無垢と花
青津亮
その少女はまだ宗教なることばを知る以前に、
路傍の花をまるで信仰するようにして愛してた、
そがましろの花弁はさながらなげだされた愛であり、
すくと立ち風のまにまに揺れるすがたは気品あって、
剥がれ落ちた純白の花弁の風に舞いそらへ消え往く光景、
壮麗に眸にうつり、刻印のように魂に刻まれたらしい。
少女はまだ詩というもの知る以前にポエジーを花より享けた、
かの言葉より脱落して往く美の観念にもどかしさおぼえ、
まるで無個性な詩篇としかいいようのない言葉を綴りつづけた。
やがてその言葉たちからおのずと愛のオマージュが立ち昇り、
美と善の双の月かさなる風景は死と重装しぞっと少女の魂を乱した。
やがて路上にかの花とりまく小石製の神殿できて、少女おのずと祈った。
*
少女ははや此の世に亡い、いつ死んだのかも定かでない、
唯かのノートをそっと神殿の花に触れるようにひらいてみれば、
いたみ指伝う──どうも彼女の無垢、みずからの身を花と化させ、
かのアスファルトに在るささやかな神殿に供物と捧げたらしい…
わたしは眼を瞑ってそのオマージュを脳髄でおよがせてみる、
ましろの硬さは渦巻いて、無垢なる魂うつろう翳に侍られたか。
無垢と花