いちご・みかん・キウイ・黄桃
ろうかの、ロッカーに座っていた。はんぶん、とうめいな、きみ。あしを、ぶらぶらして、あたしにだけきこえる声で、はやく、購買でいちばん人気のフルーツサンド、買ってきてよ、という。あたしは、きょうは、お弁当だから、と、きみにしかきこえない声で、こたえて、中庭へむかう。とうぜん、きみは、あたしのうしろを、ふわんふわんとしたあしどりで、ついてくる。宙に浮いているように、きみはあるく。
どこの教室のひとも、ろうかにいるひとも、みんな、スマホの画面に夢中なのは、金星からきたというひとが、なにかを発信しているから。この学校のひとたち、もしかしたら、この街の、この星のひとたち、ほとんどが、金星のひとが発信している、なんらかの電波的なものに、脳を、のっとられているのかもしれなくて、でも、あたしは、だいじょうぶらしい。たぶん、きみのせいでしょ。はんぶん、とうめいで、すかすかしていて、ふわふわしている、きみの。
ねえ、フルーツサンドだけでも、買ってよ。
…いいけど、ちゃんとさいごまでたべてよ。
うん、きょうはおなかすいてるし、たべられるよ。
ほんとう?
ほんと。
………むかしも、いまも、たべものはたいせつに、なんだから。ね。
あたしのうしろで、きみが、ことさらにかるく、ふわりと浮き上がったような気がして、でも、あたしは、ふりかえりはしなかった。
金星のひとはときどき、光る。
いちご・みかん・キウイ・黄桃