いちご・みかん・キウイ・黄桃

 ろうかの、ロッカーに座っていた。はんぶん、とうめいな、きみ。あしを、ぶらぶらして、あたしにだけきこえる声で、はやく、購買でいちばん人気のフルーツサンド、買ってきてよ、という。あたしは、きょうは、お弁当だから、と、きみにしかきこえない声で、こたえて、中庭へむかう。とうぜん、きみは、あたしのうしろを、ふわんふわんとしたあしどりで、ついてくる。宙に浮いているように、きみはあるく。
 どこの教室のひとも、ろうかにいるひとも、みんな、スマホの画面に夢中なのは、金星からきたというひとが、なにかを発信しているから。この学校のひとたち、もしかしたら、この街の、この星のひとたち、ほとんどが、金星のひとが発信している、なんらかの電波的なものに、脳を、のっとられているのかもしれなくて、でも、あたしは、だいじょうぶらしい。たぶん、きみのせいでしょ。はんぶん、とうめいで、すかすかしていて、ふわふわしている、きみの。

 ねえ、フルーツサンドだけでも、買ってよ。

 …いいけど、ちゃんとさいごまでたべてよ。

 うん、きょうはおなかすいてるし、たべられるよ。

 ほんとう?

 ほんと。

 ………むかしも、いまも、たべものはたいせつに、なんだから。ね。

 あたしのうしろで、きみが、ことさらにかるく、ふわりと浮き上がったような気がして、でも、あたしは、ふりかえりはしなかった。
 金星のひとはときどき、光る。

いちご・みかん・キウイ・黄桃

いちご・みかん・キウイ・黄桃

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-07-02

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