梅雨明け

 ルル。きえない傷がある。
 みんな、もっていると思う。ちいさくても、おおきくても、傷は、傷であるから、当然、いたい。すくわれた、少年神がアルビノのくまのために、その身を捧げたために、ぼくらは、なんとか、はんぶん以上が廃れたこの街でも、暮らしている。蟲との共存であるけれど、やさしさだけはわずかでものこっている、空気のなかに。ルルが、とある星で、聖女になったと知って、ああ、と思ったけれど、その、ああ、は決して、マイナスの感情ではない。かといって、プラスのそれでもない。漠然とした、ただの音として発しただけの、ああ、であるけれど、ルルは、ぼくとひとつだった頃から、そういう神秘的なにおいはしていた。
 六月の夏空を仰ぐ、少年神とアルビノのくまが、ことしは、雨がすくないと嘆いている。
 にんげんと蟲が交わって生まれた、ハーフであるきみが、早すぎる夏のおとずれを歓迎し、金魚柄のスカートをひるがえし、踊ってる。

梅雨明け

梅雨明け

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-06-27

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