愛するもの

少年はカーテンの中に隠れて泣いた。窓の外にはぼんやりと輝く街灯があって、行き過ぐ人を照らしてた。母親が少年を探しに部屋へ入ると、「こんなところにいたのね。泣いてるの? それは心が豊かな証。」少年に寄り添ってそう言った。
「飼ってた猫は死んでしまったの?」少年がそう言うと、母親は微笑んだ。
「でも不思議じゃない?」
「どうして?」
「求めているのはあの魂なのに、身体がないと抱きしめられない。こうしてハグできるのは身体があるからなのに、愛しく思うのはその中にあるもの。」
「どっちも大事なんだよ。」少年がそう言うと、母親は微笑んだ。
「僕、猫が眠っているのを見つけなければよかった。」少年はそう言って、また泣いた。「見つけなければ、今もまだ生きていたかもしれないのに。きっとどこかで生きているって信じていたかもしれないのに。」
母親は優しく少年を抱きしめて、街灯はまた一人、行き過ぐ人を照らしてた。
・・・

愛するもの

愛するもの

短編、実験、直観、小説

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-06-27

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