私だけの道標

人混み。…人混み。
どこを見ても、人ばかり。

全員、目指している方向へ
あちらは働くための道。
あちらはニートになる道。
あちらは未開拓地。
(我が道を行く人向け)
と書かれている看板に従って

私は立ち尽くす。
木の枝のように無数にある岐路
一歩踏み出したらもう戻れない
どうしたい?どうすればいい?

答えが見つからなくて
行き交う人々の中、一人うずくまる。

喧騒だけが私を覆い尽くす。
途端、切り裂くように、着信音が鳴り響く
私のスマホが鳴っている。

画面を見ると、過去の私からのメッセージ
やりたいと思っていたこと、楽しかった頃の思い出を
落ち込む私を余所に次々と、励ますように。


「夢があるんだ」
間を置いて、そう送られてきた言葉。
今の私が、いつか諦めた夢を語り始める。
何の曇りもない口調で。

作家になりたかった。
でも、私には叶えられなかった。
全力で挑んだ。でも、無理だった。

…諦めた地点に今いるのに。
無邪気な言葉で。

「作家になりたい。自分にしか描けないものを、作りたい。」

どうして、今更…!
そう言葉を吐いて、スマホを見ないように、閉じても構わず、送り続けてくる。
本気で目指していた、過去の私が。

ねぇ、
「もし迷っているのなら、ただ一つ。
唯一無二の私の物語を、私の道を描いて。
自分にしか描けないものを!」

キラキラした言葉に当てられ、それでも完全に拒絶出来なかった。諦めたんだと、言い聞かせて、うずくまったままでいた。


でも、新しい道を選べないまま、立ち止まっていたのは、まだ諦めきれない心が、私にあったから。

その心に、気づいた。瞬間、立ち上がった。
まだ足掻けるのなら、この人混みを掻き分けて。
進んでいこう、自分の物語を道標に。

いつか夢が叶うことを祈って。

私だけの道標

私だけの道標

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-06-27

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