大学生
恋愛小説です。
1 大切なあなたを思い続けたい。 戦後復興から70年、人は戦争さえ、起こらない、平和な時代
大切なあなたを思い続けたい。
戦後復興から70年、人は戦争さえ、起こらない、平和な時代を生きている。情報が咲き乱れ、ネット社会の渦の中を野沢匠(のざわたくみ)は生きている。
高校卒業と共に大好きだった、友坂明美(ともさかあけみ)と遠距離の付き合いが始まった。乗り合わせている、匠は新幹線のドア越しにプラットホームに立っている明美と別れを惜しんでいた。「いつ?いつ!会えるの?」明美は言った。「大学だし、夏休みには帰るさ!」
ドアがスーッと閉まり、匠と明美はドアに挟まれていった。
「きっとまた、会えるから!」通り過ぎていくプラットホームで立ちっぱなしの明美に呟いた。
晴れやかな春の日に2人は別々の生活をしていた。家政婦の資格を取るために、明美は衣類関係の専門学校に付いていた。
匠は大学でも、二流の大学を選び将来のエンジニアになるために、情報学を学ぶ。
2人は高校から付き合い始めた。明美はわがままで、何度か匠や友人に注意されたこともあるくらいだった。登下校を共にし、晴れてから大学進学である地方の大学に受かり今年から勉強する。明美は高校からも家政科で普通科とは違う、高校生活をしていた。アパレル関係の仕事に就きたいと地元の専門学校に行くことになっていた。
新幹線から木漏れ日の春の西日が夕方を照らしていた。匠は漫画を広げ読み始めた。ちらほら辺りを見渡すと出張帰りなのか、缶ビールを台に置き、新聞を広げていた。後部座席には家族連れか!旅行気分でワイワイガヤガヤと、話をしていた。18歳で家を初めて出る、下宿先はまず、寮生活から始まる、友達が出来るか不安な気持ちを抱えながら新たな旅路に進んでいる。明美と離れるのはなるべく避けたかったが自分の夢に向かっていくため、遠距離も仕方のないこと。大学寮は大学の校内にあり、授業を受けるキャンパスも直ぐに行ける、また、食堂があり、寮生は食事をそこで食べる予定になっている。
新幹線から地方の駅に降りたったとき、匠は空気を思いっきり吸った!
「気持ちいいー!」キャンパスからは若干、駅は離れている。読みかけの漫画を鞄に入れ、新しい生活が始まる。すっと、スマホをポケットから取り出し、母親と明美にメールを送った。
大学寮まで路面電車に乗りつぎ、向かった。
「へえ~大きな大学じゃん!!」
歪にも見えた大学は理系の大学で聳え立つ城のように、威風堂々と立っていた。匠は完全に圧巻させられていたが、入場門から我が大学と言わんばかりに入っていった。
大学内に入るやら否や、沢山の学生がサークルの勧誘などで群がっていた。匠は特には高校では部活は入っていなかったが、大学では何かサークルに入ろうとしていた。
「やあ!君!!」ある先輩が話しかけてくる。「えっ僕ですか?」
「そう!君!君!新しい生活に活気のあるサークルなのよ!あなた!結構イケメンだから、うちのサークルに入ってくれたら、嬉しいわ!」女性の先輩が答えた。名前は恵子と言う。「え、突然で、何のサークルなんですか?」匠が返答した!
「演劇よ!!演劇が主だけど、みんなあちらこちら旅行ばかりしているけど。でもね!お願いしたいの!このチラシあげるから考えてみて!!」恵子は言った。
「分かりました。」
ごったがえす大学構内では、落語研究部やサッカーサークル、文化部から、スポーツ、大学四年間の中で有意義に学校生活が潤うように、先輩方も勧誘するのに一生懸命だった。
もし、匠に彼女がいなければ、この大学内やサークルで、見つけても良かったのに、と浮気こころを少し発動させていた。
入学式が始まると思い、大きな講堂へと歩いて行った。スーツ姿で大勢の入学生が席に座っていた。関西弁で話す人や九州のおっとりした言葉や、東北のなまりも聴こえてくる。全国各地からこの大学を志望して入学式を迎えていた。
匠は入学式の席に着いた。名の通らぬ街で、友達は見つかるだろうか?不安と大学生活をエンジョイするための期待をむねに入学式を迎えた。
2 始まったばかりのキャンパスライフ
高校時代、勉強に明け暮れていた。塾に通い大学進学を夢見ていた匠、明美の誘いを断ることが多かったが、明美もそんな匠の姿を見てはそそなく応援していた。今年から明美は家政科の専門学校、2人にとって高校時代のように登下校を共にして夕飯を食べに行くこともこれからは出来ない。
寮生として、大学生活するにあたり、寮母や寮長から話があった。1日目には宿舎でゆっくりした新入生たちは朝方、朝礼があった。
「えー、こうした暮らしにも慣れて貰いたいことがあるが、多少、寮生活には規則がある。みんなにはその規則の中で、生活してもらうようになる!」
と寮長は言った。寮長はなにやら言葉使いが方言だった。
「洗濯機を回すのは朝方で、食堂は一階にあり、朝、昼、晩!そこで食べて貰うわね!お風呂は月水金、この3日以外に入れない人は個人で銭湯に行ってね。わたしからは以上だわ。」
寮母さんは言った。優しそうな顔で、年は50代そこらに見えた。
匠にとって何もかもが新しい生活だったが、新しく全国各地から集まった学生はすぐに寮生活で友人が出来るのが早かった。気さくに声をかけてくる友人に安堵感と緊張感の毎日だった。寮長は明るく匠が気にいったようで、プロ野球の話をよくしてきた。匠はあまり、野球には興味がなかったが合わせながら気さくに話してくる寮長を信頼していた。
朝は6時30日に起床。宿舎の玄関の外で集まり、点呼、そして寮長の言葉があり、7時には食堂にて朝食だった。匠は団体生活を始めて経験していたが、何処か、心ここにあらずと不安な面持ちだった。学校が始まるのは8時30分、講義室でたむろう学生たちがぞろぞろと出校してくる。大学内では話をしながら、女子学生も多かった、勧誘するサークルの先輩方は一週間くらい、大学の玄関の前で、立っていた。
匠はせっかく大学に入ったのだから、何かサークルに入ろうかと思っていた。ふと、入学式で出会った恵子先輩の演劇サークルのチラシが寮の部屋の机の中にあったが、実際にチラシを見ては電話しようか?しまいか?匠は迷っていた。あらゆる、サークルがあったが気楽そうなサークルも大学の勉強には、息抜きや、キャンパスライフをエンジョイするには必要であると思っている。恵子さんが気軽に話しかけてくれたお陰で匠もこの学校で、少なくとも友達の出来る環境だな、と思いながらも、講義を受けに行った。明美からは連絡が一週間途絶えていた。
3 明美との高校生活
高校生活の真っ只中、二人に訪れた好機な展開。2人がまだ、付き合ってない頃には、明美の方から匠に話しかけた。授業中不思議と真剣に教壇に立っている先生が黒板に書く数学の羅列を自分のノートに書き写しているときだった。隣に座っている明美は匠の方をじっと見つめていた。視線に気が付いた、匠は左方向をチラッとみた。するとクスクス笑う明美の姿があった。「あのさ、授業中なんだから、こっち見るなよ!」と匠は小声で言った。
まだ、クスクス明美は笑っている。
「匠君!勉強ばかりしているようだけど、何か息抜きが必要なんじゃない?」
明美は言った。
「どうせ、有名大学なんてこの進学校でも期待出来ないさ!」匠は言った。
「でも、あなた、真面目な人のクラブも入ってないし、家で毎日何してんの?」
明美は言った。
「今、話す時間じゃないだろ!休憩時間になったら話すよ!書き写すの大変なんだから、この数学の授業。」
匠は言った。
「いいじゃない!小声で話せば、ロクな先生じゃないから、怒ったりしないし、」明美はふっと匠に息を吐きかけた!
「分かったわ、じゃ、授業終わったら話してね!」明美は言った。
この授業が終われば15分の休憩時間がある。匠はカリカリ、黒板の文字や数列を書き写し終えると丁度、休憩時間のチャイムが構内に響いた。
「わたし、真面目な人好きよ!!」
明美は言った。
「匠君ってなんでも一生懸命で、女の子のこと、考えていないみたいね!」
明美は言った。
「えっ、そんなことはないよ、塾や家では母さんがうるさいんだ!勉強しろ!勉強しろ!って。オヤジもオフクロも大学出でさ、おじいちゃんは学校の校長だし、なにせ、勉学にはうるさい家系なんだ。」
匠は言った。
「そう、」
明美は言った。
「???」
「なんだか、よくわかんねーけど、とにかく大学行かなきゃなんないって訳。」
匠は言った。
「今度、デートしない?街角の喫茶店のコーヒーがとても、美味しいらしいの!わたし、結構内気だから、一人でお店に入れなくて。」明美は言った。
「良いよ!どちらにせよ、一呼吸する必要があるからね。日にちを決めてくれたら、調整してみるよ!」匠は言った。
「えっ、ホント!!ありがとう!匠くん、」明美は言った。
匠はこの出会いを不思議に思い出すことがあった。匠には異性と、遊んだりすることはこれまでなかった。話しかけられることもなければ、どちらかと言えば硬派の方だった。隣の席で明美がクスクスと笑う姿が今でも脳裏に浮かぶ。
日にちが経つにつれ、段々と仲の良くなっていく二人が、今も前の黒板を見ながらノートに書き写していた。
4 初デート
なんだか、ぎこちない風貌な匠だったが、高校になり、みんな服を買ったりしている素ぶりさえ、匠は見せなかった。そんな風貌で駅前に立っているのだから明美も驚いた。
駆け寄ってくる明美は下はスカート、上はトレーナーと言った洋装をしていた。目が合うといつしか、匠は目をそらしながら、駆け寄ってくる明美を見ていた。
「お待たせ!」明美が言った。
「ああ。」匠は小声で答えた。
「少し待たせたわね。電車一本でも、10分違うの間に合わなかったことは悪いけど、電車にも責任があるわ!」明美は言った。
匠は明美の遅刻した言い訳は聞かず、あまり気にも止めず、次の話題を振ろうとして2人で歩き始めた。
「いい天気ね!昨日は雨が降っていたから今日が心配だったの、あれ匠、傘持って来たの?」明美が言った。
「持って来たよ!」匠は言った。
昨日の夕暮れから続いた雨のせいか、時折の雨に備えてか、匠は結構、用心深い男で、細かいところがあった。
どちらかと言うと明美の方が雑な方で、実家の母の料理の手伝いにしても具材の切り方や、味付けも几帳面な母とは全く正反対だった。
「傘?持って来なかったの?」匠は言った。
「えっ。わたし?」
「そう!」匠は聞き返した。
「匠君、結構、几帳面な方ね。」明美は言った。
駅近くには必ず商店街が並んでいる。コーヒーを飲むにはまだ、早すぎる。休日の商店街は賑やかで人がごった返していた。歩いていると焼き魚の匂いや、燻製の良い香りがしてくる。
明美は左腕の手のひら側につけている時計を見た。時刻は9時43分を指していた。
しばらく歩くと公園があり、そこで子供達が親御さんのテリトリーで滑り台や、ブランコで遊んでいた。低いベンチに2人は座った。
「匠君ね!たくさん、お話があるの、みんな公園で遊んでいるでしょ。でもみんな大人になったら笑わないんだって!」
明美が言った。
「楽しくないのかな?」匠は言った。
「あのね。子供のころのワクワク感やウキウキ感は年をとってくるに連れて薄くなっていくんだって!わたしもワクワク感、無くしかけている。」明美が言った。
「まだ!早いよ!それ!きっと誰かに出会っていくことでワクワク感はなくらならないんじゃないのかな?それ、誰に教わったの?」
匠が言った。
「ふん、わたしの父親!」明美は言った。
「ずいぶん、不思議なことを言うお父さんだね、でも、すくなくとも少しずつだけど気持ちにズレはあると思うんだ。僕も受験勉強で大変だけど、きっとこれが目に見えない努力であっても、努力には変わらないと思うんだ。」
匠が言った。
「匠君!なんか、たくましいのね。何処で学んだの?勉強?」
明美が言った。
「ただ、そんな気がしただけさ、これから将来のことをもっと考えないといけない時が来る。だけど、先ばかり見ても仕方がないからね、今やれることを精一杯するしかないんだ。明美も何か、進路は考えているのかい?」
匠が言った。
「わたし、何をやっても取り柄ないがないし、大雑把だし、ただ向いていることと言えば、家事やお洋服の仕立てくらいしかないから。」
明美が言った。
「充分だよ!何か取り柄ながないって。それも充分、取り柄だよ!その道に行くのも一つだね!」匠が言った。
「だから、わたし家政科選んだの。取り柄がない分、取り柄のある道に進もうと思ったの!」
明美は言った。
しばらく公園のベンチで話していると、犬の散歩をしている夫婦が前を通り過ぎた。午前の雰囲気を醸し出しながら時間が流れていった。朝日から昼間の天気に心地よく光は指している。時計台が近くにあったが、時刻は10時45分を指していた。
匠と明美は午前の心地よい風に何やら物憂げな、昼に差し掛かる公園を眺めていた。一呼吸ついて、世間話を明美としている。
どんな時も、2人には同じ空間が広がるものだ。その空間が初めて?否か?そんなことは関係のないことだ。誰もが過去を悔やむ人はいる。しかし、過去に囚われても前に進めないことも誰もが知っている。そして充分な楽しみや喜び、綻びを得るものだ。しかし、2人にはそのひと時が永遠の至福に思えた。
自然な空気は2人を包み込んでいく。
どんな時もお互いが環境というシチュエーションで求められる。どんな生きようか?どんな経験を積んでいこうか?今の周りの環境から、緊張をするかも知れない。永遠のような時間もその一瞬に限っても正念場であったりする。2人しか出来ないことがあり、また、2人の中で生まれる空間がある。ただ、話をしている2人には独特な空間が広がっていた。そこには2人にしかない空間。まるで息を合わせるだけでの小さくて広い空間だった。物憂げに時間はベンチに座っている2人を包み込んでいった。
真昼間でのここでのシチュエーションは何か時というのを忘れさせた。
明美は左手の時計を見た、時刻は11時45分!12時まではあと15分ある。
「匠君!そろそろお昼にしない?もう、12時になるし、商店街の中でお店探そうよ!」
明美は言った。
「そうだね、これから、何処の店もいっぱいになりそうだしね。」
匠は言った。
今日の初デートは喫茶店が主で、昼食がメインではなかった。匠が先頭になって歩き始めた。昼間に差し掛かるころ出店で、竹輪の揚げ物や、コロッケと言った、惣菜を並べている店が多く、グーッとなるお腹を抑えながら明美は匠に付いていった。商店街も中盤に差し掛かると、右手に何やら古ぼけたイタリアン風の店があった。見るからに本格イタリアンなのか?外観が古ぼけていた。昔ながらにイタリアン料理を作って来たと言う雰囲気を出していた。
「ここでいい?」匠は言った。
「うん。」明美は答えた。
入り口を開けると空戸になっていたが、ギシギシ音を立てていたが、最後まで開けると、カランカランと大きな鈴が鳴った。
「ワーっ!」と驚いて明美は後ろに下がった途端、バタバタと鳥が外へ羽ばたいていった。
店内を見渡せば、大きな猫がこちらを見上げ、椅子に座っていた。
「ヘイ!いらっしゃい!」ホールから、おばさんが声をかけた。
「あのー、ココやってますか?」
明美は言った。
「まあ、気にしないで座ってくださいな!うちは動物がたくさん店にいるけど、しっかり営業してるよ!さあ、何にしましょうか?こちら、メニュー表!」
おばさんは言った。
匠はスッとメニュー表を明美に渡した!
明美はメニュー表を受け取るとビリビリ言うメニュー表を開いてみた。すると、煮込み料理やエスニック料理、いろんな種類のパスタがそこにあった。「へえー、外観や内装は変だけど、料理はしっかりしているのね。」と明美は納得しながら、クリームパスタを選んだ。
「わたし、これにするわ!」明美は言った。
匠は明美が開くページを見ていたのだろうか?明美に続きそのまま、トマトソースベースのパスタを選び、注文した。
「はい、かしこまりました!」割腹のいい、おばさんは元気よく答えた。
「何だろ?この店?雰囲気はいいね!」
匠は言った。
「ええ、不思議に料理は格別かも?」
明美は言った。
「まあ、あまり期待しないで、待っていようぜ!」匠は言った。
店の奥の方で中華鍋みたいなフライパンを搔きまわす音が聴こえてきたが、2人は一瞥置きながら、会話をしていた。
「ねえ、匠君はコーヒーにはミルクと砂糖、入れる方?入れない方?」
明美は言った。
「ブラックって答えたいけど、残念ながら両方入れるな。明美はどうなんだ?」
匠は言った。
「わたし?わたしは専らブラックよ!そのコーヒー豆の香りだとか、自然な味をそのまま味わいたいの。」
明美は言った。
「ブラックなんか、飲めたもんじゃないよ、苦くて、口の中がコーヒーで埋まっちゃうし。」
匠は言った。
「あら、お子ちゃまね!でも、コーヒーでお口の中が埋まってしまうから良いのよ。」
明美は言った。
「へえー、そんなもの?」
匠は言った。
「ええ、そんなもの。」
明美はクスクス笑いながら言った。
「ヘイ!お待たせ!」
おばさんは2人のパスタを持って来て、ゆっくりお皿を2人の前に静かに置いた。
「美味しそう!」明美は言った。
匠は怪訝な目でチラっとトマトパスタを見ながら、テーブルの端に置いてあるフォークを二つ掴み、一つ、明美に渡した。
2人は料理を食べながら話の続きをしている。
ドアが開き、新しいお客さんが入って来た。カランカランと鳴る音に驚いたのか、椅子に座っていた猫が跳びはねて外へ出て行った。
2人は料理を美味しく頂き、店を出て、少し15時までには時間があるので、喫茶店に行くまでに商店街をウロチョロしていた。
昼間なのか、活気づくこの商店街も昔ほどでもないように。昔の人が老いることなく、この商店街を利用するなら、この商店街の活気は衰えることはないと懸念しながら。
商店街には古びた昔ながらの店や、テナント騒ぎにハマっている、新しい店もあった。
古ければ良いものや新しいからいけないなんての辞書はこの商店街にはない。どの店も温故知新でそれなりに成り立っていた。
そんな、商店街の現状もあるが、活気が奪われた町の商店街もある。人が通るに賑やかになり、少なくなる商店街には活気は衰えていくものである。
「さあ!本日のメインイベントね!」明美は気合いの入った口調で言った。
「どうだろな?きっと高級な豆、使ってたりするんだろな。」匠も嬉しそうに言った。
2人は駅前の喫茶店に歩いて行く。
「知っているかい?ブレンドのコーヒーは、ある産地で採れるコーヒー豆を混ぜ合わせていることを?例えばカレーのルーも異なるルーを使って一つの美味しいカレーに仕立てあげる。しかしさ、それって結構、美味しくないと悟ったんだ。モカならモカ、エスプレッソならエスプレッソ、コーヒー豆もただ、ブレンドだけが美味しいとは限らず一つの味や深みを体験したいものだね。だから、カレーを作るときもルーは一つしか使わない。変な意地だろ。」
匠は言った。
「なんかそれ、頑固おやじみたいね。」
明美が言った。
「とにかく素材の味が一番なんだ!コーヒーは!」
匠は言った。
「分かったわ!」
明美は言った。
商店街を抜けると駅を向かいに道路があり、しばらく信号で待たされた。
明るかった日差しは段々と午後の日差しに変わっていく。東から昇った太陽は西日へと変わり、光の暖かさも夕暮れの物悲しさを漂わせていた。
喫茶店に着いた。カランカランとドアを2人は開けた。店内からコーヒーの香りがし、「いらっしゃいませとウエイトレスの女性が頭を下げていた。」
「お客様、2名様ですか?」と店員は言ったが、「はい。」と匠は答えた。
店内はかなり、おしゃれで、イタリアン料理とは別の雰囲気があった。
「さすがに、鳥は飛んでこないわね。」
明美は言った。
ステンドグラスがあり、窓は大きく外を見ることが出来る創りになっていた。
グツグツとビーカーに入っている、お湯が沸騰している。何台もこのシェイカーに入れられていた。
スタスタ歩いてくるウエイトレスは近寄りながら、メニュー表を持って来た。「コーヒー豆をお客様に選んで頂けます。このメニュー表から実際にあちらのコーヒー豆をご自由にお取り頂き、選んだコーヒー豆でわたしたちが中流させて頂きます。なので、一度コーヒー豆を選んで頂きたいのですが。」
「分かりました!」匠は言った。
「へえー、自分たちでコーヒー豆選べるのね。」
それぞれ、アフリカ産や、カナダ産、メキシコ産から、キリマンジャロやモカ、エスプレッソ等沢山のコーヒー豆があった。
匠はやはり一つのコーヒー豆を選びに選んでその豆一つで勝負しようとしている。
「さすがね、匠君。頑固。」
明美は言った。
明美も沢山の種類のコーヒー豆の中から、3種類選んだ。そのコーヒー豆をウエイトレスに渡すと、直ぐに豆を挽いてくれ、中流をし始めた。「中流の仕方も奥が深いもんだな。」匠は言った。
しばらく眺めていると明美のブレンドコーヒーがきた。匠を思ってか飲もうとしない明美に「飲みなよ!熱い方が美味しいし!」と匠は言った。
明美は右腕でカップをとり、コーヒーを一口飲んだ。「わっ!美味しい!」はしゃぐ明美に匠もはしゃいだ、しばらくすると匠のコーヒーも来た。香りを嗜み、ミルクと砂糖を加えた。スプーンでグルグル回し、カップを掴んだ。苦味も少なく仄かなコーヒーの風味を感じた。
「これ、今まで飲んだことないよ!」
匠もはしゃいだ。
メインである喫茶店を後にしコーヒーの名残を残しながら、2人は駅に向かって歩いた。日が落ちていく休日だったが、2人の距離はぐっと近いものになっていた。夕焼けを後に明美は帰りの電車に乗り、匠は明美を見送った。
5 2人きり
喫茶店に行った2人だったが、その後何度か、デートを重ねた。ある雨の日だった。天気予報では晴れると言っていたが、午前中の天気は斜めだった。雲行きが怪しく、今にも降り出しそうな空はだんだんと薄暗く雨降りの色に染まっていた。あっ降り出したと登校する学生達は天気予報で晴れと診断されたことを真に受けたのか、折りたたみの傘も用意してなく、あまり傘を持ち歩いている学生は少なかった。匠はやはり、傘を用心に持ち歩いていて、パサッと傘を広げて雨を塞いだ。後ろを見ると、明美が登校する匠の傘に突然入って来た。「匠君、私、傘忘れたの。」雨で濡れた体は小さく、震えていた。肩がお互い近かったのか、左手を握りしめ傘で覆った。登校の最中、学生が沢山、走り学校へ向かって行く。しばらく手を握りしめていたがハッと匠は明美を抱きしめた。寒くて体は震えていた明美だったが、しばらくそのままで2人はいた。一瞬の出来事だったが、雨から分からない涙が明美にはあった。
時間が長いのか短いのか?分からない。無理だと思うとやはり、出来ない。でもその合間で楽しみを見つけたなら必ず、その行為は苦痛ではなくなる。何かが起きる前に必ず準備がある。どんなハラハラして出来ないと思う新しいことも、きっと経験という準備があるものだ。その準備を誰もがして、ハラハラする気持ちを緩和している。意気込んでやったことは凄いことだが、自然となりうる出来事もやはり尊いのかもしれない。どんなに過去が辛く後悔しても今を生きるに関係のないことだ。だけど、次における行為を予測、準備出来たなら、生きることは少し楽になるのじゃないのかな。腑に落ちたことで、全ては学びなのだと思いしらされる。
6 初の大学生活の春に、演劇サークルに
演劇サークルの勧誘に匠は恵子先輩に電話をしてみた。学生活動が済まされた午後の時間を見計らって。電話に出た恵子さんは明るい声で、「あっ、入学式に正門でチラシあげた子ね!覚えているわ!どうしよう、これからサークル活動あるけど、部室に一緒に行ってみる?取り入って何か活動じみたことをやる訳じゃないけど、新入学生、大歓迎よ!」
「分かりました、何処の学舎で待ち合わせますか?」匠は言った。
「そうね、もう講義はしていないと思う第3学舎まで来て、あとは連れて行ってあげるわ!」
恵子は言った。
匠は寮を出て下の第3学舎まで歩いて行った。寮が学園内にあるので、簡単に第3学舎まで着いた。しばらく待っていると、恵子先輩が携帯を右手に持ちながら、やって来た。
「えーと、あなたの名前は?」
恵子は言った。
「匠です!」敢えて苗字は言わなかった。恐らくフルネームもサークル内では意味もなさないと思いながら。
「じゃ!行きましょ!部室はね、第五学舎の中にあってエレベーターで4階に上がったところにあるの。皆んなに紹介するから!」
恵子は言った。
何かしらトントンは拍子で動いて行く事柄も大学に入り始めて慣れているものとなっていた。
この街で駅から降りた光景も新鮮だったが、寮や大学のキャンパスさえも新鮮だった。気がつけば慣れる前に勝手に事が運んでいることさえあったので匠は驚いていた。
第五学舎まで着いた恵子と匠はエレベーターにのり4階のボタンを押した、スーっと登っていく、エレベーターはガラス越しになっていて、大学キャンパスを一望出来た。構内には学生が多く、昼には昼食を食堂でとる学生が沢山いた。
あっという間にエレベーターは4階に着いた。
エレベーターのドアが開くと、パン!パン!パン!クラッカーがなった!匠は驚いたが恵子が事前に部員に策略を昂じていたに違いない。
「新入生!歓迎!我が、サークルにようこそ!」日本歌舞伎か分からない先輩たちの声は空高くこだました。
「いいのよ、気にしなくて、えっと、こちら!新入学生の匠君!よろしく!」
明美は言った。
恥ずかしがりながら、匠は大きな声で挨拶をした。
「匠君ね!わたしたちのサークル、メリハリはついているわ、ほら!こうしてクラッカー!」と右手でクラッカーから出た紙の紐を匠に見せた。
「ね!」
匠は頷いた。
「匠君!このサークルは演劇サークルだからね、ステージに上がるのは街案内でイベントに参加している公民館や、学校の文化祭などで披露するのよ!わたし?わたしの名前は4回生の田所俊だ!匠君!わたしのことは俊(しゅん)と呼んでくれ!そしてわたしはこのサークルの副部長をしている。今、部長は不在だが部長にもいずれ合ってもらうよ!まあ、気楽に奥のテーブルでお茶を沸かしている、飲んでくれ!」俊先輩も恵子先輩と同じく明るい人でとても面倒見のよい先輩だった。
山登りや、キャンプ、海水浴などの予定が書いてある張り紙を見ながら匠は奥のテーブルへ進んで行った。3回生の先輩や2回生の先輩と仲良くなれそうだと思いながら、座席に座った。
まず、やらないといけないのは、大学早々に始まる新歓だ、花見で新歓の予定を先輩が立ててくれる。春に桜もあり、そこでブルーシートを引き、何十人との先輩達と飲んで飲んで飲みまくる。匠はお酒に関して何ら抵抗感は持っていなかったが、これは軽く頭痛がするやつ、と思いながら俯くしかなかった。
「匠君!まあ、ゆっくりしていってね、わたしは用事があるから下宿先に帰るわ!」そう言って恵子さんと別れた。
部室の中は学生でいっぱいだった。ふと、見かけた写真立てには部長と副部長、恵子さんがリーダーなのか、集まっているサークル部員の姿があった。衣装部屋もあるらしく、サークルと言えどやはり、演劇サークルだな、と匠も納得している。お茶は古風で静岡県産茶葉を利用したものや京都の宇治茶という代物もあった。このサークルは日本茶にうるさいらしく、名の通ったお茶でなければ部員は口にしないと妙なプライドがあった。急須に入れた日本茶はまだ、2回生らしく、ショートカットの西田さんが組んで来てくれた。「あのー、」と弱々しい声で匠に話しかけると、なんだ?と匠が振り向いた瞬間、西田は驚いて急須を落としそうになった。「あっ、大丈夫です、気にしないでください!」裏腹な声とは逆に左からヒョッと覗かせた2回生の琢磨が声を挟んだ。「西田さん!気をつけなよ!新入生も驚いているじゃないか!お茶も沸騰したお湯入れてんだからこぼしたりでもしたら、火傷するよ!」琢磨は偉そうに言った。
「あ、あの、すみません。」西田さんは小声で言った。
「ありがとう!僕は新入生です。西田先輩ですね。よろしくお願いします。」
匠は言った。
「難しいお年頃なんだろう、キャンプライフは驚きとすり減りそうなスリル!!これでなけりゃエンジョイ出来ないぜ!学園生活はよ!」
琢磨先輩が言った。
正直、感じの悪そうな人だと匠は思ったが、付き合ってみると裏表もない性格をしている先輩だった。
日本茶を飲みながら、以前公民館での演劇活動のDVDを観ていた。前にテレビがあるから自然とみんなの視線はテレビ画面に向かう。
「よく撮れてんな!西田さんも座ってみなよ!」急須をテーブルに置き、少し離れた椅子に座り込んだ。
「お前も新入生か?この演劇サークルは沢山イベントしてるから、その!キャンプとか!でも暇な時間見つけては俺も部室に入ってはゆっくりしているのさ!名前は何て言うんだ?」
琢磨が質問した。
「匠です。」
「そっか!この大学は県外の奴らばかり集まっているもんだから、方言が入り乱れているよ、俺も下宿先から原付乗って通学してるのさ!もう、免許は取ったのか?匠君!」
琢磨が言った。
「高校を卒業して直ぐにはお金がなかったので取れませんでした。この夏休みに沢山バイトしてお金を貯めて、取ろうと思っています。」
匠は言った。
「そっか、しばらくは車乗れねーけど我慢すんだな。俺も免許はあるが、車がないってやつは、いずれ金貯めてセダンを買うさ!そして、通学を車にするのさ!」
琢磨が言った。
「この学校は通学に使う駐車場はあるんですか?」
「あるとも、第3駐車場まであるんだから、学生の殆どは車で通学しているぜ!お前も欲しかったら、金貯めて免許取って、車を買いな!今は中古車があるから断然、うん十万で買えるものもあるからな!」
琢磨は言った。
「はい!」
匠は答えた。
みんな気さくな人たちで内心、匠はホッとした。高校生活とは違う仲間が沢山増えていくのがとても嬉しかった。しばらくすると、副部長の俊先輩が匠に近寄ってくる。「匠君!大学に入って勉学も大変だけど、こうやって交流するのも、後で社会人になったら役立つことだってある。とにかく大学は経験だ!経験なくして若さはない!どんな危険なことで味わうと味合わないとは格が違うのだ!フォアグラを食べたことがない人間に、フォアグラの感想を質問するようなものだ。ここのみんなは良い人ばかりだと思うよ。裏表のはっきりしているやつもいるし、是非、うちのサークルに入って欲しい!」
俊先輩は言った。
こちらを伺っていた琢磨は、俺のこと言っているなと感づき癇癪な態度を取った。
次第に夜になり、辺りが真っ暗になってきた。窓から光が差していたこの学舎もしだいに暗くなっていく。「また、この部室、のぞかせてもらいます。今日はいろいろありがとうございました。では、そろそろ寮に帰ります。」
匠は言った。
丁重な言葉使いに琢磨先輩も俊先輩も唖然としていた。
「お待ちしております!」
副部長は答えた。
寮に戻る頃には学園内の食堂で夕飯の準備が整っていた。寮生と分かち合いながら、夕飯をしっかりと食べた。
7 明美との会話
入学して大学生活も一月経とうとしている。サークルには入部し、明美と連絡を取っていない。匠は異様な焦りを覚えていた。
明美は元気よく通話ボタンを押す。
通話越しに匠はおどおどしている。
「元気?慣れない土地だし、少し心配してただけ。でも、電話あって良かったわ。楽しくやってんの?」
明美は言った。
「やってるさ!新鮮なことで喜びと喜びが交差しているよ!明美はどうなんだ?家政科の専門学校は?」
匠は言った。
「わたしは相変わらずマイペースでやっているわよ、今まで家事や手伝いや裁縫、趣味でもしてたから、専門学校もその延長みたいなものね。匠君はあれだけ勉強していたし、祈願の大学生活エンジョイ出来そ?」
明美は言った。
「4年間あるし、春と夏に2ヶ月の休みがあるし、その、冬休みもあるしな。とにかく、時間が山のようにあるのさ!そう言えば、サークル入ったよ!演劇サークル!みんな気さくな人たちで和気あいあいと活動しているサークルだよ!」
匠は言った。
「そう、凄いわね、俳優にでもなる気?それは冗談で、楽しめそうなら、断然良かったじゃない!」明美は言った。
「まあ、なんだかんだ、慣れたよ。寮生活もサークルも学園活動もね!」
匠は言った。
「そう、良かった。わたしも地元で頑張るから匠も勉強頑張ってね!たまには帰って来てね!」
明美は言った。
「ああ、分かった。それじゃあ。」
匠は通話を切った。
匠はとても、新鮮に思えた。違う世界が今、広がっている。何もかもが新鮮でサークル活動も楽しい。明美と電話することで、故郷の趣きさえも新鮮だった。
明美は今年の春から地元の専門学校に通っている。家政科を選びその道一筋に頑張っている。匠も勉強を一生懸命に頑張るつもりだ。大学に入れば勉学は一気に専門性を増す。全てが応用的な学問で、全ての勉学は大学から始まっている。大学から高校へ下り、中学、小学と基礎を学ぶことになるからだ。自然科学や概念といった学問の理念も大学で、学ぶようになる。
とりわけ、応用数学は教授の講義中、いったい教授は何を言っているのだろうかと匠はたまに頭が空白になったが付いていこうと必死だった。
寮では寮長と仲良くなりまた、プロ野球の話で盛り上がっていた。蛇口がある端のところが寮長の座るところであるが、匠も気分良くその隣で体を洗った。
高校生活や大学生活に一度、寮と言うものを経験してみたらいいかも知れない。あらゆる新しい環境で生徒たちが別々の環境から寮という枠で生活する。嫌なことよりも友人同士、仲間意識が寮で広がるものだ。お互いがお互いを尊重し、一つ屋根の下で生活する。それは匠にとって、とても貴重な経験になっている。
季節は春を迎え、心地よい風がキャンパスを埋めていった。勉学は捗るが生徒の中には一切勉強せず、レポートだけ提出し眠っている学生もいたが、大学とは実に沢山の学生がいた。匠は恵子先輩や俊先輩、琢磨先輩や同僚と演劇の練習に精をあげていく。
8 琢磨と匠
ハッと起きた時間は8時過ぎだった。寮の廊下きら掃除機の音が鳴っていた。「いけない、遅刻だ!」と匠は思ったが今日は祝日の休みだった。洗面所で顔を洗い、うがいをした。携帯では朝早くなっていたが、着信を見ると琢磨先輩だった。「いったい、何だろうか?」と頭を掻きむしりながら通話する。
「お!匠か?おはよう!ちょいと付いて来てもらいたいところがあるんだ!10時に裏庭のバス停で待ってろ!」
琢磨は言った。
「ああ、分かりました。」
匠は言った。
強引な誘い方だな、と少し思ったが匠は今日は何も予定がなく、丁度良かった。
第5学舎のエレベーターをB1まで降り裏庭のバス停へ向かった。「いったい何なんだろうか?」
短い階段をいくつか抜け、バス停まで辿り着いた。時計を見ると9時47分。しばらく待った。
”ファン ファン”と車のクラクションを鳴らし琢磨先輩が現れた。匠は驚き「これ琢磨先輩の車ですか?」匠は聞いた。
「そうだ!これ2シーターだから、2人しか乗れない!ちょいと来てもらいところがあるんだ!乗っていいぞ!」
琢磨は言った。
「凄いですね、結構内装もボディの色もかえてあるんすね!」匠は言った。
「シフトやマフラーも変えて赤から白、白から黒へと外装も塗り替えている。バイト代は全て車に変わっていくのさ!」
ニヒっ!と琢磨は笑って見せた。何かヤンチャそうな顔もちだった。
バス停の周りはこの大学の裏門になっていて自由に駐車場を使うことが出来る。第3駐車場であり、この駐車場は正に第2駐車場だった。バス停にバスが来るのもこの街の名物でバスから沢山の学生が降りていく。祝日の今日は見物客か?と一般の人がバスから降りていた。「今から裏山の峠を攻める練習に向かう、コースを把握しておくのは走り屋の鉄則だからな。匠君、君には助手席に乗って助手席の窓からガードレールの間隔を把握して欲しいんだ。」琢磨は言った。
「カーブがある以上はガードレールに打つかる寸前でドリフトしなければならないからな、そのガードレールとの間隔が聞きたいんだ!」
琢磨は言った。
突然、琢磨は真剣な顔をして匠に言ったので、匠は驚いた。表裏がない琢磨先輩で通っていたが、意外に真剣な眼差しで峠を攻めていることを匠は知った。さっきまで、おちゃらけていた人が一気に真剣になるギャップは不思議に男らしさを感じた。
裏山は意外に近い場所にある。キャンパスは街の中心に造られている訳ではなかった。街の外れに位置し裏の駐車場のその裏はもう、峠を攻める裏山だった。
バス停から直進の道路を遊びから一速へチェンジを入れてアクセルを蒸せば、一気に80キロまでメーターが上った。匠は後ろに貼り付けられた。一速で80キロまで一気に加速する車を恐るべしと琢磨は思った。「どうだ?匠!Gは感じたか?まだまだ、お遊びはこれからだ。ドリフトかましゃーお前もびっくりするぞ!」琢磨は言った。
匠はその言葉に少し頭にきたが。コメントは控えた。
一速から二速へシフト、アクセルを踏むと直線の道路で130キロが出た。アクセルを緩め、「さあ、そろそろ、コースをマスターするか!」と言って、琢磨はスピードを緩めた。三速で充分に速度を落とし、峠のコースを緩やかに走っていった。「匠、少し外側で運転するからガードレールと車の距離をチェックしてくれ!メジャーみたいなものは必要はないからお前の目線で距離を測ってくれ!」そういうと琢磨はカーブに差し掛かる外側を向けて走った。
「先輩!まだまだ、縮めることが出来ますよ。」匠は言った。
「おっ!そうか、じゃあ今度はもっと外側を向けて走る。」
琢磨はまた、カーブに差し掛かりより、外側へ走る。「先輩、もうギリギリです。もう隙間が3センチくらいしかありません。」匠は言った。
「よし!分かった!ありがとな!匠!感覚が分かった!これでこのコースは俺のものだ。」
琢磨はそう言って、距離の隙間を教えてくれたお礼にと昼食を奢ってやると言って、街の中へアクセルを吹かせた。
「ココから10分走ったところにカレーの旨い店があるんだ!どうだ、匠!車ってすげーもんだろ!お前も早く免許取って買うんだな。」
琢磨は言った。
しばらく、中心から一つ離れた駅前で車を停車させた。車を降り、早々と琢磨は歩いたが、匠も遅れまいと付いて行った。
1階ではパンの美味しそうな、香りがして、お腹がグーッとなったが、そのまま2階への階段を昇りすすめた。
カレンと書いた、カレー屋だったが、昔ながらの雰囲気を、醸し出し、とても感じの良いお店だった。匠は独特なカレーの香りに再び空腹を覚えた。「とにかく、よく食べ、よく動く!これが学生の特権だ。無駄なんてことはない!遊びや趣味からは沢山学ぶものがある!」
琢磨は言った。
正直、そんなに熱くならないでいいんじゃないかと思ったが、まあ、琢磨先輩だからなと、少し苦笑いをした。
メニューがあったが、開いていく琢磨、「みんなナンが美味しいって言うけどかなりのライス派なのさ。だから、俺はライスカレーを頼む。そうだ!店で評判なのは、その右にあるトマトカレーだ!」琢磨は言った。
匠は頷くしなかった。
店員さんは年季の入ったエプロンでオーダーに答えた。「かしこまりました。しょうしょ、お待ちください。」
店員は言った。
「学生に人気な店だ、女子大生だって沢山来るんだぜ!匠は!彼女いんのか?」
琢磨は言った。
「居ますよ!高校から付き合っている人が。」
匠は言った。
「そっか!それなら、余計に免許取って車、買わなきゃなんないな!もう大学過ぎるとさ、車必須になってくるんだよ!」
琢磨は言った。
美味しそうな香りが店内に広がって来る。「お待たせしました。」琢磨が頼んだライスカレーと匠が頼んだトマトカレーがテーブルに置かれた。
匠が一口食べるとアッサリなカレーのルーの中に、トマトの食感が口の中で広がり。「旨い!!」匠はつい声を出してしまった。 辛さや量もちょうどよく、匠は満足している。「このサークルさ!いろんなイベントあるからきっと楽しいぜ!また、車乗せてやっからよ!また、飯食いにいこうぜ!」琢磨は言った。
「ありがとうございます。また、お願いします。」匠はお礼を言った。
9 季節が過ぎていく。匠は夏休みは明美と過ごすため、実家に帰ることを決めている。明美からあれから何度か連絡があったが、帰ることも伝えている。大学生活はもう、3ヶ月を過ぎ、定期的なテストが始まるときが迫っている。講義はなるべく眠らずにノートに書き写し、真面目に匠は勉強をしていた。
明美の方は専門学校での家政科の勉強をしながら、アルバイトを始めた。中華の飲食店でウエイトレスをしている。明美に会うことを心待ちにしていた。
「お!匠!」部室に行くと琢磨が声をかけてきた!「この夏休みは免許取りに行くのか?」
琢磨は言った。
「資金がないので、行けませんね。」
匠は言った。
「資金がないんじゃあ、しょうがないな。大学生活も慣れてきた頃だからアルバイトでもしてみたらいい!何分学生はお金が入りがちだからな。そういや、お前の彼女、実家でアルバイト始めたんだって?」
琢磨は言った。
「ええ、中華料理屋のアルバイトだそうです。」匠は言った。
アルバイトを始めた明美は夏休みはお金を貯めるためにシフトを入れていると匠は聞いていた。匠も何かしらアルバイトでも始めようと思っていた。夏休みは短期のアルバイトを実家でと思っている。
琢磨の車に魅了された匠だったが、ドライブや、旅行、考えてみると、時間の余裕がある大学生活で車を持っているか?持っていないか?で、大きな差がある。次の春休みまでしっかりとお金を貯めて免許を取ろうと覚悟していた。
春の兆しはもう、遠のきジリジリ熱い日がやってきた。6月の梅雨を抜け、7月に入った日差しの暑さは尋常ではなかった。
10 夏休み
期末のテストが終わり、実家に帰ったのは7月始めだった。沢山の人で駅前はごった返がえしていた。駅に着くと、明美が手を振って待っていてくれた。「おかえり!」明美は言った。
「今日はバイトなかったのか?」匠は言った。
「ええ、今日は休みなの。時間あるからあの喫茶店で涼んでいかない?」
明美は言った。
「そうだな、時間は充分あるし、話したいことも沢山あるしな!」
匠は言った。
2人は喫茶店へ向かった。日差しが厳しいせいか、影の方をなるべく歩いた。「大学で友達は出来たの?」明美は言った。
「ああ、沢山出来たさ!先輩も沢山いるしね!みんな、良い人だよ!」
匠は言った。
喫茶店に入るとコーヒーの香りが店内に広がっていた。店員に任されるまま、左隅のテーブル席に通された。席に座るとお互い注文を取り、マッタリとした時間が流れた。ジャズの演奏が店内に流れ、雰囲気の良い空間が広がる。幸せと思えば2人でいられる。話を2人であてもなく話していた。
人には運がある。個性を除く限りは性格もあるし、運のパラメータも異なるだろう。人生遅咲きの人もいれば、いつまでたっても努力が実らない人もいる。また運勢が良く、ずっと幸せで暮らす人もいる。わたしはどちらかと言えば、前者だ。人は平等な運を与えられてはいない。不幸に思えばその人は一生不幸かも知れない。しかし、みんな何かに立ち向かい成長しようとする。初めから愛を与えていく人は珍しいだろう。人生と言う埃の中で挫けたり、悩んだり、辛かったりスパイスを味わう。それが女王蜂の針か?蜜蜂の針か?水しか飲めない生活を送り続けるか?見えない目標を夢見て血の滲むような苦労をするかはその人次第に掛かっているが、人生は他の誰かでもなく、今生きているあなたが主役なのだ。間違っても自分を見うしなってはならない、それは生きている限り、旅と言う人生の中のスパイスがそうさせるからだ。楽だからする!苦しむから苦しむか?どちらを選ぶ?絶対、前者がいい!きっとあなたは英雄だ!
11 夏休みの2ヶ月間、匠は短期で簡単なアルバイトを地元ですることにした。明美は夏休みと言えど、中華料理店のアルバイトが忙しく、匠とあまり、会うことが出来なかった。花火大会を一緒に観に行くほかには、免許の取得のため、匠はアルバイトに専念することに決めた。8月4日に花火大会がある。明美もこれには乗り気で楽しみにしていた。
新聞のチラシからあるスーパーの短期アルバイトを見つけた。やはり、学生らしく時給はあまり良くなかった。揚げ物やお寿司など並べる惣菜のアルバイトを始めた。「ほら!揚がったよ!」景気の良い声が惣菜中を響かせた。割腹の良いおばさん達が夫の生活の支えとして8時〜12時まで働く。匠はドギマギしながらも、お寿司のネタをシャリに乗せてパックへ包む作業や、揚げ物を見繕ってパックに入れて行く作業に追われた。匠も8時間働こうとしていたが、4時間程度にして、午後は何処か、落ち着ける場所をしっかり探していく。
「匠!8月4日は花火大会の日よ!浴衣着て、一緒に観にいくんだなら。」明美は電話越しに言った。
「ああ、分かってるさ!4日は休みとったから、必ず行けるよ!楽しみだな!」
匠は言った。
「学生らしくしたいのよね、わたし、まだ専門学生だし、匠も大学生だから、初の花火大会ね!」明美は嬉しそうに言った。
「きっと綺麗だよ!音も大きいし!沢山、観客もいる。」
匠は言った。
明美の頬に涙が伝った。大丈夫!こころで気持ちを落ち着かせながら、電話越しに聞こえてくる、匠の声を聞いていた。
匠と明美はお互いにアルバイトをしながら、日にちが過ぎていった。
12 花火大会
8月4日、匠はアルバイトを休んだ。明美は昼までアルバイトをし、駅前で待ち合わせをしていた。やはり、匠の方が10分前には着ていた。午後の日差しが暑さを緩めていない、明美は待ち合わせとほぼ同じ時刻に待ち合わせ場所に着いた。「ピッタリだな!明美!さあ!行こうぜ!」匠は言った。
川辺までは電車を5区間越えなければならない。夕方に差し掛かる15時15分の電車に乗り、帽子をお互い被りながら、駅まで乗った。電車の中は花火大会があるからといっても座席に座ることは出来なかったが充分空きがあった。暑さのせいか、ひたいから汗が滲み出ていた。窓から注がれる真夏の日差しは冷房の電車の中ではかき消すことも出来なかった。
街の外れのせいか、ビル街が次第に川辺に近づいて来ると大きな平地に川が連なりまた、橋や鉄橋が見え始めていた。大規模な花火大会ではないが、巷では大きな花火で通っている。
川辺の駅に着いたときは時間は16時30分だった。次第に会場に近づくにつれて人もぎゅうぎゅう詰めになっていた。改札口を抜けると、田園が広がり辺り一面が野や花畑になり、その真ん中で花火が上がるようになっていた。ベンチや椅子のない草むらで沢山の人が花火大会を楽しみにして座っていた。家の中でお酒を飲みどんちゃん騒ぎをしている家もあったが、気温はだんだんと夏の夜に涼しくなっていた。18時30分まで匠は明美と夜店を周っていた。場所を確保しゴザを敷いた箇所は定位置で花火が見れる。りんご飴や綿菓子、金魚すくいや、ヨーヨー釣り、明美ははしゃいでいた。背後を見ると明美が浴衣姿で左手を握っている。明美の左手にはうちわ、腕には金魚とか、ヨーヨー、何か騒がしい左手だ。
しばらくすると、放送があり、18時30分から花火を打ち上げると言っていた。18時には場所を決めていたゴザのところまで行き、花火大会が始まるのを2人りんご飴を食べながら観ていた。”ヒューン パン!ヒューン!ヒューン!と花火があがっていく。小さな花火が最初にあがり、一斉の拍手が起こった。左から右まで一気に打ち上げた花火が連続になった。大きな音が背後から聴こえる。「すごーい!」明美は驚いていた。花火に寄っては、視界を全部、明かり一色にするので、正に度肝を抜かれる。と思いきや聴いたことのない大きな音で、ハッとさせられる。明美の右手を左手で抑えるように匠は握っていた。浴衣姿の明美は本当に可愛く、少し匠は恥ずかしくなっていた。
花火があがる度に観客の声援が起こった。もうこのまま死んでもいい。それくらい匠は幸せな瞬間だった。生きていて良かった。これから沢山いやな出来事があってもこの夏の思い出は一生忘れまいと決心した。チラッと明美はこちらを見た。匠は恥ずかしいせいか空ばかり眺めて、見られた意識をカモフラージュさせた。
「すごいわね!あたしこんな大きな花火始めて見たわ!」明美は言った。
「とにかく、ここの花火は凄いんだ!大きな花火もあるけど、音も耳鳴りがするくらい半端ないだろ!」匠は言った。
明美はそっと匠の左腕に右腕を絡ませ、体を匠に寄せ、頬を肩に付けた。
青春な2人は空に魅了されている。
13 新学期
ワンクールの休みが終わり、明美と匠は再び学生生活に戻った。明美は家政科の専門学校、匠は大学。「どうだ?匠!お前この夏休みでかなり稼いだみたいじゃないか?そのまま、免許でも取りに行くか?」琢磨が話しかけてきた。
「先輩!免許、取得出来るだけは稼ぎましたよ!」匠は言った。
「運転免許を取ろうと思っています。そのときは琢磨先輩、あの車運転させてください!」
「おう!いいぜ、いいぜ!」琢磨は言った。
学生達は、休みの期間に働き新学期が始まったら旅行へ行く。勉強も匠は疎かにする気はなかった。必死に勉学に食らいつく青春時代もいいだろう。学生の本分は勉強である。人より努力したものが、人の上に行く、社会に出ても同じだ。幸せな日を求めて2人は来年、旅行することになった!夏休みが終わり秋の紅葉が目を覚ます頃、何処か、夏の激しさよりも物憂げな秋ロマンに季節は変わっていく。来年の秋までに車を買うことを目標に、匠はしている。琢磨先輩みたいなバリバリのスポーツカーでないにしても、普通のセダンを買おうと決めていた。
秋に差し掛かる頃、免許を取るために教習所に通い始めた。学校の近くに免許センターがあり、本分、学生はその教習所で免許を取るらしい。匠も夏休みにアルバイトを頑張ったせいか、教習所に通うだけのお金はためていた。
勉強と教習所の往復に疲れはするものの、やっていくしかない。
琢磨先輩はそつなく匠をドライブに誘った。学生向きに食堂に行けば、ウエイトレスに声を掛け、失礼本望で振られる。この琢磨という人間はどこからどこまで真面目なのか掴めない様子だった。「一機種一等速!」中、高、と野球部だった琢磨はいつもよりふざけていた。そんな秋の季節から女子大生のファッションは衣替えしていた。ダッフルコートや、トレンチコート、寒さに備えた装いをしていた。
まだ、若いが故に未熟と言わんばかりか、純情なのか?さっぱり匠の前では分からなかった。女子大生のこのような装いには可愛さがある。ふと、明美のことを思い出したが、会いたいという気持ちが交錯した。
演劇サークルも学園祭に備え、1年間頑張ったせいかを披露する。
この大学は秋に学園祭をする。演劇サークルになんとなくも在籍していた匠や琢磨は車で遊びに行ったりと演劇よりイベントの方を重要視していた。それなのか演劇に力が入らず、今年の発表祭では主役はもちろんのこと、脇役さえもらえない有様だった。
来年の秋には何処か、温泉旅館に行くと思うと、仕切りに教習所で燃え滾る炎を燃やし、火花のごとく教習車を運転するので、教官に注意されたりもした。「巻き込み確認をしろ!!」ってな感じである。
学園祭の日は3日間、行なわれる。1日目の前の日は前夜祭として、前段階の余興もあるが、実際に演劇サークルも出演依頼が来ていたが、琢磨と匠は出演しなかった。琢磨の家で夜番お酒を飲みながら、馬鹿話しを2人であれこれとしていた。俊部長や恵子先輩の電話をブッキングし、ただ、飲み開けた3日間で幕を閉じた。実際に2人からはもはや、お呼びがかかるはずもなく、演劇サークルに失礼旋盤で飲み続けたのだった。
後で、この出来事は失意に部長と恵子先輩にこっぴどくしごかれた。
14 学園祭も過ぎ、学園の冬がやって来た。教習所に通い始めて2ヶ月間ほぼ毎日のように教習車に乗り付けた匠は仮免を取得した。琢磨先輩に「お前も走り屋かー!」などと、訳のわからない様相を垂れ流されても教習所だけはしっかりと通った。匠の中で琢磨との走り屋のことや車の車種など、どうでも良かった。ただ、明美との約束を胸に来年の秋の温泉旅館のために必死に食らいついていたのだ。それを見た学生は「馬鹿じゃないの?」と野次を飛ばす生徒もいたが、匠は本気だった。あの花火大会以来、あの瞬間に覚えた記憶が蘇ることがあった。
息血に立て、明美を思う気持ちが真っ直ぐに匠を走らせている。それが何ともなくダサくて、他の誰に馬鹿にされても、匠にとってはどうでも良かった。周りを気にせず、真っ直ぐな愛しか分からないつまらない男に過ぎなかった。それが匠自身分かっていたとしても、一つの信念のように思えたからだ。
人は生きるしかない、誰かに縋ろうが、身を這いずったりしても、生活の全てを捧げる時がある、仕事であったり、バンドであったり、スポーツであったりだ。何でもいい。一つの何かのために本気になれるとき、人は生きていることを知る時だ。
15 冬の目覚め、匠は教習所に通い続け、最短で免許を手にすることが出来た。いち早く、明美に連絡を入れたが、「良かったね。」と繰り返すばかりだった。
演劇サークルのブッキング事件や車の免許取得、や沢山の経験をしていた。まるで1年という風が一瞬通り抜けたかと思わんばかりに一瞬の出来事だった。恥ずかしくも、無茶苦茶でも一瞬の風は匠に良き風を送る。
匠にとって人生の中で一番潤った1年間だった。春の風が心地よく降り注ぐ。演劇サークルには申し訳ないと俊先輩や恵子先輩に退部届を出しに行った。アルバイトに専念するために迷惑を掛けたくない意義だ。俊先輩や恵子先輩はどうしたものか?と頭を傾げたが、仕方ない決断であるまじきと何度も琢磨先輩と2人で頭を下げた。承諾するには1ヶ月掛かった。何度も部室に足を2人で投げ入れては謝り、頭を下げる時期が続いた。1ヶ月経った頃に俊部長に「もういい!分かった。」と退部を認められた。
秋までには匠は車を買わなければならない。中古で50万は必要だ、維持していく保険代や税金にして100万は貯めようとしていた。朝早く起きて勉強をし、講義を夕方まで受ける、それからアルバイトに精を振るった。お酒の誘いを極力避け、誘惑も断ち切り、節約を重ねていった。気が付けば、春を越え、夏になる頃にはもう、60万は貯まっていた。「あと!40万!」気合いを入れ生活の一部を投げ込む。
サークルを辞めたせいか、ドギマギしていく時もあったが、懸命に働いた。
15 高校生活
2人は駅前の喫茶店から急激に距離が縮まった。自然の成り立ちとは人の奇跡をも得る。その出会いが早いか遅いかも自然そのものである。喫茶店から別れてからは匠の気持ちは胸上がっていた。教室からの一件から走り出した恋だった。2人にはまた、あの雨の日の出来事から逃げも隠れもしない付き合いを始めた。匠が積極的に誘導してときも、明美が主導権を握ることもあった。持ちつ持たれつな関係を不思議なくらい自然な成り立ちであったことが2人には嬉しかった。もしあのとき、明美に教室で話しかけられなければ始まらなかった恋。2人には2人なりの生き方で始めにも終わりでもあった。
授業が終わると学校の入り口に明美は待っていた。匠が「お待たせ!」と言うと、元気よく明美が答えた。匠が誘導して帰り支度を急ぐ、匠は夜は塾があるらしいので、明美と途中別れる。しかし、この日は何か胸騒ぎがして、匠は居ても立っても居られない状態になっていた。
仕方なく塾に着いてからも何だか胸騒ぎがあった。不思議なもので一瞬だった、帰り支度、急いでいる匠と別れた瞬間に乗用車の左折に明美は横断歩道を歩いていた。乗用車に乗って運転している人は明美に気が付かず明美の右腕に当たった!「痛い!」直ぐに降りてきた運転者は酷くやってしまったと言う面持ちで明美に話しかけていた。「大丈夫!」と、言った明美だったが念のために病院に行くと右腕を骨折していた。当たりどこれが悪く、不運な出来事だったが、病院で手当てを受ける明美から匠に連絡があった。塾を途中で飛び出し病院に駆けつけた!「大丈夫か?明美?」匠は言った。
「匠!わたしは大丈夫よ!ただ、右腕を骨折してしまって、明日は学校休むわ!」
明美は言った。
ギブスで右腕が不自由になった明美を家まで匠はオブって歩いた。
「酷く痛むのか?」首の右側に頭を出した、明美は「大丈夫!」と答えた。
「ごめん、匠。」明美は言った。
「なんで、あやまんだよ!」
匠が言った。
「塾、途中だったでしょ、わたし悪いことした?」
明美が言った。
「全然だ!大丈夫だから!!」
匠は言った。
「なに?」「いいの、ずっとこうしていたい。」
明美は匠にオブさったまま、涙を流していた。しばらく歩いて2人はなにも話さなかった。
暗黙の了解から匠を明美は思った。温かい背中は匠から伝わる。涙を流した思いや痛さもなくなっていた。不思議に2人の空間から伝わるもの。少し雑踏な街並みを過ぎ、信号で止まった。青信号になると、人が沢山、匠と明美を通り過ぎていった。
「不思議ね、こんなに人が沢山!みんなこの1人1人に家があって、家族があって、明るさや温かさがあるんだもん。」
明美は言った。
「お前もいんだろ!ここに!」
....ありがとう。...
16 大学2回生
9月頃には貯金が100万円を超えていた。秋に明美と温泉旅館に行かなければならない。琢磨の紹介である自動車ショップに顔を出した。個人的な店でネットなどで車を探してくれるらしい。店員は満面の笑顔で匠を迎え入れてくれた。「ええ、だいたいの予算はどのくらいですかね?」
店員は聞いた。
「70万円あたりでセダンの普通車があればいいのですが。」匠は言った。
「かしこまりました。では、全て保険付きで70万円を、目処にお探し致しましょう。」
店員は言った。
そのとき、コーヒーを飲みながら、商談は速くまとまり、あっと言う間に車種の話になった。匠は初めて買う車に少し浮かれ気味だったが''できるやつ”と思わされるくらい、匠は驚いた。琢磨も「やったじゃん、お前も俺のチームに入るか?」などふざけていた。
1週間の内に直ぐに店員さんから連絡があった。納車は来週金曜日らしい。色は赤、普通車のセダン!待ちに望んでいた車の生活が出来る。匠はウキウキしていた。
明美には直ぐに連絡し秋くらいには旅行出来るぞ!とメールを送っていた。
「赤いセダン。」
時には現実に救われることもある。時間や空想を思う辛さもあるが、現実的に生きると言うことはそれほどに残酷なものでもない。今しがた心に春が訪れたなら、陽気な気持ちになるが、冬が訪れると自然と閉鎖的になるものだ。
今、空想な目論見で闇の中にいる時に感じる現実感は実に自分を癒してくれる。筆を動かしているが、そこには過去にはない思い出とそうであって欲しい空想から来ている。きっと青春とはまさに空想の現実化にあるものでは。しかし、空想だけでもワクワクし良いのではないか。
17 大学の休みはやけに長い、長いから時間がある。匠と明美は温泉旅行の計画を立て始めた。今年の秋に旅行する。明美は専らやる気になっていた。まず、場所選びから始まり、旅館、を決めていく。一つ川が流れている温泉を見つけた。2人で川辺を歩いたり二泊三日の予定で旅館へ行く。
秋はまだ、学校がそれぞれあったが二泊三日の旅は充分学生の間は休みが取れる。
賑わっていた学園通りを通り明美が匠の大学に遊びに来た。琢磨に彼女を紹介したが、琢磨はとても嬉しそうな笑顔で!「あっ!明美ちゃんね!こいつ、車買うの、頑張っていたよ!いや、ほんとに。」
「そうですか!噂は聴いてますよ!琢磨さん!」明美は言った。
「なんか、ツーツーだな!明美ちゃんね、ゆっくりして帰んなよ。ココは良いところだし空気がいい、また、いいやつばっかりだ!任せとけ!俺もいいやつだぜ!」
琢磨は言った。
しばらく、2人でドライブでもしたかったせいか、配慮も琢磨から受け、2人きりでドライブをしに行った。
「匠!ありがとうね、ホントに、嬉かった。」
明美は言った。
赤のセダンは街並みを離れ、遠く海辺まで車を走らせた。隣にいる温もり、匠は嬉しかった。一途に1人の人を愛し1人の人と向き合うことが出来ていることに。何処にも2人の愛はある。例え遠距離の関係の中でも2人は繋がっている。隣にいる明美を見て匠はそう思った。真っ直ぐで純粋な匠には明美しかいなかった。沢山の先輩や、沢山の人に囲まれながら2人の距離を遠距離でありながら縮めて来た。もはや、匠には守るべき女性がいる。明美が。
交錯する中を走り続けていた。もう、夕暮れが過ぎ人がいないトンネルをいくつか通り抜けた。車にはナビが付いていて、海までは軽くあと10分と表示してある。明美と話をしながら走った。専門学校での友人のことや、先生のこと、昔話から世間話までたくさん、たくさん、明美は喉が枯れるまで話し続けた。その話に沿うように匠もきっちりと受け止めて、自らの話もした。お互いがもう、話すことはないくらい。すると、軽くなり、また、天誅に沿う空間になった。嬉しさの最高潮までこころの底の底まで話し合った。
海辺に着いた時にはもう、外は暗く染まっていた。人を信じること、信念の強さが2人にはある。それは純粋だから尚更のこと。
車が海の海岸線まで来たとき、匠は車を止めた。2人で海岸沿いを歩き海が見えるところまで歩いて行った。波は静かな畝りをあげ、沖の方で釣船が見えた。「明るく光ってるね!」
匠は言った。
「いつか!あの島に行ってみたいな!」
明美は言った。
「あの島は船がないと難しいところだよ!」
匠は言った。
砂浜に2人は座る。匠は明美の手を握っていた。肩を寄せ合い波がザーッと物悲しげな音を立てていた。
次の瞬間に明美から匠にキスをした。
波は大きく離れまた、押し寄せる。さざ波があちらこちらで浮かんでいた。しばらく、沈黙が続いていたが、2人には関係のないことだった。
18 高校生活2
雨の中を濡れながら走っていた。匠は塾に向かう時にチラッと後ろを見た。雨宿りかお爺さん、お婆さんの夫婦か?こちらを覗いていた。とっさに匠はその老夫婦に傘を手渡していた。雨の中、猛烈に走るせいか、ずぶ濡れだった。そのまま、塾に飛び込んだが、カバンもびしょ濡れでタオルで身体を拭いた。「チキショウ!カバンも何もかもずぶ濡れだ!」
しばらく暖房の前で服を乾かし、講義の始まる時間まで待った。1時間しかない英語の講義だったがずぶ濡れのまま、講義を受けた。帰り際、老夫婦が傘をさして笑顔で帰って行くのを見て良かったと思った。
匠はずぶ濡れのまま、家に走って帰って行った。
クリスマスイブを目前に高校2年を迎えていた。何かプレゼントを買わなければと思いながら季節は師走を迎えていた。慌ただしく学校と塾で時間が過ぎていった。特に明美とクリスマスイブを過ごすことも計画を立てていなかった。明美とは会ってはいたが、特にイブは予定がないとも言っていたので!駅の裏通りでイルミネーションを観に行った。
明美は直ぐに良いよと言ってくれた。
1年の終わりどき、一つの鐘が鳴った。
今年もそろそろ終わりを告げている。明美と付き合って2年間、浮気のこころなど、匠はこれっぽっちも思わなかった。ただ、明美が愛しくて嬉かった。
高校生だけど青春は3年間大事にする匠と明美。
待ち合わせは駅前の中華料理屋だった街角にあり、喫煙所ではサラリーマン達が寒さに怯えながらタバコを吸っていた。明美は待ち合わせの10分前にはそこに居た。首にはマフラーを巻き、大きめなコートを羽織り、温かそうな手袋を着けて待っていた。匠が近くに行くと、大きく手を振っていた。「ここよ!」と言わんばかりに手を振っていると匠は周りをその時見たが周りの気の大きいおばさんや、おじさんがニッコリとこちらを見ずに「素晴らしいね!!」と笑っていた。匠はその気持ちが有り難く、内面は幸せで満ち溢れていった。
中華料理屋を境にして前に横断歩道がある、そして、駅前をグルリとロータリーがありその真ん中は噴水になっている。噴水の周りがライトでキラキラ光って人工的と自然とがもたらすコンフィフラストがあった。ゆっくりイルミネーションを観ながら2人は歩いて行った。熊をモチーフにしたイルミネーションや、列車をイメージしたイルミネーションがあった。明美は飛び跳ねて喜んだ。
こんなとき女の子は子供に戻るのだろう。それを受け止めてあげる匠だった。「わあー凄い!あっち、行ってみよ!!」と明美は言い、匠は手を引っ張られるばかりだった。
駅前のあちらこちらでイルミネーションはやっているようだった。噴水から離れて歩いてみると一面花畑のイルミネーションで真ん中にベンチがあった。2人で座るくらいの大きさだったので匠と明美は座ってみた。
「これ!!」匠は明美にクリスマスプレゼントを渡した。
「あたしも!!」と明美も渡す。
こんな、幸せなイブは匠と明美は初めてだった。何もかも失ってもいい。そばに君がいればと匠はその時、思った。
しばらくベンチで2人は座っていた。明美の右手の手袋を上から匠は左手で握りしめた。
19 ふと、出会った瞬間に
出会いの数だけ人生の種が植え付けられる。人はどうしても穴埋めをしたい後悔があるものだ。楽しかった時期を忘れて僅かばかりの不運を恨んだりする。でも今を生きるそんなことは今しがた必要はない。空想的な価値観と現実感さえあれば運も実力の内なのだ。人は幻想と現実を一致させたとき自分を知る。今、自分がいるこの状況を一つのシチュエーションに置き変えて生きている。耽楽な立場でも成長ができ、また苦しい時にこそ本来の意味がある。分かると頭で思っていても体は上手い具合に動きやしない。価値観と倫理が備わっていれば、決してシチュエーションと実践をすることで、実地は裏切らない。努力が報われるとき結果はなくても無駄にはなっていない。
何かにしがみ付き、何かに縋る、この思いを越えた瞬間からきっと、幸せの跡を前に出させている。正にそれが実行だ。実行を成したとき、失敗か成功の結果を得る。人生は正にその結果が多い人間に人間性を与える。若いときに苦労するのはそのせいだ。若いときに萎縮した人生をしてはならない。納得してもいけない。飛び込み、挑戦する。負けじと何度挫けても挑戦する。その全てが記憶され三十代、四十代を作り上げるのだ。どんなことでも、行った結果は経験であり人を大きくする。間違えても何もしないとは異なる。
20 温泉旅行1日目〜2日目
明美は大きく地図を広げた、「さあ!出発するわよ!出来る限り安全運転でお願いね!」
明美は言った。匠もハイハイと言いたそうに頭を下げた。目的地はこの街から300キロ離れたところの山奥だった。観光名所がいくつかあり、旅行にはうってつけの場所だった。
旅館は前もって明美が予約をしていた。2人の意見と同じように川が流れている旅館を探した。二泊三日になるが、両方とも、旅館に泊まる予定だ。
車を走らせている匠だったが運転は荒くない。お決まりの運動神経で山の道も容易いという具合だ。車を走らせて、1時間くらい経ったのを見計らって高速に乗った。残り250キロとところか、山々が連なり街の風景も次第に自然が多くなっていった。川を伝い橋が建っている架橋を走り、また休憩を取りながらの運転になった。学校はお互い休みを取り、明美は特にはしゃいでいた。紅葉の綺麗な山々を眺め、季節は丁度秋の後半を迎えていた。このために、死ぬ思いで働いてきた匠もウキウキうかれていた。
明美は水筒にお茶を入れていた。「飲む?」とお茶を匠に飲ませた。
旅館に行く前にいくつかのパーキングがある。止まりながら缶コーヒーを飲んだり店に買い出しもしに寄った。
「綺麗な紅葉ね!」明美は言った。
「前から山肌が露骨に迫ってくる感じだよ。コーヒーも飲んだし眠くもないしね!」
匠は言った。
「そうね。こんなに山々に囲まれたのってわたし、初めてかも。」
明美は言った。
しばらく家政科の専門学校も街の中心部にあったせいか、あまり山々に囲まれた経験が明美にはなかった。平地に住み、角度さえもない単純な街に住んでいたせいでもある。
ハイビューは何処までも広がっていた。
高速に乗って2時間、観光地に着いたときには時刻は12時を指していた。
「何処かで昼食とろう!」高速を降りた地点から温泉街の湯気の煙が出ていた。
もう少し走り、椀子そばの有名な店で食事を取ることにした。旅館までは15時からチェックインがオーケーなので、少し観光をしようと2人は思っていた。
戸を開けると、昼のせいか、沢山の観光客が店の中にいた。淡々とガラス張りの中で蕎麦を打つ職人が蕎麦粉を打っていた。「凄いね!匠!あーやって打つんだね!」
明美は言った。
「手際よく打ってるつもりなんだけど、隙がないのも職人ね!」明美は言った。
食べるまで少しの時間を待ったが、椀子そばを注文すると亭主は元気よく答えてくれた。
12時過ぎには昼食を取り、想像神宮をお参りに行った。何でも想像力は元々、人間に起因する原点らしく、聳え立つ鳥居は正に圧巻だった。神宮の門の前で受付をすませ、本殿に2人は入って行った。数多くの人々がお参りした形跡があり、とても有名で著名な神宮だった。
大勢の人で本殿の方はごった返していたが、お賽銭にお布施を入れ手を合わせて祈った。
本殿の中は古風な作りになっていて、ユニークな絵柄が沢山飾ってあった。さすがに想像神宮と呼ばれるだけあり、神宮でもオリジナリティーを出していた。明美はちらりと右側でお祈りをしている匠がいったい何を祈っているのか、気になったが、無事にこの旅行が事故もなく安全にいきますように、と明美は祈っていた。
匠が視線を感じ明美の方を見ると明美は一生懸命に匠の目を気にしながら祈る姿が見えた。
本殿を散策した後、帰り際に鳥居がある前でしっかり神宮に向かって、2人はありがとうございました。と深く頭を下げた。
時間は15時を回り、旅館にチェックインするために車を走らせた。湯気が立つ町並みに、何かホッとすることを覚え、旅館に向かった。
旅館の庭は竹林が有名で、日本庭園など、奥ゆかしい光景になっていた。川が旅館の目の前で流れ部屋の前はガラス張りになっており、川や岩肌が見えるようになっていた。
旅館まで着いた2人は入り口でチェックインをし、部屋へ向かった。座敷になっていて、冷蔵庫にはお酒とジュースがあり、お茶を沸かすポットと茶番、急須があった。
夕方に日が落ちていく瞬間に光が窓辺からさしていた。「なんて、落ち着くところだろうか。」感嘆としている匠だったがお茶を飲み込んだ。「いいところね!」明美は言った。
窓辺から見える夕陽の灯りが匠と明美を暖かく包み込んでいった。
しばらく、2人は部屋でゆっくりしていた。
食事が18時に出来ることを知ってそれまでに、温泉に入ることにした。竹を意識したモチーフに効能は疲れを意味していた温泉に浸かり、2人別々の疲れを癒していった。
明美はよく、スーパー銭湯に行く。街の何かしら銭湯に1人で行っては寛いで帰っていた。若いのにおじさんのような行動を、取ることがある。いろんな出来事に匠も疲れを癒していた。しばらく、湯船に浸かっていると頭に乗せたタオルごと湯船な頭から入った。ブクブク、と頭まで浸かっては目を覚まし湯船から出ては腰掛けに座りウトウトしていた。
めまぐるしく動く時代に付いていきながら、全てを癒してくれる温泉にやっと浸かることが出来た。明美との付き合いは高校1年生から大学2回生まで5年間。大学に経験なくしては、社会人にはなれない。匠はその誰かが言った言葉が今、胸を高鳴らせた。
2人には冷めていく恋愛ではない。お互いがお互いを尊重しながらも前に進む恋だった。お互い思いやりに深いものがあり匠は明美のために、明美は匠のために、接してきた。2人の呼吸は合っていた。
湯船から出た明美は旅館のロッジで匠を待っていた。匠は湯船には浸かっては頭まで、潜り、湯船から出ては腰掛けに座っていた。繰り返す内にロッジに待たせている明美のことも知らず腰掛けで眠っていた。
明美がロッジに待っても匠は来ないので、1人部屋に戻りお茶を飲んでいた。匠がウトウトして1時間、ふと気がつくとここはどこと焦りながら周囲を見渡したが、そのまま湯船から上がり部屋まで戻っで言った。
明美はジュースを飲みながらテレビを観ていた。違う地方の民放にニュース、CMと不思議と笑ったりと楽しんでいる。匠は浴衣に着替えてコーヒー牛乳を一気に飲んだ。
「何時から食事だったっけ?」
明美は聞いた。
「多分、18時だよ!もうこんな時間か?」
匠は言った。匠の腕時計には18時12分を指していた。「食事に行こっか?」明美は言った。
「そうだね。」匠は返す。
旅館のロッジに招かれて、食堂へ入った。座敷が敷いてある場所で区切りがあり、充分な空間に豪勢な料理が並べられていた。周りの人の声は微かに聞いえるがまだ、のんびりと2人は対面沿いで話していた。「凄い!さすが老舗旅館!」明美は言った。
「明美は馬刺し好きだったっけ?」匠は言った。
「ええ!もちろん。」明美は言った。
「僕のあげるよ!僕は苦手なんだ。」
匠は言った。
「ええ!いいの!全くの草食男子ねあなた!」
匠は黙っていた。
お魚料理や煮物、刺身に鍋、海山川、惣菜料理のすべての種類が置いてあるようだった!
「ビールでいい?」明美は言った。
「あ!ありがとう!」匠は言った。
嬉しそうに、「今日は浴びるほど飲むぞ!!」匠は気合いを入れる。
「そんな、気合い入れなくても!」
明美は言った。
匠は料理を、肴に日本酒で勝負している。
「酒は飲んでも呑まれるなよ!」
明美の注意に気にも止めず、日本酒を勢いよく飲んでいる。
明美にもお猪口を渡した、明美もお酒は強い方だ。成人しての2人には酒の怖さをまだ知らない年だ。20歳から飲めるが20歳で飲み納めたものも大したものだ。明美も自然に酔い、顔がポッと赤くなっている。日本酒を飲む日本女子は色っぽい。
2人で杯を交わし、陽気に飲んでいる。如何にも未成年が飲んでいるみたいな光景だ。どんちゃん騒ぎも杯は交わすは、結構めちゃくちゃな飲み方だった。2時間くらい飲んでいると明美は「もう!頭廻ってる!匠ももっと飲みなさいよ!男でしょ!」
と匠に進める。
「さあ〜港町だからね〜?」
完全に酔っていた。
「匠!!ここは旅館よ!あー頭が痛くなってきたわ、わたし、港町から発信してるんでしょ、その電波?」
明美は脆くろにも言った。
「ヨシ!匠!部屋に帰るわよ、わたしは寝るは!おんぶ!!」
明美は言った。
「あー、部屋まで辿り着くかな?」
匠は言った。
明美は匠におぶさりながら、肩の方で「スースー」寝息を立てていた。あっちフラフラ、こっちフラフラと廊下を右へ左へとおぶって部屋に入った。
食事から帰ってみると、部屋はテーブルや座椅子は片隅に置かれ、布団が敷き詰めていた。
明美を布団に入れたところ、両手を匠の首に回し、ワガママだらけの明美に躊躇いながらも、一つの布団で呑まれた2人は眠っていった。
朝、起きるとなんか寒いと匠は思った。
うわ布団を明美に取られて眠っていた。「明美!寒いよ!」と言いながら、顔を洗いに行った。明美は2日酔いなのか、頭が痛いともう一度寝入った。匠は正直、今後の結婚生活が思いやられるな、と思った。
明美が起きた頃、ロッジに向かうとガラス窓から梅雨が入って旅館の寒さを感じた。
朝食を食べ、出発する準備が整うと、
「さあ!行きましょ!」2人は手を合わせた。
「えーと、2日目の予定はどうしよっか?匠?行きたいところはある?」
明美は言った。
「山の奥の美術館ってのはどうだ?」
匠は言った。
「じゃ、そこ行きましょ!」
明美は言った。
車に乗り、運転をし始めた。ナビで場所を設定しながら、ナビに任せて運転することにした。寒空の中霧が立ち込める湯気の町が通り過ぎていく。明美はずっと後ろを観ていた。
目に焼き付けているつもりだ。「どうした?」
匠は言った。
「いいえ、別に!」
明美は言った。
山の奥の美術館と次の旅館とは近い場所にあり、コースとしては何分ない。音楽を聴きながら、走り続けた。
21 後悔したくない、毎日なんてやってきやしない。必ず朝が来ると前の日の永遠の苦しみはなくなる。いわゆるリセットされるのだ。
幸せに見える2人には存分に楽しめる。何処かで待ち望んでいる人もある。これ以上幸せな思いはもうないかもしれないと不安になるものだ。今生きていることさえ、喜べない人はそこら中に沢山いた。でも、理想が現実になるとき、生きていて良かったと後悔の穴埋めとこれからの幸せな生活を考えるものだ。息をしたくてするもんじゃない、自然と人間の中は心臓が動き全身に血液を送り、呼吸している。きっと生活空間に幸せな異次元空間が出来たなら、それはあなたが、幸せの鍵を開けたようなもの。
誰しもが訪れる一期一会には宝物が沢山だ。
身を引いている人や、引っ張っている人も運勢の中では必然に起こるシンクロニシティもある。きっと誰もがその一緒の出来事に永遠を感じる。そして、それを感じることが出来たならあなたは不幸ではない。そして何よりも不幸なことはそれを素直に喜べないこころだ。何度も生活していく内に小さな出来事がある。しかし、小さな喜びを喜べたなら、人生はあなたのものだ。喜びからくる幸せ、小さな喜びを掻き集めよう。1人じゃない2人でもない何十億人がいる。忘れてはいけないような気がした。あの幼い思い出から出発したことを、現実の辛さに産まれたての赤ちゃんは泣く。この世界に出て生きたくないのに、出ていくことが怖く泣くのだ。現実は正に生き地獄。周りを見ても泣き、親しい人を見てはなく。赤ちゃんはそれを物語っている。ただ、唯一の救いとはその、赤ちゃんには親がいることだ。どんな人でも親がある限り子供は産まれる。凶悪な犯罪者がもし世界中の者に敵だと思われても、親はその犯罪者を許し、味方だというのだ。
親に叶う者はいない。
22 温泉旅行2日目〜3日目
美術館に着いた頃には11時を回っていた。チケットを受け付けで買い、中に入った。あらゆる絵画が展示室に展示していた。風景画や人物画、油絵、匠は小さな頃は田舎で育ち、牧場や畑の中で生活していた。青空ばかり見てはあの雲はどうして黙々と壮大に広がっているのだろうか?など感性を穏便に使う匠だ。絵画も好きだし想像する絵には暖かな画家の想いや、彫刻家の想いが伝わってくるのだった。
明美はどちらかというと知的だったが、絵画にも興味があった。
匠が目を奪われた作品が一つあった。ある田舎で走る蒸気機関車だ。夕日をバックに鉄橋を川を挟んで走る蒸気機関車の絵だった。何かお爺さんとの懐かしい思い出が蘇ってくるらしく、魅入っていた。
明美と趣味を共用できることも嬉しかったが絵画と言う人間的な部分が懐かしく思え、さらに幸せになれた。羊飼いの絵や、子供たちが走り回る日本古風な絵、草原に一軒の家があり、草木で飛び回る天使たちの絵が沢山あった。
明美は魅入っている匠を見ながら、絵画を観た。そっと寄り添う、明美を匠が見たとき、ありがとう、とこころで叫んだ。
美術館の出口をでると、光が差して、明美は「わあー!いい、お天気!」と一歩、両手を伸ばし飛び出した。周りの観覧車は驚いていたが、明美は気にするようにもなかった。
匠の左手を取りながら手を前後にして歩いていく。
昼の時間を迎え、美術館のそばにある、食堂でカツカレーを2人は食べた。
2日目の旅館も川が流れている旅館に決めていた。温泉地に行くにしたがってだんだん、景色は地味になっていく。古びた店や雑貨屋やおもちゃ屋、昔ながらの匂いが漂ってくる。レトロな感じの建物や銭湯の煙突から煙が出ていた。
温泉地であって、浴衣で今夜は川辺や店を歩いて行こう!と匠と明美は決めていた。
今回の旅館は豪華な造りになっていた。修学旅行の泊まる旅館であり、CMでも放送されている旅館だった。昨日飲み過ぎたせいか、お酒はお互い飲まなかった。
チェックインは16時だった。美術館から少し離れたところに店が連なりお土産を売っていたので、人にあげるので、明美は沢山、お土産を買った。匠も先輩にと知るキャラクターのキーホルダーとジャリジャリした肩もみき機を買っていた。「あんた!それ、何に使うの?」明美は半分馬鹿にしたように匠に言った。
「竹で出来ていてさ!丈夫そうだし、琢磨先輩にあげようかと!」
匠は言った。
「ちょっと貸して!それ、どうやって使うの?」明美は言った。
「右手で持って、左肩をトントン!左手で持って右肩をトントンさ!」
匠は真面目そうに言った。
「あ!いい感じね!これ、」明美は言った。
「そろそろ、旅館に行こうか?」
匠は言った。
「そうね!もうそんな時間?」
明美は言った。
「ああ!」
匠は答えた。
2人歩いて旅館に行く。途中、古びた店を通りながら手を繋いで歩く。ある程度歩いていると旅館が壮大に立っていて、その前に川が流れ、波の音が響いていた。辺りは夕暮れに山々の偉大さを覚えながら旅館へ向かって歩いて行く。観光バスや修学旅行生かはしゃいでいる中学生やカップル、高校生も2人で歩いていた。旅館に入ると中居さんが着物で出迎えてくれ、男の人が「お疲れ様でした。手荷物をお持ちいたしましょう。」と部屋まで案内してくれた。ドアを開ける和風な匂いがして、落ち着く。館内の説明を中居さんから受けて、温泉の種類が多く温泉の規模も大きいことを知らされた。感じの良い中居さんで、最後まで丁寧だった。
景色がだんだんと薄暗くなる、18時頃から川辺を2人で歩いた。明美の左手を握りながら、浴衣のまま、薄暗いネオンに揺られれながら、歩いていった。「匠!本当にありがとう!」
明美は言った。
「我が人生に一変の悔いなし!!」右腕を天に掲げながら、明美を見た。
浴衣を纏いながら座っている明美、丁度明美が左下に見えるくらいで石ころを触っていた。
匠にとっての全ての思いがここにあった。
「悔いはなし。」果たされた理想と現実が絡み合う。もはや死んでもいい!そんな気にさせた。これまで、勉強や学校生活、アルバイトやサークル、沢山いろんなことを、やって来たがここまで、幸せに感じられる一瞬はなかった。
匠は右目に涙が流れていたが、明美に見せたくないと首を振った。分かり合えた2人、もう、2人には完全であることが言える。時間をも超越し失うものなどお互いなにもなかった。
夕食を食べ、2人は眠った。
明日は帰らなければならない。
23 キャンパスライフの終わり
大学生活も終わり始めた。沢山の思い出と大学生活の経験が匠をたくましくさせている。
明美は家政科の専門学校を卒業して、匠のアパートに引っ越して来ている。裁縫の職に就きながら、家事をしている。
匠が学校を卒業して、社会人になったら、2人は結婚することに決めた。
4月になり、春風が舞うような心地よい日に、チャペルに美しいドレス姿の明美が父親の右腕を取りながら歩いて来る。
結婚 おめでとう!!
©️2017年9月15日
石下弘二実
大学生
大学生で思っていたことを、合わせながら、書きました。