幸福は落日し、神を喰らう
如月にがつ
嗚呼、偉大なる皇帝よ――汝、神々の黄昏と共に沈む運命なのか?
台本概要
◆声劇台本名◇
『幸福は落日し、神を喰らう』
◆作品情報◇
ジャンル:ファンタジー
上演所要時間:●●分
男女比 男:女:不問=2:2:0(合計:4名)
◆注意事項◇
・本作品は、フィクションです。
・本作品には、叫びセリフがあります。
登場人物
アレクセイ・ファルネリド・グローリア(Alexei=Farnelid Gloria)
性別:男性、年齢:32歳、台本表記:アレクセイ
本作の主人公で、エリミネンス=グローリア帝国の現皇帝。
若いながらも帝位を継ぐ《ほど》程のカリスマ性を持ち、
荘厳な独裁者ではあるが国民の人気が高い。
〝ある理由〟によりアンドラスタ大陸全土に戦争の火種を蒔く。
アナスタシア・セラム・グローリア(Anastasia=Seraum Gloria)
性別:女性、年齢:24歳、台本表記:アナスタシア
アレクセイの妻で、エリミネンス=グローリア帝国皇后。故人。
穏やかで心優しい女性で、夫のアレクセイとは政略結婚
であったが、相思相愛の関係だった。
彼の心の拠り所であった彼女の死が、彼を独裁者へと駆り立てる。
ヴェルナルド・ドミトリー・グローリア(Vernardo=Dmitri Gloria)
性別:男性、年齢:19歳、台本表記:ヴェルナルド
アレクセイとアナスタシアの間に産まれた2番目の子で、
エリミネンス=グローリア帝国の第二皇子(後に第一皇子へ昇格)。
神を否定し、覇道を突き進める父親のアレクセイを嫌う。
【令嬢(フロイライン)】/Fräulein
性別:女性、年齢:(見た目は20代前半)、台本表記:【令嬢】
【亡国機関】に所属する謎の女性で、アナスタシア
と瓜二つの容姿と声をしている。
性格は相手を弄び、そして痛めつけることを何よりも好むサディスト。
別名『神喰い』。
マクスウェル・シルヴァーン(Maxwell Sylvain)
性別:女性、年齢:(見た目は20代前半)、台本表記:マクスウェル
【機神】エリミネンスを信奉する宗教を統括する総主教。
男とも女ともとれる中性的な容姿をしている。
物腰丁寧な人物ではあるが、アレクセイから嫌われている。
【機神】エリミネンス
性別:不明、年齢:??歳
【地母神】アンドラスタの子であり、
【機工国家】エリミネンス=グローリア帝国の創生神。
用語説明
●『アンドラスタ大陸』
物語の舞台となる大陸の名前で、【地母神】アンドラスタと4柱の
神たちによって創られたとされている。多くの国々で構成されているが、
その中でも『ロゼッタ大公国』、『エリミネンス=グローリア帝国』、
『龍櫻國』、『ユグドラシル諸部族連邦』、『グラディス聖教王国』
は【五大国】と呼ばれている。
●『エミリネンス=グローリア帝国』
【機神】エリミネンスによって創生された『機械』と『軍事』の国で、
通称【機工国家】。
【五大国】のひとつで、大陸の中で最も進んだ文明と軍事力を持つ。
●『亡国機関(ぼうこくきかん)』
『世界の真の解放』を元に集まった謎の集団。
アンドラスタ大陸全土にわたる戦争を引き起こした真の元凶。
上演貼り付けテンプレート
台本名:『幸福は落日し、神を喰らう』
URL:https://nigatsusousaku.wixsite.com/atelier-craft
アレクセイ・ファルネリド・グローリア:
アナスタシア・セラム・グローリア/【令嬢】:
ヴェルナルド・ドミトリー・グローリア:
マクスウェル・シルヴァーン:
帝国民(女性):※マクスウェル役との兼ね役
帝国文官:※ヴェルナルド役との兼ね役
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※台詞検索にお役立てください。
〇:アナスタシア、【令嬢】
△:ヴェルナルド、帝国文官
□:マクスウェル、帝国民
【アバンタイトル】
〇アナスタシアN:アンドラスタ大陸の北方に位置する大国、
【機工国家】エリミネンス=グローリア帝国。
【機神】エリミネンスとグローリア王家によって
創生された『機械』と『軍事』の国。
首都・シュルンガルトでは軍事パレードが行われていた。
アレクセイ:ここに集いし、忠勇たる我が帝国の兵士よ!
そして擁護せし、親愛なる帝国民の諸君!
過日、我らの帝国はアンドラスタ大陸全土に
わたり宣戦布告を行った。
諸君らの懸念については理解している。
しかし……我らの闘争は侵略ではない!!
我がグローリア王家と共に帝国を創生した、
【機神】エリミネンスによる神託である!!
〇アナスタシアN:そう高らかに宣言した、エリミネンス=グローリア帝国
第37代皇帝、アレクセイ・ファルネリド・グローリアの
言葉に大衆はざわつき始める。
アレクセイ:我がエリミネンス=グローリア帝国は高い文明力を持つが、
全体的な国力は決して高いとは言えない。
資源は少なく、慢性的な貧困で喘ぎ苦しんでいる。
この事は諸君らが一番知っているだろう。
だからこそ、【機神】エリミネンスは御英断を下した!
ならば……私もこの国の皇帝として宣言しよう!
国民を! 兵士を! 国を!
余は全てを守ろう!!
この国に新たな時代をもたらそう!!
我ら帝国の民こそが、神に選ばれた真の民である!
立ち上がれ! 我らはこの大陸の覇者となるのだ!!
〇アナスタシアN:大衆たちは熱狂に包まれ、拍手喝采の嵐が起こる。
誰もが皇帝陛下を崇拝し、誰もが神に感謝を捧げた。
――しかし、ひとりだけが心の裡、神への憎悪を抱いている
者がいた。
アレクセイM:――神の御英断、か。
実にくだらない……吐き気がする……
神と言う存在は実に――実に、醜いのだ――!
〇アナスタシア:『幸福は落日し、神を喰らう』
【Scene01】
〇アナスタシアN:演説を終えたアレクセイは兵士だけではなく、
帝国民たちと交流する。
皇帝自らが自分達に寄り添ってくれる姿に
彼らは感銘を受けた。
すると、ひとりの若い女性が近づいて来る。
彼女の手には赤ん坊が抱かれていた。
□女性:我らの皇帝陛下、不躾な願いであることは重々承知をしています!
この時だからこそ、この時だからこそお願い出来ないことです!!
どうか、この子に陛下の祝福を与えてくださいませ!!
〇アナスタシアN:周りが騒然とする。
女性の行為は本来であれば不敬に値する行為だからだ。
先程と異なって緊張と静寂の空気が流れる。
誰もが恐れていた――「この女は殺される」。
女性も覚悟していた――「私は殺される」。
「自分の子が何よりも幸せであって欲しい」という親のエゴが
強く出てしまった結果での行為であった。
アレクセイ:そう身構えずとも良い。
子の母よ、其方の名をなんという?
□女性:畏れながらも、皇后陛下と同じ名前であります。
アナスタシア、アナスタシア・イーズノックと申します。
アレクセイ:そうか……アナスタシアよ。
余に其方の子を抱かせてもらえないか?
□女性:えっ……
アレクセイ:喜んで、余の祝福を授けよう。
□女性:よろしいのですか?!
アレクセイ:勿論だ。
子は宝だ、我が帝国の未来に繁栄をもたらす宝だ。
それに、余は全帝国民の父たる皇帝だ。
帝国民であれば、漏れなく全てが余の子供である。
□女性:ありがとうございます!
アレクセイ:どれ……ほう、これは可愛らしい顔をしているな。
おおっ……そうか笑顔を浮かべるか……愛い奴め。
お前は、今の私に微笑みをかけてくれるのか……
【Scene02】
△ヴェルナルドN:時は昔へと遡る。
まだアンドラスタ大陸が戦火に包まれるよりも
もっと昔の記憶。
アレクセイ:笑ったぞ! 見たか、アナスタシア!
ヴィクトルが笑ったぞ!!
〇アナスタシア:ええっ、そうね。
笑った顔が貴方に本当にそっくりね。
アレクセイ:何を言う。
この愛らしい顔は、其方にそっくりだ。
あぁ、実に良き王になるぞ。
〇アナスタシア:ヴィクトルも嬉しそう。
お父様だってわかるのね。
アレクセイ:この子は余と其方が授かった尊き命だ。
この帝国統べ、更なる栄光をもたらすだろう。
……しかし、出来るならば健やかに、そして幸せに生きてくれ。
そのために父と母はお前に祝福を授けよう。
〇アナスタシア:そうね、この子の幸せは私たちの幸せであるものね。
<扉のノックする音が聞こえてくる。アレクセイは何となく誰かが来たのか察し不機嫌な顔を浮かべる>
□マクスウェル:皇帝陛下、皇后陛下。
マクスウェルでございます、入室してもよろしいでしょうか?
アレクセイ:…………入るがよい。
□マクスウェル:ありがとうございます、失礼いたします。
△ヴェルナルドN:扉が開き、ひとりの神官が入って来る。
その者は男とも、女ともどちらにもとれる綺麗な
顔をしていた。
――アレクセイはこの人物を嫌っていた。
神を拒絶するアレクセイと、反対に神を信奉する者。
相性最悪なのは明白、そしてこの者の何もかも見え透いた
笑顔が彼の神経を逆撫でする。
□マクスウェル:これは、これはヴィクトル皇子ではありませんか。
皇子様が大変元気なのは、我らとしても喜ばしいことです。
〇アナスタシア:ありがとう、マクスウェル――
アレクセイ:(※被せる様に)マクスウェル、要件を言え。
余は忙しいのだ、早くしろ。
〇アナスタシア:陛下、そんな言い方をしなくても――
□マクスウェル:よろしいのです、皇后陛下。
――生誕祝福の儀を奉ることをお伝えに参りました。
【機神】エリミネンスの神託に従い、一月後に。
アレクセイ:〝冬の神殿〟で行われる、あの忌々しい儀式か……
△ヴェルナルドN:アレクセイの言葉に、非難の眼差しを向ける。
それに気づいたアレクセイも返す様に冷たい目線を向ける。
殺伐とした空気が流れ、近くにいた従者達が慌てふためく。
すると……
〇アナスタシア:大丈夫よ、ヴィクトル。
あぁ、泣かないで。
そうね、怖かったのね。
それじゃあ――
△ヴェルナルドN:泣き始めたヴィクトルを安心させるためにアナスタシアは
子守唄を歌い始める。
聴く者を安心させる、その歌声に空気を変えた。
□マクスウェル:ゴホン……畏れながらも陛下が皇子の時に、いえ
歴代の皇帝陛下がなされた、由緒正しき儀式です。
いくら陛下と言えども、拒否することは出来ません。
アレクセイ:……そんなことは理解している。
儀式については了とした、早く去れ。
□マクスウェル:では粛々と準備を進めて参ります。
失礼しました。
△ヴェルナルドN:マクスウェルが部屋を出るのと同時に、アナスタシアの
子守歌が終わる。
ヴィクトルは安心したかのような寝顔をしていた。
〇アナスタシア:ふぅ、良かった……あなた、いくら何でも
マクスウェルに対して――
アレクセイ:余はあの男は好かん!
唯の神の奴隷ではないか!!
〇アナスタシア:(※小声で)しっー! ヴィクトルが起きてしまいます!
アレクセイ:あっ……す、すまない。
そうであったな……ヴィクトルもすまなかったな。
――ふっ、気持ちよさそうに寝ているな。
△ヴェルナルドN:自分の子供の寝顔を見た、彼は穏やかな笑みを浮かべる。
しかし、心の裡では胸騒ぎが起きていた。
あのマクスウェルという者が、総主教の座についてから
不穏な事が起きるのではないかという気持ちに苛まれる。
出来る事なら、この心配が杞憂に終わることを願った。
【Scene03】
〇アナスタシアN:そして一月後。
【機神】による生誕祝福の儀が行われた。
帝位請求権筆頭者である長兄に
対する歴史ある儀式。
決まりとして皇帝・皇后の同伴は許されず、複数の護衛官
と神官に守られながら首都郊外にある〝冬の神殿〟へ
幼き皇子は乳母と共に運ばれる。
過去において一度も問題は起きなかった。
今回もそうであったはずだった――
(間)
△帝国文官:皇帝陛下! 皇帝陛下!!
アレクセイ:どうした?
△帝国文官:ヴィクトル皇子が! 皇子が!!
アレクセイ:ヴィクトルがどうしたと言うのか?!
△帝国文官:神殿に向かう途中、雪崩に巻き込まれて――
アレクセイ:なっ……!
〇アナスタシアN:神殿に向かっていた皇子一行は、不運にも向かっている最中、
雪崩に巻き込まれてしまったのだ。
すぐさま後発の護衛隊によって救出されるも、その幼い体は
冷えきっていた。まるで氷のように。
そして、二度と両親の前であの笑顔を見せることはなかった。
【Scene04】
△ヴェルナルドN:長男・ヴィクトルが事故によって亡くして数年後。
次男のヴェルナルドが産まれた。
――けれども、ヴィクトルと異なりヴェルナルドは
泣いてばかりであった。
アレクセイ:アナスタシア! アナスタシアはどこにいる!
ヴェルナルドが泣き止まないのだ!
〇アナスタシア:あらあら、ヴェルナルドは泣き虫さんね。
そんなに大袈裟にならなくても大丈夫よ。
アレクセイ:しかし、余が抱くまでは落ち着いていたのだ。
まるで余を恐れているのかように……
〇アナスタシア:そんなことはありませんよ。
貴方はヴェルナルドの父なのです。
きっと、お父上に元気な姿をお見せしたかったんですよ。
アレクセイ:そうか…………なら、いいのだが……
〇アナスタシア:大丈夫、大丈夫です。
もう……そんな悲しい顔をしないでください。
私だけじゃないわ。
ヴェルナルドも、ヴィクトルも悲しんでしまいますわ。
それに、最近は貴方の笑顔を見ることも少なくなった。
私、大好きなのよ、あなたの笑顔……
アレクセイ:……すまなかった。
そうだな、愛しの妻を心配させるなんて夫として失格だ。
〇アナスタシア:もう、そんな恥ずかしいことを言って……ほら、見て。
ヴェルナルド、泣き疲れちゃったのかしらね。
すやすやと眠っているわ。
アレクセイ:あぁ、そうだな。
余が守らなければ……今度こそは……
【Scene05】
△ヴェルナルドN:しかし、悲劇は彼の元に再び訪れた。
最愛の妻、アナスタシア皇后の崩御。
妻の死を受け入れる事が出来なかったアレクセイは、
悲しみを表に出さない代わり、狂気に囚われる
ようになっていった。
徐々に苛烈さと残虐さを極めていき、厳格ながらも平和
を愛する賢君から覇を唱える暴君へと変貌していった。
そして、ある日の夜――。
〇【令嬢】:こんばんわ、皇帝陛下。
アレクセイ:何者――っつ!
〇【令嬢】:うふふ、どうしました?
アレクセイM:アナスタシア……?
何を言っている、違う……目の前の女は、彼女ではない!
彼女は死んだのだ……!
アレクセイ:貴様、何者だ?
質の悪い幻覚ならば今すぐ消えろ。
〇【令嬢】:幻覚じゃなければ?
アレクセイ:叩き斬る、それだけだ。
〇【令嬢】:まあ、怖い。
でも、本当に貴方は私を斬れるかしら?
声、顔、髪型、髪の色、身体つき……全てが貴方が
愛した皇后陛下と同じよ?
アレクセイ:そうか……ならば――
〇【令嬢】:えっ?
アレクセイ:――死ぬがいい。
□マクスウェルN:刹那の一瞬。
アレクセイは目にも止まらぬ速度で帯刀していた
軍刀サーベルを抜刀し、女を斬りつけた。
アレクセイ:ほう……驚いたな、余の剣戟を受け止めたか。
□マクスウェルM:目の前の女は余裕の笑みを浮かべて、
禍々しい剣でアレクセイの剣を防いだ。
〇【令嬢】:こちらこそ驚きましたわ。
私の知っている王族って戦士になれない木偶の坊だと
思っていたのですけど……拍手喝采モノよ?
アレクセイ:…………。
〇【令嬢】:あら……あらあら、例え偽物であっても愛したヒト
を斬るのは怖い? 可愛いヒトですね~
アレクセイ:黙れ!!
これ以上……彼女を侮辱するなァ!!
〇【令嬢】:くっ……素晴らしい、素晴らしいわ!
やっぱり、人間は素晴らしいわ!!
その激情をもっと私にぶつけて頂戴!!
アレクセイ:くっ……!
そんな華奢な身体から想像出来ない膂力だな。
〇【令嬢】:光栄ですわ、陛下。
まさか、剣術を褒めて頂けるとは想像しませんでした。
アレクセイ:ただ……まだ甘いな。
〇【令嬢】:えっ……
アレクセイ:隙があるぞ。
□マクスウェルN:一瞬だった。
アレクセイは流れるように身体を回転させるように動くことで
女の剣を弾き飛ばし、肩を斬りつけた。
〇【令嬢】:ぐっ!
アレクセイ:勝負あり、だな。
ほう?
刃を向けられても余裕がある笑みを浮かべるか。
肝が据わっている、何か言い残すことは?
〇【令嬢】:ひとつだけ、よろしいですか?
アレクセイ:良かろう、許す。
〇【令嬢】:――今日、此処に訪れましたのは御商談に参った次第です。
アレクセイ:面白い事を言う女だ、皇帝直々に持ち掛けるとは。
ただし、お前の見た目は不愉快だ。
つまらないものならば殺す、生かす理由はない。
それで内容は?
〇【令嬢】:――〝神々の消滅〟、すなわち〝神々の黄昏の発生〟です。
アレクセイ:はっ、アハハハハハハハ!!
お前は正気か? これは傑作だ!!
〇【令嬢】:陛下にとって悪い話ではありません。
神を拒絶している陛下ならば。
アレクセイ:――どうやら、本当に考えているそうだな。
ここまで来ると笑えないぞ、狂っているのか?
〇【令嬢】:狂っているのは陛下も同じでしょう?
どうですか、この御商談の返答は?
アレクセイ:貴様は馬鹿か。
どこの世界に得体の知れぬ者と商談を結ぶ奴がいるか。
〇【令嬢】:これはとんだ御無礼を……この度は陛下の御前に
拝謁させて頂き恐悦至極。
ひとまずは私のことは〝令嬢〟とお呼びください。
アレクセイ:それで〝神々の消滅〟というが以下のようにしてやる?
【令嬢】:陛下が私たちと手を組んで頂ければ、全てをお話をします。
そして、満足いかなければこの首を刎ねてください。
【Scene06】
△帝国文官:し、失礼します。
サルーシャ・キアランスキー、陛下の命により
此処に参りました。
それで一体、何の御用でしょう――ひっ!
アレクセイ:……余の質問にだけ答えろ。
△帝国文官:何でも答えますから……殺さないでください……!
アレクセイ:貴様は、生誕祝福の儀を統括していたな?
そのことに相違はないな?
△帝国文官:は、はい……!
アレクセイ:続けて問う。
……なぜ神殿へのルートを変更した?
△帝国文官:っつ! そ、それは……
アレクセイ:何故、雪崩多発地域である〝白い茨〟にルートを変えた!!
答えろォ!!
△帝国文官:ひい!!!
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!
そんなつもりはなかったんです、そんなつもりじゃ――ぐうっ!
<アレクセイは文官の胸ぐらをつかむ>
アレクセイ:余は貴様の泣き言を聞きに来たのではない!
早く答えろ!!
△帝国文官:す、すべてはシルヴァーン総主教猊下の命令だったんです!!
アレクセイ:どういうことだ?
△帝国文官:総主教猊下が前日になって突然の変更を言い渡されたのです!!
私は最初反対したんです!
皇子を危険な目に合わせてしまうと!!
しかし、総主教猊下は【機神】様の思し召しのため
拒否権はないとおっしゃられたもので……
アレクセイ:だとしても、なぜ報告をしなかった……?
△帝国文官:総主教猊下が陛下への報告は必要ない、と。
本当に申し訳ございません!!!
アレクセイ:なるほど……やはり、あの女の言った通り、か……
他に黙っている事はないな?
△帝国文官:は、はい……これが全てです……
アレクセイ:そうか、ご苦労だった……ふんっ!
□マクスウェルN:アレクセイは軽蔑したような冷たい表情で
文官の首をサーベルで刎ねた。
鮮血の血を吹き出し、刎ねられた首は
ころころと転がると、誰かの足元に当たる。
△ヴェルナルド:何をしていらっしゃるのですか、父上……
アレクセイ:ヴェルナルド……!
なぜ、貴様が此処に――
△ヴェルナルド:どうして殺した?!
□マクスウェルN:ヴェルナルドは怒りの形相を浮かべ、
非難の眼差しを向けてきた。
それはいつもアレクセイに向けられてきたモノと同じだ。
しかし、それでもやはり彼は子供だ。
暴君である父に対して恐れを抱かないことはないのだ。
けれども、それは臆病者ではなく、恐怖を耐え忍ぶ勇者。
清廉で正しく、そして覇道を否定する正義を体現している。
――しかし、アレクセイにとっては拒絶でしかなかった。
アレクセイ:何をしている、今すぐ出てい――
△ヴェルナルド:いい加減にしろ……
アレクセイ:なに?
△ヴェルナルド:あんたは狂ってる! きちがいだ!! 怪物だ!!
母上を病死を見せかけて殺したのだろう?
アレクセイ:なにを馬鹿な事を――
△ヴェルナルド:【機神】を否定している?
総主教様の言う通りだ!!
そんな愚かな考えをもっているアンタは――
アレクセイM:やめろ……やめろ……
△ヴェルナルド:――父親なんかじゃない!!
アレクセイ:やめろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
【Scene07】
<場所は冬の神殿。祈りをするマクスウェルの姿。>
□マクスウェル:……んっ?
これは、これは皇帝陛下。
ふむっ……あまり褒められた格好ではありませんねぇ……
せめて血がついていない礼服で来ていただきたいものですね。
アレクセイ:マクスウェル・シルヴァーン総主教。
□マクスウェル;なんでしょうか、陛下。
アレクセイ:お前は、グローリア王家に、そしてエリミネンス=グローリア帝国
に推服を誓うか?
□マクスウェル:それはもちろんでございます。
私は、【機神】エリミネンスを信奉する
徒のまとめ役です。
なれば、それは帝国への忠誠と同義でございます。
アレクセイ:……神と言うのは道化を演じることが得意なのか?
□マクスウェル:なに?
アレクセイ:マクスウェル・シルヴァーン。
……いや、【機神】エリミネンス。
□マクスウェル:なっ!
アレクセイ:驚いただろう? 余も驚いた。
まさか始祖と共に帝国を築いた創生の神と相まみえるとはな。
そして、嘆かわしい事にヒトの世を否定し、滅亡を望んでいる。
事故と偽装し、ヴィクトルを殺した。
微量の毒を毎日与えることで、アナスタシアを病死として
偽装した。
そして、ヴェルナルドを唆し、余に殺させた。
――最後は狂気に堕ちた余が大陸全土に戦争の火種
を蒔く事を望んだ。
□マクスウェル:(※拍手しながら)ご明察でございます、陛下。
陛下……いや、アレクセイ。
貴方だけに特別に教えて差し上げましょう。
何もヒトの世を滅ぼそうとしているのは私だけでは
ありません――【女神】ロゼッタ、【聖女】グラディスそして
【獣神】ユグドラシルは賛同しています。
ただ、忌々しい事に【神龍】リュウオウは拒否しましたけど。
――あなたたちの繁栄は間違っていた。
間違いは修正せねばなりません。
アレクセイ:そのための大量殺戮を目的とした戦争か……そこまでして
人類を許さないか。
□マクスウェル:その通りです!
私にとっては芸術作品の欠片のひとつでしかない!
国も! ヒトも! 全てが失敗作だ!!
廃棄物だ!!
今すぐにでも亡きモノにすべきだ!!!
アレクセイ:ククッ……
□マクスウェル:なにがおかしい?
アレクセイ:ククッ、アハハハハハハハ!!
私は間違っていなかったのだ!!
神は存在しない。
神とはヒトの手によって創られた、所詮、創造の産物にすぎん。
目の前にいるのは、ただ醜い生物でしかない。
□マクスウェル:…………はっ?
アレクセイ:聞こえなかったか?
醜い生き物でしかない、と言ったのだ!!
□マクスウェル:ふざけるなあああ――
アレクセイ:拘束せよ、神域鎖縛、開放。
マクスウェル:なっ! どうして、それを――
〇【令嬢】:私が陛下に差し上げたのですよ、【機神】エリミネンス。
□マクスウェル:どうして、あなたが……!
〇【令嬢】:ごきげんよう、と言っておきますわ。
陛下とはこの度、手を組みました。
いわば、同志であります。
さて、久々の再会を喜び合いたいのですが喰われてもらいますわ。
陛下が、あなたの力をお望みなのです。
□マクスウェル:ま、待ってください!!
わかりました! 私が誤っていました!!
アレクセイ:……ほう?
□マクスウェル:なにを……
アレクセイ:神は、間違いを犯すのか?
□マクスウェル:あっ……
アレクセイ:【令嬢】、喰え。
〇【令嬢】:皇帝陛下の仰せのままに。
□マクスウェル:あぁ……あぁ……
〇【令嬢】:では、いただきます。
【神喰い】、発動。
□マクスウェル:いやだ……いやだ、
いやだあああああああああああああああ!!!
【Scene08】
△ヴェルナルドN:パレードを終わらせ、アレクセイは自らの執務室にいた。
どこかくたびれた表情を浮かべ、亡き妻の写真を見ていた。
〇【令嬢】:お疲れ様でした、陛下。
アレクセイ:おまえか……〝計画〟のほうは順調か?
〇【令嬢】:ええっ、もちろんです。
ですが、もっと多くの人間の命が必要です。
それにロゼッタ大公国領アルザス=ロレーヌ防衛戦
において【護国卿】のふたりを消滅しました。
そろそろ休戦協定を出す頃合いでは?
アレクセイ:そうだな……だが、もう少し時間が必要だ。
折角のパレードだ、国家の威信に関わる。
〇【令嬢】:今のあなたの中に、この国の未来があるのですか?
アレクセイ:……腐っても皇帝だ。
この国は大事にしているよ、彼女との約束なんだ。
〇【令嬢】:そうですね、あなた。
アレクセイ:――また、同じマネをしたら殺す。
〇【令嬢】:ふふっ、ごめんなさい。
でも、そんなことを言いながら……貴方と身体をまぐわった時は
激しかったことを覚えています。
絶頂を迎え果てた私に対して、何度も何度も獣のように求めて。
まるで亡き奥様を重ね――
アレクセイ:その口を閉じろ、もう後はないぞ。
〇【令嬢】:こわい、こわい。
それじゃあ、私は一旦退散しますわ。
――皇帝陛下。
最期まで楽しませてくださいね?
それでは、ごきげんよう。
アレクセイ:――この戦争を以って、神々に囚われた旧時代は終わる。
我ら、人間の手による、新たな時代を始めよう。
人間は――っつ!
△ヴェルナルドN:ある光景が彼の頭によぎった。
あの日の夜、ヴェルナルドを自らの手を殺してしまった夜を。
慟哭の叫びを挙げながら、動かなくなった息子
を抱きかかえた夜を。
消えることない罪の記憶。
アレクセイ:わかっている、わかっている……
決して、余の最後は悲惨なものだろう……
我が子を殺した、のだ……一時の感情で……
それでも、私は……解放するのだ……!
人間は 神々の……傀儡ではない!!
(END)
幸福は落日し、神を喰らう
この作品はフィクションです。作中で描写される人物、出来事、土地と、その名前は架空のものであり、土地、名前、人物、または過去の人物、商品、法人とのいかなる類似あるいは一致も、全くの偶然であり意図しないものです。
This is a work of fiction. The characters, incidents and locations portrayed and the names herein are fictitious and any similarity to or identification with the location, name, character or history of any person, product or entity is entirely coincidental and unintentional.