったら! みんな幸せだったんだ! お前さえいなかったら! お父さんは死ななかったんだ! おまえさえ!
葵「うああぁぁああ!!!
頭を抱えて叫び声をあげる。周囲の人たちが心配して寄ってくる。
葵「お願い! 近寄ってこないで! お願いですから! 向こうに行って!
変な顔をして立ち去ってゆく人、好奇心に駆られてスマホ片手によってくる野次馬。葵は限界が来たといった様子でその場から逃げ去る。

葵『私がいたから、お母さんの幸せは壊れてしまった。私が余計なことしたから、モブ君は死んでしまった。ごめんなさい、ごめんなさい、いくら謝ったところで反省したところで私は依然として害悪のままだった。不幸な人と幸福な人が存在するということについて、私たちにできることはない。でも、もっと身近なとこと、自分に鑑賞できる範囲で不幸を少なくすることはできる。
ビルの屋上に立つ葵
葵『ここなら、誰も通らないだろう、ここから飛び降りれば、間違いなく死ぬだろう。私は私の罪の償いのために死にます。私が死んだところで、失われたものは帰ってこないけど、どうか、私のいなくなった後の世界が、今よりもましなものでありますように……。ごめんなさい、お母さん。ごめんなさい、お父さん。ごめんなさい、お姉ちゃん……
ゆっくりとビルから飛び降りる葵。
衝撃音!

〇葵の家 夜
洗面台の前でゆっくりと顔を上げる葵。鏡に映る自分の顔を見て笑い出す。ひきつった笑いだった。
葵「あっははははっはははは!

第三話『茜差す日』

〇かもめ 夕
茜たちが焦った様子で駆け込んでくる
茜「葵がいんくなったって!?
タカハシ「そうなのよ、家に電話かけても出ないし、個人の電話にかけてもだめで……
マキ「何か事件に巻き込まれたじゃ……
ぞっとする茜
茜「うち、ちょっと探しにいってくる!
走り出す茜をマキが捕まえる
マキ「ちょっと待ってよ! 探すって言っても、どこを探すのさ!?
茜「ほんなん手当たり次第に探すしかないやんけ!
マキ「でも町一つだよ! もう暗くなってるし……
茜「じゃあほっとけってか?
マキ「そうは言ってないじゃんか!
タカハシ「やめなさい、二人とも。喧嘩しても葵ちゃんが見つかるわけじゃないのよ
葵「私が、なんですって?
声のした方へ皆一斉に振り向く。葵が立っている
タカハシ「葵ちゃん……
茜「葵! 連絡もせんで何してん! なんかあったんかと……
葵「触らないでよ、馴れ馴れしい
茜の手をはじく
茜「……なに?
葵「相変わらず、何も考えてなさそうな感じだね、茜
呆気にとられる周囲
茜「おまえ、記憶戻ってんか?
葵「どうでしょうね
茜「おまえそんなキャラ違ったやろ! それ絶対後で枕に顔うずめなあかん奴やで! そういうのええから……
葵「何言ってんの? 私は昔からこんなんだよ
マキ「葵ちゃん?
葵、マキたちの方を見やる
マキ「私たちのことは覚えてる?
葵「ああ、マキさんにゆかりさん、それにタカハシさんですよね
ゆかり「どうして急にそんな冷たいんですか?
マキ「覚えてるなら、みんなで過ごしたのも覚えてるでしょ! 楽しかったじゃんか!
葵「ええ、楽しかったです
ゆかり「じゃあどうして?
葵「それには私の哲学が関係していましてね。そうだ! 皆さんにも聞いていただきましょう! まず結論から言いましょう。人間は皆孤独であるべきなのです。人間を苦しめるものは大きく大別して金、才能、人間関係の三つです。そしてこの三つのうちの金と才能の苦しみは、他人と自分とを比較することに起因します。そして人間関係ですが、まず人間は社会生活に必要最低限の範疇を超えた人付き合いをしてはいけない、いや、することはできないのです。そもそも人間というものは十万年近い歴史の大部分を共同体のうちで生きていました。この共同体において個人の意思というものに価値はなく、自分の意思とは違う仕事に就き、自分の意思とは関係なく婚姻を結ばれる。すべては社会集団の維持のために動いていたわけです。しかし、人間は文明を生み出す過程の中で個人の自由なんてものを発見してしまった。これがそもそもの間違い! 史上最悪の発見でした。人間にそんなものをしょって立つ力などなかったのです。身分不相応なものを手に入れた結果、私たちの共同体は崩壊し、一つの巨大な集合体から腑分けされてしまったのです。ああ! この時点で人間には孤独が宿命づけられていたわけです! 人間が独りで生きていけるわけがありません、だから人々はかつての共同体を再び作ろうとしました。しかし、個人意思の排除を前提に維持されていたかつてのような社会を再建することは不可能でした。衝突し、掟を破り、やがて崩壊する。私たちは私たちの生きていく大枠を失ってしまったわけです。しかしそれでは生きてゆけない、そこで生み出されたのが宗教です。法律です。国家です! しかしこれらは代替品、妥協品なわけです。結局、私たちは憎み、攻撃し、排斥します。もはやわれわれに共同体を維持することはできないのです。しかし私たちは社会がなければ生きていけない、だから我々はこの社会を少しでも延命できるように自分の意思を無くさなければいけない。つまり、自分の意思をぶつけられるような相手を減らさなければいけないのです。……以上の論理によって、私たちはこの社会の維持に必要最低限以上の人付き合いをしてはならないのです。つまり、あなた達との交流は必要以上のものだと判断した、ということです。
マキ「そんなの、寂しすぎるよ!葵ちゃんだって笑ってたでしょ、楽しかったんでしょ!?
葵「ええ、楽しかったですよ。でも、いつそこに不和が生じるか分からない。現に今さっき喧嘩してたじゃないですか
ゆかり「それは葵さんのことを思って
葵「喧嘩したんですか?私のせいですよね、私がいなければその喧嘩は無かったんですよね?
茜「ようするに人間関係悪化するのが怖いから私は逃げますってことやろ
葵「逃げじゃないですよ。これは知恵というんです。
茜「どっからどう考えても逃げやろうが。そらみんながみんなやりたいようにやってたら社会なんか回らへんわ。だからみんな話し合ってんねん、意見が合わん奴とよく話して、なんとか合点のいくようにしとるんや。みんな自分の理想から二三歩離れたところで妥協しとんねん。人付き合いやって同じや、そういうことを無駄ってへらんちょ向くんは逃げっつうんや!なにが知恵や、逆や逆、ただの思考放棄やろが!
葵「それが私の言ってる最低限の人付き合いってやつですよ。私が不要といっているのは、それによって関係に不和が生ずるようなものを言っているのです。恋愛の三角関係なんてまさしく恰好の例えでしょう。それによって関係がこじれ、友情に亀裂が走り、その余波が他の人間関係に響く。破廉恥騒ぎで崩壊した集団なんて星の数ほどあるでしょう。そういうのを無駄だと言っています。
茜「そうやって割り切れへんからみんな無駄やと分かってても友達やんねん。もしお前が言ってるみたいなことしとるやつがおったらそんな奴人間ちゃうわ! 虫か機械や!
葵「でも、その状態を理想に据えておくのは良いことなんじゃないでしょうか。理想というのはあくまで指針ですから。そうしておくことで無理に他人と合わせた結果自分を見失うなんてこともなくて済みます。
茜「その程度で無くなるような自分なんてなくてもともとや
葵「あんたみたいに我が強いとそうなのかもね。私は弱い人たちのことも考えて言っているんですよ。みんながみんなあんたみたいに生きられない
茜「うちがなんも悩まんで生きてるとでもおもってんのか!
立ち上がり飛びかかろうとする茜。マキが急いで抱き抑える。
マキ「ちょっと茜!落ち着いて!
茜「こんな舐めたこと言われて落ち着いてれるか! あんだけ言われておまえは腹立たんのかて!
ゆかり「だからって、いけませんよ! いま、何をしようとしたんですか!?
葵「ほうらきた、やっぱり暴力だ。話し合う、妥協するなんて言ってるあんた自身が一番我を通そうとしてるじゃないか。実際にそれで通してきたんだろうね。で、その姿をみて有象無象が勘違いするのよ“私も、あんなふうにできる”って。とんだ勘違い! 最悪の思い上がりだ! あんたは有能だよ。それでいろんな弱者を救ったんだろうね。でもね、あんたに助けてもらったやつらが見るのは、あんたの背中に鏡みたいに映された自身の無能なんだ……
場に沈黙が流れる
葵「関係すべきでない人間と関係することは大多数の人間にとって猛毒にも等しいことなんだ。だから、わたしはあんた達とは関わらないべきだと思っている。私の存在があなた達にとって害悪なように、あなた達の存在は私にとって害悪なんだ。だからもう、私のことは放っておいてください。
タカハシ「わたしは、あなたが私にとって悪いものだとは思えないわ
葵「私は……、あなたが何かの悪疫に見えますがね。
タカハシ「……ッ
マキ「葵ちゃん!それはひどすぎるよ!
葵「あんただって! さも私は善人です、って面してるけど、腹の中じゃ他人を軽蔑するし、嫉妬で相手の不幸を願ったりしたこと、あるんじゃないか? そんなの、自分も苦しいし、相手も気が悪いじゃないですか。そんな関係、さっさとやめた方がいいんですよ。
マキ「そんなこと
葵「あります! 大いにあります! 第一、本音を隠してまで他人と付き合うことに何のメリットがあるんですか? 自分のいないところで自分の悪口言ってるかもしれないような奴と関係して一体何の得があるんですか?
マキ「得するとかじゃないんだよ! 一線の得もない、それどころか損しかさせないような、そんな人でも何か引き付けられるものがあるから友達って言うんだよ! 損得で付き合うようなのは友達だなんて言えないよ!
葵「そういう人づきあいが不幸の元だって言ってるんですよ。その引き付けられるって言うのはあなたの感情ですよね? なんだか引き付けられて付き合ってるのがよいものなんだとしたらホストに貢いで人生おじゃんにしてるような人たちはどうでしょう。幸せですか? 友人にはあきれられ、家族には諦められ、最愛の人間からは金の出る穴くらいにしか見られていない。そんなのが幸せ? 極論でしょうが、感情に呼び集められたものは不幸を呼ぶんですよ!
ゆかり「それじゃあ、必要最低限の関係なんでどうやって見分けるんですか? あなたの言うような人にとってホストは人生の光で、なくてはならないものです。
葵「簡単ですよ。もっとも単純に、自分が食って、寝ることが出来る生活を維持するために必要なものを、客観的に考えればよいのです。感情なんて混ぜ込むからややこしくなる。
マキ「でも、全く馬の合わない人にだってなんかしら尊敬できるところがあって、そこから何かを学び取れることもあるじゃんか!寝て食うだけの生活なんて、
葵「それって毒への耐性をつけるために毒を飲んでるようなものですよね。耐えられるような人はいいとして、耐えられない人はどうなります?そういう人間の善性に期待するところから逃げは甘えなんて言葉も出てくるんじゃないですか?
茜「逃げって言うんは何かに挑んだことあるやつが言うことで、鼻からそっぽ向いるような奴は怠けもんっつうんや!
葵「いままで何とか出来てきた人はみなそういうんですよ。でもですよ、生きていく、ただそれだけで手一杯の人に対して毒を煽れだなんて、そんなひどい話ありますか?
茜「そういうやつはそういうやつなりの生き方したらええねん。自分は自分っていって周りの奴らなんか無視したったらええねん!できん奴に合わせてみんなが我慢させられたらたまったもんやないわ!みんなで手ぇつないで地獄行き。美徳やなぁ、優しいなぁ! でもそれだけや。誰かの迷惑にならんか気にして生きてたらなんもできんのや。なんもできん奴はできんなりになんかできることを探さなあかんねん。俺は何もできないやつだ……、なんて愚痴垂れとる暇があるなら外に出てごみ拾いでもすればええねん。なんも考えんで遊んどるやつよかずっと立派や!めそめそうじうじ、救いの呪文みたいにタラレバいうとるやつに、誰がやさしくするかよ!
葵「ご高説だね、正論だよ。まったく、大した正論さ。でもね、正論ってのは一種の極論で、その通りに動ける人間なんてめったにいないのさ。ごみのポイ捨てはいけません、道の傍をみればゴミだらけだ。暴力はいけません、いじめも虐待もそこらにありふれている。どうしてできないかってやっぱり感情が一枚かんでるからなんですよ。ポイ捨てしたら追放、いじめ虐待は死罪、最低限の人間関係のみを残して他の物とは一生関わらない。だれも悲しまない世界を作るためにはまず個人の意思と自由を取り除く必要がある。いま、人間に必要なのは圧政と孤独です。
茜「そしたら、おかんは悲しまんですんだか?
葵「……
茜「壊れて悲しませるような幸せなんかいらんって言いたいんかもしれんけど、それならうちらの子供んときの思い出みんないらんってことになるんやで。それでええんか? オトンと遊んだのも、おかんと笑ってたんも、全部無駄か?
葵「その幸せな思い出がお母さんを苦しめたんだ。無意味どころじゃない、劇毒だよ。
茜「おかんが死んだのもその幸せな思い出のせいか?
葵「それじゃぁ、どうしたらお母さんは救われたの?もうどうしようもないほどに遠くなってしまった美しい思い出に後ろから照らされて、あるくのは自分によってつくられた暗い道だ。何が悪いのかもわからなくなって、子供を攻撃して、自分を傷つけて、挙句に自分が母親でごめんなさいなんて言って死んでいかなき行けなかったお母さんは、どうしたら救われたの?
誰も、何も言えない
葵「お母さんだって、お父さんと出会わなければあんな最期を迎えなくってよかったかもしれない。いずれ失われるのなら、友達も、幸せもいらない。私はそう思います……
葵は出口の方へと歩いていく
葵「そういうことです。さようなら
去る葵。残された者たちは茜をみる。
マキ「茜、葵ちゃんとなにがあったか、教えて
タカハシ「話しにくいことだとは承知してるわ。でも、私たちも力になりたいの
ゆかり「半年ちょっとの付き合いですけど、私たちにとっても、葵さんは大切な友達です
マキ「あんな風に笑ってた子が本気でそんなこと思ってるなんて、考えられないよ
茜、腹を決めたようにつぶやく
茜「ちょっと長くなるけど、堪忍やで
話し終わると、茜が服をめくる
茜「うちを刺した傷ってのが、これや
傷口を見て皆唖然とする
マキ「いや、いやいやいやいやいやいや、こんなのあっさり流していいもんじゃないよ!
ゆかり「どうしてこれまで言わなかったんですか?
茜「どのタイミングで言うねん。それに、あんな精神状態のあいつにこんなん見せたら、それこそどうなるかわからんで
マキ「でも……
茜「言っとくけど、気にしてんってわけやないで。事が済んだら、いやっちゅう程こすったるつもりや
タカハシ「あなたが強い子でよかったわ
茜「強いも何も、たった一人の家族ですからね、見捨てるなんて選択肢、そもそもないですわ。ほら、貧乏してるときって十円玉ですら絶対はなさんやないですか
マキ「なんだよその例え
茜「分かりやすいやん
ゆかり「わかりやすいっちゃ、そうですけど
タカハシ「ま、茜ちゃんの腹が決まってるなら、さっさと行動に出ましょう
ゆかり「行動に移すって言ったって、葵さんがどこに行ったかなんて……
タカハシ「それがわかっちゃうのよ、ね、アイちゃん。
アイ「ありゃ、ばれてた!
タカハシ「こんなシリアスな話を盗み聞きなんて、趣味が悪いわよ。立ち聞き料に、協力してもらおうかしら
アイ「あんまり、干渉するのはよくないんだけどね。
ゆかり「本当に何者なんですか?
アイ「アイちゃんはアイちゃんだよ。そうねぇ、じゃあヒントだけ。廻生の地、夜を見降ろす場所、犬神家。それじゃあ、アイちゃんは観客席にもどるよ。茜、期待してるからね。
すぅ、っと消えていくアイちゃん。
茜「なんなんですか、まじで
タカハシ「ま、いいじゃないの。
マキ「そうだよ!アイちゃんの言ってた場所を考えようよ!
茜「そうやな、そうですわ!うーん、廻生の地……、夜を見降ろす場所……、犬神家。
タカハシ「犬神家……
茜・タカハシ「犬神家!

〇例のタワー
茜「いや最初の二ついらんやろ
タカハシ「ほぼ答え言ってたわね
ゆかり「なんかバカみたいですけど、ほんとに葵さんいるんですか?
タカハシ「アイちゃんが言ってたのよ?
マキ「おぉ、なぞに説得力あるなぁ……
階段を上り終える。屋上の窓から外をのぞくと、いる。葵は建物のへりに腰掛け空を見ている。
マキ「ほんとにいた……
タカハシ「ね、言ったでしょ
ゆかり「それじゃあ
茜「うちが一人で行くわ
マキ「どうにかできるの?
茜「みんなで行ったらあほみたいやんけ。それにさっき何もできんかったやろ。
ゆかり「それは
茜「ここは姉であるうちに任せてくださいな。
自信満々に笑う茜

〇ビル 屋上
葵はタバコをふかしながらぼんやりと上を見上げている。茜はゆっくりと近づく
葵「あの時も、こんな夜だった気がするよ。いや、まるで全部あの時みたいだ。でも、今夜あなたが傷つくことはないよ。なぜかわかる?
茜「葵、
葵「ストップ!それ以上近寄ったら飛び降りますよ!生きてるだけで回りを不幸にするような人間に、それも今から死のうとしている人間にかかわっちゃいけませんよ。
茜「それがお前のほんまやな
葵「聞こえなかったんですか!? 飛び降りますよ!
茜「おまえは死ねんで
葵「ここにきて、私がまだ命を惜しむとでも?私はね、一回ここから飛んでるんですよ。……いいですよ! そのつもりなら、見せてあげますよ!
飛び降りる葵、それと同時に走り寄り、葵を掴む。
茜「ほらな、死ねへんやろ?
葵をひっぱりあげ、殴り倒す。馬乗りになってまた殴る
茜「このどあほが! 一人で悲劇のヒロインぶっとんとちゃうぞ! 親が死んだがなんや! 同級生が死んだがなんや! それとおまえになんの関係があるンや! お前にそんな力はない! それを避けさせられる力もない! 中二病もたいがいにしとけ!
茜は泣きながら殴り続ける
茜「アホウが! アホウが! アホウが! アホウが! アホウが! おまえと逢えて、どんだけ嬉しかったか分らんのか! やっと仲直りできるって思ってどんだけ嬉しかったか! もう会えんと思ってたのに……! 一人でうじうじ悩んで、バカなことしやがって!
マキたちが飛び出して、茜を抑える
マキ「ストップストップ!何してんのさ!
茜「はなせ!やめぇや!
ゆかり「暴力はよしてって言ったじゃないですか!
タカハシ「茜ちゃん、落ち着いて、ね?
茜「うちは……、冷静ですよ。
離してもらって、落ち込んだように立つ茜。
茜「じゃあな。
座り込む葵を見てそう吐き捨て、出口の方へと向かう。と、急に立ち止まる
茜「そうやそうや、腹の傷のお返しを、まだしてなかったわ
マキ「あかね……?
皆の顔に戦慄が走る。茜がナイフを取り出した
茜「どうせ死ぬつもりやったんや、一緒やろ
ゆかり「茜!駄目です!
タカハシ「茜ちゃん!
不意を突いての行動に誰も対応できず、茜のナイフは葵へと突き刺さる
茜「なーんてな、
マジックナイフ。
茜「さっきまで死ぬ死ぬ言うてたくせに、何ビビっとんねん
笑いながら頭をたたく
葵「はは、バカだね、私
にこりと笑う茜
茜「それじゃ、また明日!
どんと肩を掴んで笑いかけ、振り向いて帰っていく
マキ「おま、マジでビビったわ!
ゆかり「やめてくださいよ!心臓に悪い!
タカハシは葵の横に残っている
タカハシ「私たちも、帰りましょうか
葵「……怒らないんですか? わたし、酷いこと言いましたよ
タカハシ「誰にだってそういうのはあるものよ。さ、早く帰りましょ。昨日から、何も食べてないんじゃないの?
葵「いや、そんな……
腹が鳴る。顔を真っ赤にする葵
タカハシ「ご名答?
タカハシ、ふと茜の落としていったリボンを見止める
タカハシ「あら茜ちゃん、おっちょこちょいしてるわね
リボンを拾い上げ、葵に差し出す
タカハシ「届けてあげなさい
葵「え?
タカハシ「ついでに、ご飯でも食べてきなさいよ。駅前ならまだ空いてる店多いわよ
タカハシ、財布からいくらか取り出し、葵に差し出す
葵「ありがとうございます
茜の後を追いに走り出す。その様子を愛おし気に眺めるタカハシ
タカハシ「あ! ガスの元栓を閉め忘れてたわ! たいへん!
そういうなりビルの屋上から飛び降りて店へと走って向かう

〇葵
走って走って、茜たちの姿が見えた。横断歩道を渡る所だった。(そこはちょうど、葵のはねられかけた場所)
葵「おねえちゃん!
『走り疲れて、絞り出すようにしてだした私の声はひどくか細く、あっという間に夜のしじまに掻き消えた。それでもあの人は、振り返ってくれたのでした
マキとゆかりは気づかずあるく、茜だけは一人立ち止まり、葵の方を見る。笑顔を向ける。葵も笑顔で答える。
次の瞬間、茜の顔が白く照らされた、続いてひびく鈍い音
どかあああん。

第四話『茜と葵』

車にはねられ道路に横たわる茜。赤青のランプが揺れる視界を染め照らす。うつ伏せに倒れる茜の下から赤黒い液体が流れ出てくる……
葵「ああ、あああ、あああああああああ!

〇かもめ 夕
叫び声をあげてベッドから跳ね起きる葵
タカハシ「葵ちゃん!落ち着いて!
隣に座っていたタカハシが葵をなだめる。落ち着いた葵は息を震わせて尋ねる
葵「茜は……、どうなったんですか?
タカハシ「茜ちゃんは、車にはねられたショックで昏睡状態、でも、特に大きな外傷なんかはないから、命の危険はないわよ。
葵「そうですか……
タカハシ「いま、マキちゃんとゆかりちゃんがお見舞いに行ってくれてるから、電話して……
葵「いや、いいです。
タカハシ「え?
葵「電話しなくて結構です。もうすっかり理解しました。茜は、私といると不幸になります。おもえば、ずっとそうだったんですね……
タカハシ「そんなの、ただの思い過ごしよ!運が悪かっただけで、あなたには何の……
葵「私が茜を呼び止めたんですよ。
タカハシ「……っ
葵「私が茜を呼んだから、茜は事故に遭ったんです。茜のはねられた場所ね、私が茜に助けてもらった場所なんですよ。恩をあだで返すとはまさにこのことですねぇ!茜を刺した時もそうでした、私が包丁を持って立っているのを、茜はわたしが思い悩んでいるものと思って、助けようとしてくれたんですよ。父もそうです!私が車にひかれるのを心配した父は、自分のことも忘れて私を追ったのです!もう分かりました!すっかり分かっちゃいました!
葵は叫びながらベッドから飛び降りる。
葵「私は幸せの徴収人なんですよ!みんなの幸せを奪うために生まれてきた存在なんですよ!
急に頭を抱えてしゃがみ込んだかと思うと、何事もなかったかのように立ち上がり、タカハシの目をじっと見つめて呟く。
葵「もし違うというのなら、教えてください。誰が悪いんでしょうか?誰も悪くないというのなら、私はどうしてこんなにも他人の不幸の引き金になっているのでしょうか?どうして私の家族はあんな不幸に遭わなきゃいけなかったんでしょうか?どうして隣の家じゃなかったんでしょうか?どうして全く知らない他人じゃなかったのでしょうか?どうして悪人のところじゃなかったんでしょうか?私はもう分からないんです! ……それだったら、私が諸悪の根源だって考えるのが一番単純じゃないですか? だって実際、そうなっているんですから。
タカハシ「人間って生きてたら絶対に、どうして自分なんだ、なんで他人じゃなかったんだ、ってなること、沢山あるの。でもね、生きていくしかないの、葵ちゃん、生きていくしかないのよ。与えられた現実を、少しでもマシなものにできるよう、生きていくしかないの!
葵「少しでもマシにしようと、頑張った結果がこれですよ。努力の方向が間違ってたんでしょうかね、でも、あの時の私にとっては、あれが最善手だったんです。ずっとそうしてきたつもりでした、つもりでしたけど、もう疲れちゃいました……
出ていく葵、止めるタカハシ
タカハシ「葵ちゃん!
少し立ち止まるが、すぐに向き直って夜へと消えていく葵。タカハシは力なく座り込み、呟く
タカハシ「いるんでしょ、アイちゃん
どこからか、アイちゃんが出てくる
アイ「……、タカハシ
タカハシ「葵ちゃんよりずっと長く生きてるのに、まともな助言一つしてやれない何て、駄目な大人ね
アイ「人生の問題なんて、十年二十年で分かるようなもんじゃないさ
タカハシ「どうして神様は、こんなに不幸をお与えになるのかしら。それにたいして、私たちはどうやって生きればいいのかしら?
アイ「その悩みは人間には分不相応だよ。そういうのは、個人個人が自分のうちに答えを出すものさ。決まりきった答えなんてありゃしない。ただ、そこにあえて助言をするなら、わたしもあんたと同じことを言うだろうね。タカハシ、お前はよくやってるよ
タカハシ「……ありがとう、アイちゃん

〇路地 夕
自分で自分を傷つけ散らかした葵がごみ箱に倒れこむ
葵「ごみはゴミ箱に、ちょうどいいや。ここで死んだら、一緒に回収してもらえないかな。ここで死んだら、きっと回収の人は驚くだろうな、私ってどこまで言っても害悪だなぁ。
心の中で嘯いている。病院帰りのゆかりたちがその前で足を止める。
ゆかり「こんなところで、何してるんです?
葵「ゆかりさん……、マキさん
重たい空気が流れる。それを察知してかマキが少し大げさな風に話し始める
マキ「葵ちゃん、タカちゃんから聞いたかもしれないけど、茜なら大丈夫だよ! あと二日もすれば意識も戻るよ!いやほんと、人騒がせでよね、あ、学校の方も大丈夫でさ、担任の先生がいろいろ駆け回ってくれたんだよ! えーと、ようするに、茜のことは心配ないよ! あした、一緒にお見舞い行こうよ! 案外、しれっと目覚めてるかも……
葵「茜とは、もう関わらない方がいいんですよ
マキ「なんでよ! 茜だって、きっと待ってるよ、葵ちゃんが来てくれたりなんかしたら、もう嬉しさで事故も忘れて跳ね起きるよ!
葵「茜が、どうしてはねられたか、分かります?
マキ「それは、
葵「私が呼び止めたんですよ。名前を呼んでさ
マキ「でも、わざとじゃないよね
葵「わざとじゃないから、問題なんですよ。何の悪意もない行為が、不幸の呼び水になったんですよ。きっと、これからもそうです。茜がぶじ退院できたとしても、私がそばにいる限り、あの人は不幸に見舞われ続けるんです。
マキ「気のせいだよ! たまたま、運が悪かっただけで、葵ちゃんは
ゆかり「いつまで拗ねてるつもりですか?変な理屈ばっかりこねてないで、茜のところに行ってあげてくださいよ!
葵「だから、私がいたら茜は
ゆかり「どうなるんですか?茜が一度でも、あなたを恨むようなことを言いましたか? 一度でも、あなたを遠ざけようとしましたか? あなたから受けた腹の傷を隠してまで、あなたを庇ってくれていたんですよ? あなたのために泣いてくれるような人なんですよ? 大事にしてあげてくださいよ……。あなたがどう思おうが、茜にとって葵さんはかけがえのない存在なんです。どんな災難に見舞われても、そばにいてほしい存在なんですよ!
なれない怒りの発露に肩を震わせるゆかり。マキが病院の場所をメモした紙を差し出す
マキ「葵ちゃん。無理しなくていいからさ、気持ちが落ち着いたら、一回茜のところに行ってあげてよ。きっと、喜ぶからさ
二人は去る。残された葵は目をつむる

葵『とても懐かしい夢を見た。家族で行った遊園地、私はみんなとはぐれて一人で泣いている。周りを見ても知らない人ばかり、この世界にたった一人取り残された気がして、心細くって、寄る辺もなくただ泣いていると、遠くの方から小さく叫び声が聞こえる。不明瞭な甲高い声が近づくにつれ、段々と明瞭な輪郭を取り始め、「あおい!」涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにした茜が飛び出してきた。きっと茜も私を探す中で迷子になったんだろう。それでも、私に差し伸べられた手はまるで太陽みたいで……

葵、目を覚ます。茜の手は空に浮かぶ月へと変わり、差し出した手はむなしく中をきって胸の上へと落ち着いた。
葵「都合のいい夢、灰色の現実。私には何も変えることが出来ないと暗黙の裡に突き付けられている気がした。もう、ここで終わってしまおうか。
立ち上がろうとするが、すぐに倒れこむ
葵「はっは、もう立ち上がることすらできないや
いろんな人の声がフラッシュバックする
タカハシ『私たちはただ与えられた~
マキ『茜だって、きっと~
ゆかり『あなたのために泣いてくれるような人なんですよ!
葵『足元に落ちていたガラスの破片を取り上げた。今度はきっとし損なわない。……弱い人間でごめんなさい。やさしさに応えられなくてごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい
ガラスが月の光を受けてきらりと光る、葵の顔が反射されてそこに映し出される。茜とそっくりな、自分の顔。しばらく呆然としたのちにガラスを手放し、すすり泣く

〇病院 夜
病院の人に話しかける
葵「すいません。琴葉茜の病室はどこでしょうか?
病院の人「どちら様でしょうか?
葵、少しためらってから
葵「琴葉茜の、妹です

病室の前まできて、立ちすくむ。一つ深呼吸して、中へ

〇病室
茜は病室で眠っている。月明りを受けたその姿は青白く、葵によく似ている。葵はゆっくりと茜の方へと歩く
葵「茜、きたよ。遅くなってごめんね。私もちょっと、取り乱しちゃってさ……。また私のせいだ、私のせいだってふさぎ込んで、ゆかりちゃんに怒られちゃったよ。
ベッド横の椅子に腰をおろす
葵「こうやって夜に二人きりなのも久しぶりだね。覚えてる? 雷の強かった夜、二人でガタガタ震えてさ、気が付いたら昼間で、二人そろって遅刻したよね。何で起きなかったんだ、ってギャーギャー言い合いながらさ。懐かしいなぁ……。そうだ、退院したらさ、おいしいもの食べに行こうよ。わたし、こう見えてグルメだから、美味しいものたくさん知ってるんだよ。だから、早く目覚めないと! 期間限定のものだってあるんだから、早く起きないと損するよ。だからさ、早く起きて、また、お姉ちゃんって呼ばせてね……
茜の顔は蝋人形のように固まったまま。
葵「ごめんね、ごめんね
茜の身体に上半身をかぶせるようにしてうつぶせる
葵「もっと素直でいればよかったね、もっとお話しすればよかった、もっと甘えていればよかった、どうしてこんなに馬鹿なんだろうね、わたし。ごめんね、ごめんね……
しばらくすすり泣く葵。ふと、頭に暖かい手のひらを感じる
茜「なにも、こんな夜中にこんでええのに
葵「―!お姉ちゃん!
縋りつく葵
茜「いたったたたたた!やめー、やめー! けが人!うちけが人!
葵「あ、ごめん……
はっとした様子で椅子に戻る
茜「いま、お姉ちゃんて言うたやろ
葵「あ
今気づいたといった風体で口に手をやる
茜「いやー、やっぱ葵ちゃんはそれやで。うん
いじられて頬を膨らませる葵
葵「ねぇ、一発ひっぱたいてくれる?
茜「っヴぇ!? なんで? まさか、そんな性癖が
葵「ないよ! 誤解だよ! いや、夢じゃないかなってさ
茜「なるほど~、ほれ!
茜、頬をつねる
葵「いた! いたたたたた!
茜「どうやった?
葵「はは、現実だ。痛いくらい現実だよ。よかったー。ねぇ、退院したらさ……
葵『それから、いろんな話をした。学校の話、仕事の話、友達の話、常連さんの話……。四年の溝を埋めるように、話は続いて、夜は更けていった……

朝、見舞いにきたマキとゆかり。茜の病室を見て笑いあう
ゆかり「なんだ、幸せそうじゃないですか
ベッドで茜の手の内に突っ伏して眠る葵。
ちょっと涙ぐむゆかり。マキの方をみると大号泣してる
ゆかり「え、マキさん⁉ こんな病院で
マキ「だっててええ、よかったじゃんかよおお!よかったねえええ、葵ちゃん、あかねえええ!
ゆかり「ワタシだって我慢してたのに……
二人そろって泣き出す。眠る茜と葵の顔には朝日が光を投げかけている。窓の外は雲一つない青空、鳥が病院の屋上から飛び立ち、楽し気に逍遥する。太陽はさんさんと輝き、大地を喜びに照らしていた。

エピローグ
〇かもめ
豪華な料理が目いっぱい並ぶテーブル。
茜「こんなにたくさん、ホンマに無料でええんですか⁉
タカハシ「いいのよいいのよ!姉妹仲直りの記念パーティよ!ジャンジャン食べちゃって!
茜「うおおおお!ありがとうございます!いただきます!
マキ「茜がっつきすぎ!
ゆかり「そー言うマキさんも山盛り過ぎません?
隅っこで様子を見ながらわたっているアイちゃん
アイ「うん、やっぱりコーでないとね
葵が裾を引っ張る
葵「アイちゃんも、こんなところにいないで、一緒に食べましょうよ!
にこりと笑うアイちゃん
アイ「そうだね、たくさん食べようね

マキ「あーっ! それ最後のローストビーフ!私が目ぇつけてたんだぞ!
茜「けちけちすんな!ただやぞ!これはうちは美味しく……
葵が食べている
茜「ああああああ!
ゆかり「あ~アイちゃんお人形さんみたいでかわかわですね~
アイ「おい、こいつ酒臭いぞ、なんか飲んだろ
タカハシ「あ、これジュースじゃなくてお酒ね、間違えて飲んだのね
アイ「飲んだのね、じゃないよ!タカハシ!笑ってないで早くこいつを退かせ!えぇーい!はなせ!うっとうしい!
茜「ははは、ゆかりが馬鹿してら!
マキ「ジュースに酒入れたの、おまえやな
茜「うちしらーん、なんもしらーん
葵と目が合う
茜「そーいえば、葵の歌をまだ聞いたことないなぁ
マキ「たしかに! あのときは茜のせいでお開きだったもんね!葵ちゃん!
ゆかり「私も聞きたいです~!
アイちゃんはゆかりの腕の下であきらめている
葵「あはは……
タカハシと目が合う。ウインク
葵「それじゃあ、一曲だけ
茜「おお~!おーい!みんな静かに静かに!葵が!うちの妹の葵ちゃんが!歌を歌いますよ~!
野次馬の歓声。治まってから、壇上に上がった葵は一息おいて
葵「それでは、お世話になった皆さんにむけて、一曲歌わさせていただきます。
息を吸う音 
エンディングテーマ『No.9 ムーンライダース』

琴葉の言の葉

琴葉の言の葉

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-07-09

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 第一話『茜と逢う日』
  2. 第二話『相生い』
  3. 第三話『茜差す日』
  4. 第四話『茜と葵』