初夏

恋愛小説です

1 梅雨が過ぎて、不思議に晴れ渡る空が明るく入道雲が連ねた海辺を見ながらこれから来る運勢を何処か

初夏

1 梅雨が過ぎて、不思議に晴れ渡る空が明るく入道雲が連ねた海辺を見ながらこれから来る運勢を何処かに臨んだ1日だった。まるで一呼吸を置き車の車窓から見える新しい世界観に数学の何やら哲学に酔いしれていた時間だった。
不思議と楓は暑くなる日差しに香水や日焼け止めの匂いに軽くあざやかな景色と香りに佇んでいた。明日から仕事に入ることが出来るんじゃないかと思い込み楓が思う正に気が晴天の初夏に見舞われた時間だった。愛することへの不信感に苛まれたのは今だけではなかった。投薬治療において、思い込みの激しい楓はいつしか自分を許すことの出来ないくらいに病んでいった。それが分からず途方もないくらい、そらを見上げるたびに自信を喪失し自分を許せなくなっていた。
暗闇のなか、抱いてもらう男性も露骨に迫害の目で見るようになった。忘れても忘れることが出来ない物悲しい感情を相手にぶつけながらも毎日の日々に時間を退屈で無駄にしてきたのだった。また、繰り返した日々から逃れるため、この田舎の片隅に縋り付いた。キャリアウーマンからの都会生活から暖かな癒しを求めて海岸沿いの片隅で生活を始めた。最近世の中の風潮か都会から離れ自然の悠長な暮らしに暮らす人々がいることからもあってだ。
近所の人達も却って気にはしない、あらゆる雑踏から離れまた、落ち着いて生活出来る空間だ。初夏に思い付く車の助手席で何やら都会生活から忘れていた大切なことを思い出しつつある。罫書きでない心模様を幼い頃の懐かしさと連動させ、こころのゆとりを取り戻そうとしている。
単線は1時間に一本といえず、初夏の兆しから梅雨の日々に雨のために憂鬱になることや晴れ渡ると暑いといった自然現象と共に生きている自分が嬉しかった。太陽は海岸線から昇り、山の奥深くに沈んでいく素晴らしい環境だ。「何を考えている?」とっさに痺れるような言葉が右隣から聴こえてくる。呆れたように「なにも」と楓は言った。非現実な暮らしの中では身受けられなかった有意義な生活からくる言葉だ。田舎では田舎の生活感があり人付き合いからくるストレスからもこの海岸線の町では夜には人っ子一人いないので自由に会話を楽しんだり余計なことも言えた。何もかも満たされている生活ではないが、貯蓄もあり日々に3ヶ月くらいの金銭的な余裕があるほとだった。険しい喧騒から自重するわけでもなく、全てに嫌気が刺し憤りを覚えることもなかった。


2 幼い頃は間に愛を覚えることが沢山あったせいか、その罪に駆られ自由な思想から重い彷徨い挙句の果てには街の喧騒から病気にもなっていった。毎日に失われつつある穢れのせいから自分を見失いまた、人を傷付けていった。楓は傷付けた人に謝罪や迷惑料も払わず、自由な生活をしてきたのだ。そのせいかあまり、人から良く思われたことがない。キレのある美貌には男たちは”口説く''準備を始める瞬間が楓にはみてとれ内面では「見ないで」と痛切に叫んでいた。自らの醜さに駆られまた、傷付けていく楓にはなにかしら物悲しさと冷たさが表情にでていた。
不吉にも見える運から離れたいと思いたった時から一週間、この浜辺の田舎町で暮らすようになった。見れば大量に採った魚を譲ってくれる漁師さんとも仲良くなっていた。
風が車窓から入ってくると、勉(つとむ)が言った。「何かしら冷蔵庫に、食べるものが残っているよ、ビールどうだい?」冷蔵庫で冷やしたビールを楓(かえで)に持って行くともう一本の缶ビールを開けた。
楓はありがとうと言い、缶ビールを空きっ腹の胃の中に流し込んだ。暑い午後からだんだんと夕暮れが迫っている。楓はこんな夕日を見るのが好きだった、なんというか切なくて物悲しいこの夕暮れは秋生まれもあったせいか、やたらと気持ちを落ち着かせた。芸術家は皮肉なその人生において人とは違う才能を持って産まれたせいか、あまり人と同じレールが息苦しくも映る。しかし世界はその人を中心に動いている訳でもなく、卑屈な人生感から生まれるエゴみたいな価値観を世に知らしめ自らの行いを反省せず逆手をとって示した人間が世の中を上手くいきる。楓はこんな物悲しい夕日を見ながらまた、深呼吸して生きていける、ある意味超人なのかもしれない。親からも身内からも世間から疎外された才能はいつしか開花し現実になることを夢見ていた。悪い気はしなかった才能に愛想笑いをして、ビールを体に染み込ませ、世が吹ける今夜を共にしていた。

3 世界中の中で誰かわたしを思ってくれている人は果たしているのだろうか?しっかり者でありまた、なまけ者の中でわたしの心情を心から理解してくれる異性はいるのだろうか?嘆いていつか巡り会える赤い”糸”みたいなロマンスを何処かで求めることで自分のせいにせず人や成り行きや環境のせいにした。
きっとこんな気持ちになることが30を過ぎて独身の女性に刃をむけるようになっていた。誰もが快楽を求め続けて生きているのに正直なはなし、そのような粗末な行動は取るまいと30近くまで生きてきた。しかし、世間から見るとただの一人の女性であり、誰もそんな楓をどうこうと気にすることもなかった。情熱な思いから芸術性の開花にある自分自身をまた、たった一人の人間でありそれしかないのだと結論付けた。才能がそんな楓をいつしか気付かない内に病魔はそんな楓を許そうとはしなかった。粋がりまた、プライドで本音を覆った精神はもはや、ボロボロで赤い”糸”と思いからもハサミで切れ、やれない自分を酒で誤魔化す毎日だった。勉とは年下の男で束縛せず自由にしてくれる存在だった。3ヶ月の時間をゆっくり休むことを望み、この町にきた。
太陽が海の地平線から姿を消そうとしたとき、黄金色に輝く夕日がとても綺麗に見れ、魅了され、癒された。世の中、少しの人生へのご褒美と癒されていく。呼吸が鼓動と一緒に動く。「そろそろ日が暮れるな」「太陽って不思議ね。いつの日も照らしてきたんでしょ!環境や雨のぐずついた天気以外は、ああやっていつも地平線に姿を消すんだもん」
朝日が昇り、昼を過ごし、地平線に消えていく太陽。物静かな景色に安堵が溢れた。「こんなに綺麗な夕日、本当に久しぶりだわ。小さい頃は夕暮れはそんなに美しいとは思わなかったのに。」沢山の人たちが夕日に思いを託したのだろう。夕日に夜景に全てが自然現象と思える光景を誰もが忘れていた。生きても死んでいても夕日は繰り返し沈み、やがてまた、朝に昇ってくるのだ。辛さや憎しみ、嫉妬など憎悪の気持ちでイライラしている人が沢山いるが、少なくとも楓の目の前で起こる現象はとても嬉しく思えた。地球上にはあらゆる人種の人々が生きている、しかし、このような光景を見られること事態がなんとも溢れ出る感情が起きるか、人はありのままで愛されている、その言葉が如実に楓の内部を幸福に埋めていった。
長年の内面の傷口から血がドロドロと流れていてもこの夕日だけは明らかに傷跡を忘れさせ安堵し、もう大丈夫だと言われているような気持ちにさせられた。
右手にはクシャクシャになった台本を持ち演技した役者のようにわたしが今の地球上で主役のように思う瞬間だった。幸福な人生を誰もが生きようとして生き疲れて忘れたのだ。あるいは忘れていることさえ気付いていなかった。誰もがその人生を各々生きていく。映画やドラマのような人生だ。スクリーンに映されるのは自分、自分が俳優や女優になり一日一歩進めていくのだ。他人に何を言われようともスクリーンに映る鏡のようなわたしは明らかにわたしでありわたしではなかった。意識が朦朧とし、5本目の缶ビールを飲み干したあとには何やら楓は薄み笑みを浮かべていた。運も努力なしでは報われない。自分を投影し映画は形作られる。真新しいものや懐かしいもの、持っていものや、失って気付くもの。酔っ払ったせいか頭の中がグルグル回る中で笑みを浮かべていた。

4 教会に行くのが日課だった南(みなみ)もふと聖職者気分も打ち解けず世間の悪しきことへの正義感と犯してはならぬ罪を償うために毎日を祈りで費やしていた。南には幼い頃に亡くした親友がいたが、その人生も背負いまた、両親も信仰に熱心だったたがゆえ、入信した。悪いことは一切口にせず愚かに見えた自分の罪と傷口を塞ぐ為いわば祈りが現実逃避だった。
思いが思いのままにいけば人は苦労はしないが努力していくことへの能力と運はもはや現実的に性格を変えるくらいに難しいのだ。
そこまでやる必要がないと限界を越えた戦いをこころの中で展開し世襲に紛れるたびに噛み締めた精神はもはや仏だった。
「グスン」まただ、「集中、集中」自分に言い聞かせまた、祈りに没頭した。没頭するたびに苦しめていた内面の鎖から解き放たれ自由になることが何度もあった。しかし、南は間違っていることはしていない分、人への愛情とは常に身に控えていた。信仰的で世俗から離れた南にとって祈りは救いだった。
身構えた自分を理解してくれる人はあまりおらず却って悪口を言われるほどだった。「さて」と起きあがったマザーからの訓示は「さあ、皆さん、ご静粛に!」ハッとさせられた女性祝者たちは一斉に掃除に取り掛かった。南も齷齪しながらみんなと一緒に道具箱から箒とちりとりを取り出した。汚れて黒ずんでいるところは硬く絞った雑巾で4.5回擦れば綺麗に出来た。窓を拭くもの、床の雑巾がけをするもの、アンティークのほこりをハタキではたくもの、それぞれがやりくりし一斉に掃除に励んでいた。マザーは後ろに手を回し厳しく掃除の内容をチェックしていく。南は途中雑巾がけに切り替えて床を縦に横に拭いていった。
数10分の間に床やトイレ窓やアンティークがピカピカになった。大学3回生の南は修道的なこの学校で寮暮らしをする21歳の女性だ。以前は高校からそのまま直に大学までエスカレーター方式で進学出来るこの学校に興味をもち、高校から寮生活をしていた。規律は厳しく19時までの門限に帰ってこれない場合は成人をしていようと夕飯、朝食を抜かれた。1日は30分の清掃から始まり、授業を受ける敷地内の講義室へ神学の勉強をしにいく。21歳の南は若い時期を厳しい戒律で過ごさなければならなかった。若くして男性にも目も暮れず信仰生活に没頭する有様から脱出したいと思うこともなく、ただ、与えら訓示をこなす毎日だった。この学校のトップには歴とした神学を学んだ聖職者と経験豊かな人たちがいた。取り仕切る学校の戒律から離脱するためには思いをそのまま裏切り行為とみなされたため、戒律に従うしかなかった。 また、神学とは聖書を重んじていくばかりかの実践も行われた。悪気がないと忠告される訳でもなく、ただ、没頭する祈りと従う戒律漬けの毎日から身に清楚さも出ていた。オーラというものが内面から溢れ出て人を癒す手はまさに神の手と言わんばかりの純情さがあった。身を犠牲にし相手のためには尽くす精神こそがより快楽からくる苦しみを遠ざける、と訓示にもあった。マザーの訓示で疑問に思えることが南にもあったが真正直な性格から難解で分からないことも南は受け入れていた。人間は蝉同然だと、地面に蛹になり眠っていることが長年続き地上に出てくる期間は子孫を残すため一週間しか飛び立つことが出来ないのだと、それが人間と同じだとマザーは言っていた。つまりは人間も眠りが長く冴えてこの地上で過ごす一生もまた、短い期間であの世で永遠に羽根を伸ばすことができるのだと。修道女には在り来たりな訓示がそこにはあったが南はあまり良く理解していなかった。同じように働いた人と修道女的に生活する人もなんら変わりの無い人間であり、そこにはいくさじの不平等は、神は与えないと信じていたからだ。
ありのままの自由な南なりの発想があったと同時に成果があった。高校へ進学しエスカレーター式に大学に上りつめた南は南なりの考え方がある。人への憧れや豊満さを恋愛や世俗層の現れが南にも洗脳されず残ってあり、異性に抱く想いもまた、神様から与えられた訓示なのだと自負していた。
まず、お互いのことを理解する為には自分を知らなければならない。正しく生き、それなりに与えられた人と結婚しそして子供を宿す、それが南にとってとても大事なことであり、最も過酷な人生になることを知っていた証であったからだ。このような解釈は信仰の熱いマザーにはタブーとされた。訓示にも明らかに修道女的にも皆無に等しかったからだ。そのこころの内情を打ち明けられず戒律を生き訓示を守る南にとっても涙ぐましい事実だった。その事実を受け入れながらも遠い人への憧れを求めていた。赤い糸、「きっと誰もが蝉のように地上に生まれ落ちた意味とは熱い信仰心と赤い糸を手繰り寄せる訓練なんだわ。」そのような想いを口に出した瞬間にはマザーの平手打ちがくることを知っていた。しかし、修道女でも憧れを持つ美少女は明らかに身体中に溢れ出すエネルギーに嘘を付くことは出来なかった。教会にはなにやら歪な暗闇がある、その隙間を分かる美少女には美少女らしいあるがままの気持ちがそこには存在した。


5 「歴史を紐解く何やらの答えがもし、人にあるとしたら、それは確かね。」無骨な思いに駆られ淫らな人生を生きる人たちを嫌い怪訝な目で正義感を装うなら生きていく人生も愚直にも無駄にしてしまうもの。南にも芽生え始めている確かなオーラと共にこの世で成せないことは何一つないとタカをくくっていた。忘れては伸ばし憧れがあるためかその姿の光景は聖職者には見えない華奢な女の子があった。抱えられる罪をオーバーしたとき必ず限界を超えることをくるときもある。見出せず思いも寄らない現実は人を苦しめまた、内面をクタクタにさせる。
しかし南には生きる希望もありお茶の間でテレビを見ているお茶目な自分もいるのだ。経験とは慣れであり辛い一面も慣れとして受け止め生きていくのが人間でありその根本的な概念を複雑に人が思うときそれは人間の成長への助長であり苦しみの始まりである。我が身で心血で経験した人は必ずその代価は成長感や満足感で必ずしも支払われるのだ。イザコザがあるとき、イザコザをイザコザと思わず悩まず生きていけたならこの世には一切の苦しみはなくなるだろう。
南が目を覚ましたのは午前3時の朝方だった。祈りや神学を学びながらの生活は南を疲れさせていた。21歳の美貌が肌から滲み出ている。若い故に南には本当に辛い時期があった。多感である少女時代と青春時代と成人時代を祈りと戒律、そして訓示で生きていくしか出来なかったからだ。人が学校から帰って遊ぶ無邪気な子供時代を自らに戒めまた、生活する術は並大抵の辛抱ではなかった。そんなヒヨッコな過ちを行わず生きてきた存在にはいつしか霊的な力が身につくようになっていった。自分を押し殺し生きてきた証には代償として霊的なエネルギーを爆発的に増やした学生時代だった。周りからはあざとい目では見られ決して幸せに思える時代ではなかったが却って南を強くしまた、成長させた。
そんな南にとって悲しみが多かった。付き合う中で男女が見あった交際を続けていく多感な時期を恋愛のレの字も分からず、人に隠し、純情を貫いてきた。南には一般女性に見えるメルヘンは明らかに皆無に等しかった。教会には言える愚直な悩みも一切学校生活には友人には決して打ち明かさなかった。そんな辛抱の時期に街や人々は冷静さを失い勝手気ままに生きていた。南には親友がいなかった。街には町のルールがありそれは暗黙の了解だった。さながら生きて死んでいく内情の辛さは純情を運んだが決して経験は積めなかった。そのような思いで成人まで過ごしてきた。的外れな言葉を一切、言わず寡黙に生きる優女正しい生真面目な人間には何一つ内情を打ち明かすことはなかった。それが唯一南に残った唯一の経験だった。


6 経験が末期に迫ったこの21歳の年に、あらゆるエネルギーを解放する必要性があった。修道女として越えなければならない神様の試練だった。その試練の残酷さは生き地獄にも変わらない日々を何日間か過ごす必要性があった。喘ぎ不運にも似た何かしら想像すら出来ない体験だ。容赦のない暗闇に沈む悪霊を追い払うため、その過酷な試練に取り組み始めた。自己否定の中で内面が究極的に一点の光がある。外はまるで悍ましい地獄そのものだった。気が着いた瞬間からドアの目の前で佇む南には息すら苦しいものになった。内面的な試練が続きそれが、数日間続くのだ。いきなり悪魔の巣窟で悪魔に笛を吹かれ走り始めた地獄な光景、悍ましい責任を親が放棄し責任から逃げ死んだ親の悍ましい気分に晒された。胸が焼けるように熱く存在すらない針山や孤独な感じを焼かれた苦しみ。その胸の中で起こる悍ましい光景が続いた。
耐える執念と神への信仰が合わさった瞬間だった。無事に6日間の試練に南は打ち勝ったのだ!
悪たるものを許さない列記とした勇女となった瞬間だった。辺り一面に花畑や涼しい山々の風や小川のせせらぎが聴こえ、小鳥たちは腹に抑えた解放から飛び立ち、幾重にも増した虹の羅列が心地よい気分に南は晒された。
パワーが溢れ出し、出来ないことは何もないくらいに表情は自信に満ちている。

7 楓は5本缶ビールを飲みながら気分が最高に良かった。勉はそんな楓を横目で流しながら、お風呂場の電気を点けに行った。
夕日が沈みきったあとガタゴト沈む夕日の海岸線を電車が通り過ぎていく。やがて、月がまんまるに見え夜更けに入る星の数々から夜の暗闇に飲み込まれた。「あたし、今日はお風呂はいい、シャワーだけにしとく」「了解」勉は電気を点けながらお風呂の湯を沸かし始めた。シャワールームが一階と二階にあるので、そそくさ楓は二階にいきバスタオル片手にシャワーの蛇口をひねりながら汗をかききった体にシャワーをあてた。
満月から作り出す夜空は田舎や海岸線からとても綺麗に写っている。このような星が綺麗に写り満月を透き通る空を見上げるとき頭の回転がお酒で鈍った楓ではあるがテンションはボルテージをあげていた。
沢山の人を達がレールをはみ出さず周りに合わせて生活している。ルールは情を越えないと言わんばかりに人を貶める。しかし、楓は違った。彼女には人とは違った価値観があり、また見方を変える芸術的な能力もあり、そんな個性があったせいか世の中のまともなことから離れることも出来た。染まりながら自由な考え方で都会に住んでいたときは何食わぬ顔で暮らしていた。
月明かりや満点の空から作り出す芸術性は生半可なセンスではなかった。そんな空の光景を楓は如実に想像にインプット出来たのだ。
「明日は晴れるかな?」楓は言った。勉は何も言わなかった。そのまま浴室に浸かった勉は別々の部屋にある寝室に帰って行った。
「なーんだ。」テレビを付けた時にはもう21時になっていた。ひと騒動のニュースを観てからそのあとの天気予報を確認する。
夕日のあとは梅雨に戻るとニュースキャスターは言っている。静かになった部屋でまた、飲み直すためにワインを冷蔵庫から取り出しグラスに注いだ。シャワーを浴び22時の古時計が針を刺していた。
今日1日の終わりである。寝室に帰りドアを半開きにし満点の空を見上げながら就寝した。

8 朝、目が覚めると天気予報は嘘のように晴れやかな海岸線が見えた。気分が良くなった楓は一目散に下に下り、外へ飛び出した。明るい朝日に鳥の鳴き声、雲が入道雲を帯びて連なっていた。「あー気持ちいい、きのうの天気予報が嘘みたいね。」今日は初夏に初めての水上スキーだわ、働いていた会社で60万円くらいで買った中古の水上スキーのバイク。会社ではキャリアウーマンばりのセールスガールだった。与えられたノルマは月の初めには越え、会社内の営業マンには出来る女で通った楓だった。月に100万くらいの給料を貰ったこともある。女子に憧れ成績を維持しているキャリアウーマンには楓がピッタリの役回りだった。常に何事でもこなすキャリアウーマンはストレスもシャワーで流しまた、1日にツテを回さない100点マン点のキャリアウーマンだった。
社内の男性から誘いが殺到していたが、楓はプライベートの時間を日頃から大事にしているせいか寄ってくる男もそれなりの覚悟がいった。楓らしく、水上バイクまで砂浜を海へと足を運んだ。暑い初夏の季節に水上スキーも楓の娯楽の一つ。なんでもこなすキャリアウーマンには水上スキーなどお茶の子さいさいだと自負していた。別の部屋で寝ている勉は楓がガタガタ音を立てて水上スキーの準備をするので、何か始まったのか?といつものような光景から目をまたつむりまた、眠った。
人里離れた海岸線周りには地平線とも言わずべきか大海原、ジャケットスーツに着替えた楓は砂浜を走り海へ飛び込んだ!水中に潜ると走ってきた砂が水中の中を濁した。
「最高!」「海って素敵!」波は穏やかで辺り一面に初夏の波しぶきが起こっている。
「夏と言えば、海、バーベキュー、花火ね」
時刻は10時を回っていたが太陽はかんかん照りに海をキラキラ、光で写していた。
勉は目を覚ましドアを開けた。
キラキラ輝く波に暑ささえ忘れてしまうほどの美しさだった。
勉はどちらかというと運動音痴で知性派な生い立ちをしている。顔面には黒の縁のメガネに少し無精髭もあった。「はじまった。」
楓はジャバジャバ浅瀬で波を立てている。好奇心が湧くと止められない楓の気持ちを勉はよく知っていた。
楓は水上スキーのある場所まで移動し、鍵をとり海に預けた。左のクラッチをハンクラにし右のアクセルを握り少しずつ回していくと音がなった。深く握りしめ、一気にブーンと沖まで行ってしまった。「なんなりとマスター」2輪の免許を持っている楓には一発で熟知したらしい。沖から沖へ行き、しぶきをあげる水上スキーを楽しんでいる。
勉は薄手のシャツを羽織り、外へ出かけた。お互いの会話をすべきかは微妙だが、2人にはなぜかそんな粗末な感じも粗末感さえ感じさせないほどだった。お互いを理解しなお、侮蔑にもならない関係で自由人と節約型というべきか、あまり2人に干渉はなかった。そんな2人なので、よく理解出来ていたのかもしれない。

愛に溺れるなら愛の痛切な痛みをうけ、愛に純粋に向き合うなら、永遠の愛を知る。

勉はタバコを吸っていると楓がニッコリと笑っていた。職場では見せない無邪気な少女の顔だった。よほど水上スキーが楽しかったのだろ
う。無邪気にも思える少女の顔はキラキラ輝いていた。勉は飲み物を用意し楓はシャワーを浴びていた。天気は崩れず、太陽が正午あたりを指していた。勉はよく眠りまた、縁側でうつらうつらしていた時だった。

9 日が昇りもう、16時くらいになっていた。この浜での生活のために買い込んだ缶ビールを一本飲み干した。楓には暗く沈んでゆく茜色の夕日を今日も見ることができた。水上スキーをやったあとは疲れて眠っていた楓だが、夕日には目が覚め缶ビールを啜っていた。
「なにか、食べたいものはある?」勉は言った。「そうね!地中海料理とか!」「了解した」勉は言った。そそくさ午後から買い出しに出た勉はエビや魚介類を買い揃えていた。何かしらピンとくるものがあり、そのまま炊飯器で炊くのも美味しいし、味付けも拘ることが出来ると踏んでいた。用意したエビをザクザク縦に切っていく。貝やアスパラや野菜もふんだんに切り落としていった。トマトを使い、スープ作りには拘りキノコの出汁から、少々の香辛料を入れ炊飯器に入れ込んだ。スイッチは予約で50分後に炊き始めるようにセットした。出来上がりが18時半だ。楓はこんな親しい光景と夕日を見ながら缶ビールを2巻空けていた。涼しい夜風が吹いてくる。ほろ酔い気分の中、いい匂いのしてくるパエリアはフツフツと炊飯器の中で形作られていた。
外にはジャケットを、干している。暗くなった景色に風鈴が鳴り、また風が吹く。

10 光の鎧を身に付けた南にとって、光が溢れ出しまた、光で悪魔を懲らしめることも可能になっていた。事実、現実は空想な世界を越えることが出来ない。それを如実に表せることが出来るまで光のエネルギーが身体中から溢れ出た。
パッと解き放てば一瞬にして封じ込める光のオーラが南には流れていた。あとは経験。その力を使い、世の中を良きものへと変える力を南は与えられ、その責任を果たさなければならない。南にとっては世の不条理を解決していくだけの準備は整っていた。実践を踏み、争いの彼方に理想の箱舟を創るのだ。「ヨシッ」南の顔から凛々しさが溢れた。
教会を出るための時間を設け、身支度をし実践を踏むために旅をする必要があった。1日1日と過ぎていった教会の日々は卒業を迎え、新たな旅立ちのときがやって来る。

教会とは違う世俗層の営みへの生活をある部屋を借りることから始めた。卒業と同時に借りたアパートに移り住み、詰まったドアの数から発狂する女性たちや、酔っぱらって帰ってくる旦那のドアをうるさく閉める音などあらゆることが新鮮だった。必要な物は持って来なかった。持っているものは希望と夢、そして一つの本だ。

11 朝がやって来た。持っている携帯から何時かを確認し、仕事をしなければならないために、求職活動を始めた。午前中は教会にいた。いつもの癖で掃除から始めた。マザーの声が内面で響く!1時間くらい掃除をし綺麗になった部屋から、暑い午後の時間を避け、料理に没頭した。初夏の暑さのせいか、冷麺を作ろうとレトルトの冷麺セットを買っていた。人参を縦に切り、きゅうりもハムも卵も綺麗に切りそろえた、麺をザルで水切りをし、2回繰り返した。サッと盛った冷麺を食べ1日何も起こらず無事に過ごすことが出来た。

眼が覚めるまで気づきもしなかった。昨日はガタガタ色んなことをして無事に就寝したせいか、教会生活と相まって、妙な夢に魘されていた。思い起こすと幾千もの兵士が南に助けを求め手や足を掴んでは離さない夢だった。これから起こる現実の内面と南の使命に刈られた夢だった。「一つずつ解決していかなくちゃならない。」そう、独り言を言うとカーテンを開け初夏の陽気なお日様が山から顔を出しているのを見た。10分間のお祈りをし朝食を食べた。
生活はいたって質素でシンプル、明け方の4時くらいに隣の部屋で物音がしたのも気にせず、朝の空気に深呼吸をし、ドアを開けた。新しい1日の始まり、南はまた口をつぐみ、散歩に出かけた。

12 生きている価値には周りなく一つの魂に光の鎧を纏わせる。

南には旅路の航路が分からなかった。じつに一人教会を卒業し飛び出したものの、所持金もあまりなく、まずは生活に落ち着くことと決めていた。まずは自らを鍛錬しなくては.救いも何もないだろうと決めていた。教会で学んだ生活にはかなり日常生活にも役立つことが多い。昨晩はゆっくり休んで6時30分には起床し、7時くらいまで掃除をした。顔を洗い朝食を食べ、10時には就職活動のために職安を尋ねた。神学を学んだ南には日常的な生活もまた、訓練だと思っている。職安には職を探すたくさんの無職者が集まっていた。カードを受け取りパソコンで求人情報をかき集める。介護から医療福祉まで、資格が必要な職があり、また販売業や飲食業たくさんの業種があった。日差しの強い朝だったが南はハンカチ一つ取り出しておでこの汗を拭きとった。
そのとき、ある求人票に目が入った。給料はさほど良くはないが、ある施設の清掃業でその施設は沢山、地方や他地域に広がってある職種を見つけた!「これだ!」南は直ぐにその求人票をパソコンでコピーした。相談員は問い合わせ先を教え丁重な面持ちで施設の電話に繋いだ。
話は早かった転々とする職種であり、辞めていく人が多いのだと、面接官はいった。会社から「直ぐに働いてもらえないか?」と通知があり電話口で南はオーケーのサインを出し、就職が決まった。

13 朝早く起きた楓は静かな波をずっと見つめていた。穏やかな海で嵐もありまた、ときには遭難する自然の姿には人間には太刀打ちも出来ない。波に体や船を預け航路を進むしかない。目の前には地平線が広がり陸の何のそれも知らない人はいったい何を思い、船に波を預けているのだろうか?不思議と楓はそんな思いを波に預けていた。勉は相変わらず違う部屋で眠っていた。
波から波紋が広がり来客船が沖の方から見え波紋は更に波となり押し寄せた。遠く離れた沖からも一曹の船が走ると波打際には波が伝わり波紋が起きる。
南は思った。世界には沢山の人が海を見て、それぞれ異なった生活をしている。そしてわたしたちも。 雑踏の中のコンクリートジャングルで自然とは真反対の生活をキャリアウーマンとしてしてきた。休める場所、そして癒される場所があることは何よりもかけがえがなく幸せだと本心から思った。下を向きまた、違う人は胸をはったり、粋がって喧嘩をする、喧騒な人々の醜さをこの浜辺は何よりも癒していく。人は人道を通過する前に天道を進まなければ確かな人格など養われない。全く違う、自然との語り合わせは楓にとってとても新鮮であり、また癒される瞬間が続いていく。人は自然から離れて生活することは出来ない。痛感された一瞬だった。
浜辺で一呼吸ついた楓はガレージに戻り朝食を作り始めた。ゴーヤがあり、昨日勉が買ってきた買い物袋をあさりはじめた。冷蔵庫の中には卵とフルーツが幾つかあった。フルーツヨーグルトとスクランブルエッグ、味噌汁とライス、これが勉と楓の朝食になった。
勉はまだ、部屋で眠っていたので、一人朝食をとった。

14 この町の地形は左下がりの地理になっていた。下側に観光地があった。寺院もありお寺さんやお坊さんが熱烈に修行に励んだ造りのある建物も存在した。勉が起きてくるまで新聞を読みながら寛いだ。
勉が目が覚めたのは11時過ぎだった。楓が用意した朝食を朝食か昼食か分からない時間に食べた。オレンジジュースを「やっと起きたわね」と勉の前に置いた。「あの寺院に行きたいの?」車はポンコツの軽だったがその充分にある距離には必要不可欠だった。勉は朝食をとり、オレンジジュースをもう一杯楓に頼んだ。
昨日と変わらない様な晴天に絶好のドライブ日和だった。そそくさ身支度をする楓に「始まったか!」と勉も今日は久しぶりのドライブにウキウキしていた。勉は地図を広げて今現在の場所から70キロくらい離れている寺院に指を地図でなぞった。
お互いの悩みは共通させる必要はない。悩みとは各々の個人の問題であり、計り知れない辛さはやはり、その人自身が解決していかなければならない。

寺院に向かう途中何人かの家族連れとすれ違ったが、勉や楓には何振らぬ顔で通り過ぎた。基本、物事は大きく遠い目標を立てる。そしてその目標に向かって時間を掛け、少しずつ身近な問題を解決させていくのが良い。

むしろ、勉にはそのような知恵と言うか、6感じみたものが始まる。6感が始まると、物事を的確に認識しその目標に向かっていく、真っ直ぐさがあった。楓のように一つのことをやれば何食わぬ顔で出来てしまうセンス的なものは勉にはなかったが、努力に関して言えばまるで、コツコツ型だった。
楓は車も平然とのり、イライラもせず軽く流して進む、言ってしまえばグラサンネーチャンだったが勉は、キチキチとした性格を車に出していた。調子のよい楓に比べ、止まれの標識では必ず止まり左右をキッチリと見て進む。
対象的なふたりのせいかまるで、2人の間には空気より素晴らしい空間が生まれ始めていた。

15 70キロは以外に近い透明な空間から「あと少しね!」と楓は言った。広い田舎道には田んぼが数多くあり、勉も初夏の心地いい風に吹かれ陽気になっていた。「ここを確か、右!」車を右に旋回すると、常套寺という寺院の入り口に差し掛かっていた。周りには寺院周りに来ていた沢山の人がいた。質素で圧倒させられた二人の先には鳥居がそびえ立っていた。「すっごーい!」圧巻した楓に勉は息を呑んだ。勉は駐車場に車を停めた。行き交う人の中で出店が沢山並び、甘く香ばしい香りが漂っていた。林檎飴、わたがし、くじ、金魚掬い、沢山の出店が並んでいた。真っ直ぐ鳥居の前ではお辞儀をする勉に対して楓もお辞儀をした。チラっと見ていた楓だが、勉は気づいていない。手を洗い、真っ直ぐ本院の前へ進んだ。近付くにつれ鳥居を何度かくぐった後には大きな狛犬が2匹壮大に異様な目付きで本院を護っていた。狛犬達にお辞儀をし、本院の前に着くと財布を開けお互い小銭を入れ、それぞれ胸の内を心で明かした。如来像、菩薩像、そして仁王像があり、真ん中でお坊さんがお経を唱えているのが見えた。線香の香りがあらゆるあの世の人々の心を浄化し、空を舞いとぶようにウキウキしている感じが勉の第6感は反応した。車へ戻り、またガレージまでに70キロ離れた浜辺へ勉は車を運んだ。

16 初めての仕事、南はそそなく、施設に働き始めて1日目、施設には沢山の介護される側と介護する側で初めに施設のホールのテーブル拭きから始め、ゴミ箱の回収とそつなく、テキパキと働いた。朝の9時から12時まで10時に10分の休憩時間を除いては貸してもらったエプロンと頭に被る三角絹、マスクを被り、冷房が付いていながらも汗をかいた。一人の老人が南にいう。「いやー若い子が来たもんだ、ここは老人施設だからね、爺さん婆さんも箱詰めだよ。」「”おもらし”する老人はオムツをはかされたり、全く虚しいもんだよ。年取るつーもんはさー。」南は言った。「そうですかねー、年を取ると言うことは経験の種を積んでいくものじゃないですか!お婆ちゃんもまだまだ、元気でいてもらわないと!」
「わたしゃね、みゆきって言うんだ、なんかさーあんた見てると若い頃のわたしそっくりだよ。」
「みゆきお婆ちゃん!良い名前ですね!わたしはシスターの学校に通って、卒業と共にここに来ました。よろしくお願いします!」
「がんばりなよ、ここは長く続く職員がいないのさ、新しい顔ばかり見るから名前がごちゃごちゃになってしまうんだ。けど、あんたは何か心の中に光るものがあるから、きっと忘れないんだろうね。」
「ありがとうございます。」テーブルを拭きながらの会話だったが不思議に懐かしい感じが南にはあった。こうして、お年寄りから話しかけてもらう南にとってかけがえのない1日目となった。みゆきお婆ちゃんに見ぬかれた光も露骨に訓練したもので、沢山のお年寄りと話をしていこうと南はこころを決めていった。

17 2日目、9時に施設のタイムカードを打ち終わりエプロン姿のシスターは清掃を始めた。みゆきお婆ちゃんはホールの隅っこでガラス張りの窓から外を見ていた。話しかけてみようと近くにいったが、何か昔のことを思い出しているのかのように見えた。「みゆきお婆ちゃんおはようございます!」勇気を出して話しかけてみた。みゆきお婆ちゃんは一瞬驚いた様子だったが、南の方を向き挨拶をした。
「ここは冷房が効いているんだい、外の温度と違うからねー、とっても過ごしやすいのさ!」
「何か考え事をしてたんですか?」
「外に見える景色は朝日がガラス張りに昇って来て、西日には山に沈んでいくのさ」
「人間の一生も、1日の時間と同じなんだと。」
「しかし、不思議だねー、夫は定年過ぎて亡くなったしさ、孫がいるけど、孫ももう成人してるんだよ。旦那の墓にこれから残り少ない時間のカウントダウンさ!だから、1日1日がとっても大事!」
「ですね、わたしもそう思います。1日1日を大切に過ごすこと、生きている限りはその場面場面が大切なんでしょうね。」
「長く生きても、短く短命に終わってもまた、新しい1日がやって来る、それは生きてても死んでいても同じなんだと。」
みゆきお婆ちゃんは言葉を言うとガラス張りの外の景色をまた、見始めた。
「やることをやんのさ、そしたら、必ず結果は付いてくる。後悔しないようにあんたも生きなきゃ駄目だよ!」
お婆ちゃんの横顔には苦労の無数のシワが外から来る朝日に照らされている。
少し二人は黙っていたが、車椅子を隅からテーブルの方へ進めた。
みゆきお婆ちゃんには懐かしさと苦労、新鮮な純粋さがあった。その感じをつかみとれたのも南の内面にある何かだった。話し話さずとも二人の空間は時間と共に流れていった。
昼ごはんになる時間で南は清掃のほぼを終わらせたている、患者さんというか、ホールに集まってくる。南は持っていた雑巾を洗い場で絞りそしてバケツに入れた。年は60代から80代まで幅広い年齢層のお婆ちゃんやお爺ちゃんがいた。寝たきりの老人を介護することもスタッフの仕事だ。松葉杖でもかろうじて歩ける老人や車椅子での生活、また個室では寝たきりの老人が眠っていたりした。南の仕事は時間帯によってこの個室に入り綺麗に身の回りを清掃することも仕事の内だった。介護士さんにオムツを交換してもらったり、お風呂に入れさせてもらったり、食事の世話を介護士さんはテキパキ、優しく働いていた。アットホームな感じが南はしていたが、生活面の世話は本当に大変な仕事だと痛感した。
食事が介護士さんから運ばれ綺麗に長方形のテーブルを囲み団欒な時が来た。車椅子の人は椅子を引きテーブルにつく。12時の針が時計を指したときあるスタッフさんから休憩に行くように言われた。休憩所も設けられていて、ゆっくり寛ぐことが出来る。1時間ほど休憩をとったあと、施設の周辺を清掃するように南は言われた。清掃道具を持ち、初夏の暑い陽気での仕事はとても大変な仕事だ。落ち葉からゴミなど燃えるもの燃えないものと缶やペットボトルや灰皿を綺麗に分け、ビニールに入れていく。
この施設はとても広い施設で、ガラス張りの窓の他には工夫をした創りになっていた。真ん中に丸いエレベーターがあり二階三階と八階まであった、丸い中央を軸にして斜め方向に二つ建物が別れている施設だった。一階は面会室などがあり、二階から老人ホームの部屋やホールがそれぞれあった。南は3階の清掃を主に任されるようになった。年齢層は60〜70代のお爺ちゃんお婆ちゃんがいる階だった。定年を迎え、老人ホームで最寄りもない人もいたが、ある文化的な老人との経験談を聞いたり、少し痴呆の老人もいた。
施設の周辺をし終わった南は休憩室に向かった。シャワーやガスコンロ、水まわりの洗面所も用意され室内では冷房が効いている。椅子に腰掛け、寛いだ。

18 小さい頃、祖父におんぶされ公園を歩いた。あの夕日から日が沈む穏やかさに満足感を覚えたことがあった。祖父の背中は広く大きな背中で安心しきって眠ったことがある。何も言い表わすことが出来ない愛情で胸がいっぱいになったこともある。その一つ一つの光景を思い出すとき南は安堵感に包まれた。決して裕福な家庭に生まれた南ではなかったが親や祖父母からは絶大な愛情を受けて育っている。その愛情を受けた分、世の中に愛情を与える存在にならなければならないと勇女は思っている。例え微かな行動だとしても世の中の人にとってはとても喜ばれることがある。南にはそんな使命や責任を負うように育ってきた。いつしか、その責任が負担になり、やりきれなかった時期もあった。こうして生きていける、ぞんざいな自分にとって何かしらの役に立ちたいとこころの底から思っていた。

この世に存在する全ての人類に責任がある。その責任とはより徳を学び常に楽しみを見つけて生きていくこと、自分の体を厳かにせず、人を傷付けず、生きていく。どんな学問の原点である哲学を忘れてはならない。生きていく価値には人それぞれにある。ただ、寿命をまっとうして欲しい。

19 寺院から離れたときにはもう、夕暮れから薄く暗い空にあった。勉は車を運転しガレージに着いた頃はもう、20時過ぎだった。軽く夕食をとりシャワーを浴びそれぞれの部屋で眠った。神社仏閣に興味のあった勉だったが、常套寺で見た、仏像は素晴らしくて勉のアルバムに記憶された。また、楓と行きたいとも思った。
隣の部屋で眠っている楓は歩き回ったせいか疲れて、眠っていた。
少し眠れそうにないので部屋を出てキッチンまで行き軽く缶ビールを開けた。信仰深い聖者も仏閣も寺院や多くの人に支え合いながら生きてきた昔を思い出した。また、楓と出会えたこと、楓にとっての勉は?と考えるようになっていた。2人は異種なので、性格が真っ向から違う、そんな中での生活も悪くないと思い始めた。きっと出会えることが奇跡ならばさほど焦る必要もなく学生時代に会えない恋心なら社会人で会える可能性だってある、なにも高校3年間だけが青春ではない。人生、楽しむためには青春をいく時も忘れないように勉は心掛けている。ベランダでタバコに火をつけ月や満点の星空を見ていると急に涙が出てきた。長い航路から抜け出したくて夜通し逃げ回ったことや学生時代の記憶が戻って来ては今の自分と照らし合わせた。あまり、考えず行動する体質ではあるが何故かこの日はやけに眠れず空ばかり見ていた。満点の星空はベランダの勉に話しかけているようにキラキラ輝いていた。
楓の部屋の方を見ると灯りが付いているとはいえ眠っているようだった。
お互いの関係にはお互いの価値観や距離がある内面から全て暴露した相手ではないが、勉にとって大切な人だった。ベランダに寄りかかりながら灰皿にタバコを揉み消した。「さっ寝よ!」部屋に戻り勉は就寝した。

20 真空管のような二人の間にはすれ違いや行き過ぎもなかった。お互いがお互いの価値観を押し付ける訳でもなく、距離感もある。二人にとって大切な時間を無駄にせずまた、それぞれの自由間で成り立っていた。
朝早く楓は目が覚めた、「うー、うー、」と聴こえた。寝ている間に悪夢を見た。午前3時頃に目が覚め、しきりに、暗闇の中で闇の部分に連れ去られそうで、前にいる勉を何度も何度も手を伸ばして掴もうとするが掴めない夢だった。冷や汗をかき、楓は部屋のドアをあけ、飲み物を探した。目が覚めきってしまったため、外へ出てみることにした。ドアを開け真っ暗な海岸沿いを歩いた、波の音が遠くは近くに聴こえてくる。風が日中の暑さほど熱くなく、潮風が吹いていた。海の匂いから悪夢から目覚め落ち着こうとしている。砂浜に座り右手に握った石を何度か投げた。ザー、ザーと打ち寄せる波の音にこころは落ち着いた。「わたしらしくない。」そういうと、後ろを向きまた、ガレージに戻って行った。
勉は何やら音がしたのを気にしたのか、耳を傾けるだけで、また眠った。楓にとっての3ヶ月ほどの夏のバカンス、嫌なことが会社でもあったけど、持ち前の明るさややりくり上手な楓にとってこの生活が何故か不思議に内面を癒していっていることは確かだ。

21 楓には一人妹がいた。「お姉ちゃん、お姉ちゃん」と甘えんぼの妹だ。なんでもそつなくこなす楓とは反対に一人では何もできない妹がいた。自我が生まれ始めてくるときからは楓は都会の方に就職を決めたため、7、8年は合っていない妹だ。離れて暮らすようになってからはこまめに連絡を取り合っていたが、ここ5年くらいは会話や電話でさえもしていない。仕事が忙しく、会社に出勤するや帰りが遅くなるときもあり、楓はここ10年間は引っ張りだこのような生活をしていた。妹が今現在何をしているのか気になりもしたが、連絡は途絶えたままだった。
いつしか、会って話したい、そんな衝動がいくつかあった。母親から聞いていた話によると妹は神学校に進み、修道女の生活をしていると聞いていた。年はかなり離れている妹だが、幼い頃はよく遊園地や動物園、沢山遊んであげた記憶があった。「アイスが食べたい!」だだをこねる妹が可愛くてソフトクリームも食べさせた記憶もある。三輪車からコロ無しの自転車に乗るときも楓と妹は何度も何度も練習した。妹が中学に上がる頃には楓はもう、社会人になっており都会で生活を始めていた。ほとんどというか実家に帰ることはなかった。妹の成人した姿が気になっていた。楓にとって唯一の妹、心配になる思いと立派に成人している彼女を見たくなった。「この3ヶ月間の中で出来ることをとことんやろう!」そう意気込んでガレージに入った。

22 老人ホームに勤めてから1週間が経った。周りから仕事の内容は全般的に覚えたが、高齢者の世話や話をすることにも”やる気”になっていた。あらゆる経験達者な老人達であったが、南にとって唯一みゆきお婆ちゃんは他の老人と別口違っていた。みゆきお婆ちゃんとは南がこころの底から全てを話し、そして許してくれた人だ。施設に出社すると、必ず挨拶から始まる。「おはようございます」元気の良い南からはたくさんの老人が話しかけてくる。「よっ!南ちゃん!今日も元気だねー」「毎日明るい若い子の声が聞けて、こっちも元気もらうよ」
ホールの角にやはり、みゆきお婆ちゃんが外を見ている。「南ちゃん今日もいい天気だねー」「暑い中外の清掃とか、よくやるよー」
「なんか、わたし天職みたいです。人の身の周りの世話をするのも好きだけど、やはり、清掃のような縁の下の力もちみたいになりたいです。」「人が嫌がる仕事ほど、人より内面が現れるってもんだ!縁の下の力こそだね、オフィスで冷房の効いた部屋でパソコンいじっている奴らよりよっぽどマシだね!」
みゆきお婆ちゃんはいった!
「搔き集めたいんです!人が何故に見落としまた、その見えない影の力を信じようとしないのか、一番大切な何かを得るためには必ず地べたを這いつくばっていく労働者の種を!」
南はいった。
「一生懸命に何かをすることは大事なことだよ。正直、地震が来て、ここにいるスタッフや老人ホッといて逃げる馬鹿男だっているんだからさ。」
「自分の命を犠牲にしてまで守り抜く力とは果たして今現代何人いるのかしら?」
安心から不安や恐れを毎日の生きていく生活に覚悟を持って誰もが生きているのは確かだ。南にとって今出来る最高の行動を今はとるしかないと思っている。平和におけるゆとりとしたこの国や人々にとって悶えて抗える何かでストレスと戦っている戦士に思えた。南にとって理解者や募る誰かに助けを求める崖っぷちな状況にさらされたとき、一人で乗り越えられる何かを誰もが望んでいるとしか思えなかった。
だからこそ、全ての経験や全てを理解するのだと、老人達は物語っている。老人ホームに勤めながらも、また老人と接していくことで何か答えを一つ掴んだようだった。

23 南には年違いの姉がいた。音沙汰もなく、ここ、10年は経とうとしているが、南にとっては実の姉だった。神学を学びあの幼稚園の頃に三輪車からコロなしの自転車に乗ろうと二人で頑張ったことを思い出していた。「今、あねはどうしているのだろう?」
そんな想いが急速に南を働きかけていた。
何でもそつなくこなす姉に、憧れを南は持っていた。「おねえちゃんみたいになりたい!」
あの頃の想い出が交錯しながら、時間が過ぎていった。現実的な姉とは対称的に南は空想の世界に入ることが多々あった。そんな南のことを良く可愛がり遊んでくれた姉だった。南にとって掛け替えのない姉、何処にいるのか分からなかったが、想像は膨らんでいった。
シスターとして、学生生活をしてきたが、漲る力には必ず、寄せ付ける何かが南にはあった。共に生き、連絡も付かず離れてしまい、別口の道を歩むことになった姉妹の願いは?今、南にとって大切な何かを現実のものにするためには実際に姉と会い、何かしらの恩返しをしなければならないこと、姉と遊んだあの頃からの思いの種を、現実で会うことで分かち合うことが必要だった。
朝方みゆきお婆ちゃんと話をすることが出来た。「一期一会って知ってるかい?人生の一度きりの出会い、長く寄り添った仲でも、一瞬だけ出会った仲でも、他ならぬ出会いということを示している」「その出会いを大切にしまい、また誰かと出会っていく、南ちゃんにもわたしとの出会いがあったわね!沢山の出会いからわたしたちも一期一会だよ」「何故かあんたと話してたらとっても安心するんだ。」
「みゆきお婆ちゃん、ありがとう!」
「わたしには一人の姉がいます。どういうわけか連絡も付かず離れて暮らして今は姉のことが気になっているんです。」
「それは、お姉さんも、あんたに会いたいと思っているんじゃないのかい?」
「なんとか、会えるといいね!」
「うん。ありがとう」南は言った。

24 みゆきお婆ちゃんにはもう、旦那は他界している。老人ホームに入ったときにはもう一人だった。真相やみゆきお婆ちゃんの願いとは何十年も寄り添った夫と共に永遠の世界で幸せに暮らせることしか生きがいがなかった。若い子の願いをわたしの願いと絡み合わせまた、叶えたいと思った。姉妹の思いがどれほど強いのか分からないがみゆきお婆ちゃんには出来るだけ、南の話や自らの話を聞かせたいと思った。
南は姉が何処で暮らしているか調べることにした。血のつながりのあるたった一人の姉に恩返しをすることは、寄り添う二人のためにシスターまた、牧師として内にあるエネルギーを使い挙式を挙げさせて頂くことを思っていた。仲睦まじくみゆきお婆ちゃんの夫との結婚生活を聞きながら、また、恩返しをしたい希望が旨に膨らんだ。みゆきお婆ちゃんの永遠の願いとこれから結婚生活を育んでいく、未来に賭けたい若いシスターの願いを込めたいと思った。

人は一人では生きてはいけない。寄り添う二人の出来事があり、人生は正に二人の出来事にある。一生とはつがいから永遠を学ぶ訓練。生きている証とは正に連れ合いの時間を忘れてはいけない。誰一人として恋愛や結婚から目を背けることは出来ない。等しく混ざった青色と黄色から緑色が出来るように。お互いの関連する楓と勉には真空の感覚がそうあるように。実の妹から祝福を受ければ二人の間には愛が宿るように。

25 楓が起きたのは8時くらいだった。悪夢で飛び起きたりもしたが、波の音がガレージの外から聞こえた。勉もこの日は早く起きていた。今朝は勉が朝食を作っていた。パンにバター、ハムとチーズ、レタスを挟みマヨネーズを加えたサンドイッチだった。「ありがとう」楓は美味しそうに食べている。寺院を周り、今日は何をしようかと二人は話し合いながら朝の団欒を過ごした。生き急ぐ釣り漁船が波しぶきをあげ進んでいたが、一つ案が浮かんだ、バーベキュー!、そうと決まれば二人の行動は早い、加速度が一瞬にしてマックスになる。勉の頭にはサザエ、青魚、魚介類が頭をよぎっていた。海鮮のバーベキューをしようと市場に走り出した。波止場の多い市場にはイカやタコ、アサリや、サザエ、沢山の魚介類が売られていた。「これください、あっこれも」小さなビニール袋にそれぞれの貝や魚が入っていく。
楓は七輪でさっそく、火を起こしている。着火剤をうまく使いまた、容量よく炭に火か通る。勉がガレージに帰ったときには昼過ぎだった。炎天下の砂浜の上でパラソル付きのテーブルを用意し七輪にはもう、炭がバチバチ扇ぐと勢いよく火が燃え上がっている。
「あったよ!サザエ!」勉が言った。
「えっマジ!サザエも焼いちゃうんだ!」
「勉、苦いの嫌いじゃなかったっけ?」
「挑戦状?」楓は言った。
「サザエの苦いところは嫌いだけど表面部分は好きなんだ、牡蠣も一緒!」
「え、それもったいないじゃん。苦味も合わせてサザエなんだから、海の味も味わって欲しいな。」楓は言った。
「でも、ビールが苦いから嫌いだけど、お酒は結構いけますって言う人もいるから不思議でもないけど。」
「どちらかと言うと歯ごたえが欲しい、サザエや牡蠣の苦味はペチャっとしてるから嫌いなんだ。」勉は言った。
「でも、海の幸である魚介類はどれも潮の味がするわ、その中にペチャって苦味は海鮮や魚介類には必要なのよ。」
勉は物憂げな態度をみせている。
「そんなに沢山魚介類の買い物も、不思議ね、勉にも拘りがあるんだね。」
楓は言った。「拘りはないさ、もともと平和主義者であるし、防御が攻撃だと思っているから、それに挑戦状を叩きつけているんだ!」
ヒョンとして楓は「分かりにくい発言だけど勉って感じする」
「でもさあ、その不思議な感覚で直感思考のあなたとわたし、なんか不思議と笑えてくる。」
「あまり、考えても無駄なことは無駄なのさ、直感に生きる男、勉、正に鬼に金棒!」
「さっ焼きましょ!」楓は勉が買ってきたサザエを焼き始めた。
エビや貝、たくさん焼いていくうちに、サザエの蓋がぱかっと開いた。「さあ、挑戦状よ受けて立つは!」「勉も食べるのよ、好き嫌いを克服するチャンスよ!サザエの挑戦者はわたしだけじゃない、お互いタッグを組んでいるのだからサザエに挑みましょ!」楓は言った。
「わ、わ、分かった。苦さを克服してやるぞ!」勉がつまようじで奥の苦い方が露骨に外へ飛び出した。ふんっと勢いよく口にほうばったが苦味のせいで異様な顔になった。
噛み砕いていくうちにその異様な顔はえげつな顔になっていく!「吞みこめ!」
8回くらいかんだくらいで喉に飲み込んだ。えげつな顔は段々と正常に戻っていく。側をみると、楓が大笑いしていた。

26 3ヶ月の楓の休暇だったが、既に夏が終わろうとしていた。この夏は大いに楽しんだと踏んでいる楓、残りの望みは妹と会うこと、これだけは楽しんでいる中でもこころの何処かであった。人並みに生きる能力の長けた楓と勉。
理性にも南と会うことに衝動が刈られていく。夏が終わり、冬が近づいていくことへの焦りが楓を襲う。仕事から離れて2ヶ月夏の物憂げな切なさを赤トンボが現していた。
勉に対する思いを婚約と成ればと思い、プロポーズを待つだけだった。勉は薄々と気付いていたが踏み出してはいない。勉にとっての楓の存在は2人を大きなものに変える、神秘的なものだったり。いつからか、寄り添いお互いの気持ちの中で不思議な感情が2人の間柄で真空管のような空気を作っている。2人にとっての価値観、理想とは互いの空間を大切にすることだ。爆発的な想いは2人にはなかったが、お互いの自由な距離感を2人は楽しんでいた。もし、プロポーズを勉から受けるならそのまま受け止めるつもりでいた。
一期一会、会う時間の長さも一瞬の出会いでも想い出る思いは変わらない。人は生きている限り、永遠を望む、しかし出会いの宝庫には一生も一瞬の出来事にしか他ならない。遠い宇宙の彼方でその出来事が地球上で起きてもなんら変わらない毎日の大切さは群を抜いて明らかだ。決して好きという感情が一生続くものでなければあの頃の懐かしい青春を今の後悔に変えることも生きていれば起こるだろう。ましてや共に生活する伴侶がいたならば、もっと切実なものである。互いの体だけの関係や互いの情熱からの愛でしかないのなら虚偽としか思えない。互いを分かち合いまた、生活する一心で2人の関係を保つならそれは正しく真相の愛かもしれない。爆発的な愛には爆発的な破壊を齎すものなのかも知れない。2人の愛が絶対だと信じたとき必ず物事は自然と寄り添うように仕向けらる、その定理が本当ならば永遠の愛が一瞬の恋心だとする歌はもはや意味さえ鵜呑みに覚え進化をもたらさないだろう。
理由は結実から産まれるが楓と勉の関係には何故かそんな異空間を生んでいるのは明らかだった。お互いを主張しお互いが支え合い、生活を理解する術には明らかに愛がある。燃え上がる恋心は2人にはなかったが妻子や夫の関係にはいささか無頓着な方が上手くいくのかも知れない。そんな空間を勉も楓も感じていた。だから楓も勉からのプロポーズも直ぐに受けようとしていた。

27 夏が終わるまでになんとかしなければ、楓は勉のセリフからいろんな、シチュエーションをつくることを決めた。流して上手くプロポーズの言葉を聞いていける、状況に関して楓は得意分野だ。あらゆる状況に関して楓の能力は勝らない、勉を告白させたのも楓のレールに乗っていたカエルそのもの、逃さない獲物はない楓の頭の回転の速さと物理的な思考がものを言う。
「計画や分析力、男だったらこういうの下に沈めたいと思うのかしら」楓は言った。
「いや、頭のいい女性には気をつけろと言われないばかりにレールに乗る従順さもある意味素直でいんじゃない。男には男の口説き方がある、女性に丸め込まれて手玉転がされるようじゃあ、口説き方も浅いさ」勉が言った。
「そう。」楓が言った。
「よく分からない、けど!こんなバカンスを楽しむ二人なんていないんじゃない?」勉
「そうかしら?」楓
「なんともね、これが愛情表現なの?」勉

「ええ、わたしなりのね。」楓
「じゃあ、結婚しようか?」勉
「うん。」楓

そう答えた楓の脳裏にふと妹の南の姿が浮かんだ。南から祝福を受けられたなら楓と勉にとって、めいいっぱいの挙式になる。楓から結婚の報告をしたいが、もう番号が分からない。


28 南は調べていくうちに楓の勤める会社が分かった。楓の同僚か知らないが会社員に聞き、今はバカンスでガレージの番号も教えてくれた。思いが込み上げ聞くうちにあの頃のの思い出やいくつか姉らしい強気な発言も思い出していた。南は楓に会うためにガレージに向かった!
南には必ず祝福をするといった使命があった。お互いの近況を探り合いまた、一つの夫婦のために渾身の力を振り絞って祝福をしたいと思っている。楓や勉のためにどれだけ学生時代が、過酷でまた、精神を集める術になるまで、どれほどの精神的な苦痛を受けたか、予想をする二人のため、兄や姉のためだと自負していた。人が生きる中で大切なこと、みゆきお婆ちゃんと話しながら気が付いた自分自身のこと、沢山の姉との幼い頃の思い出、人一倍に恋もしたかった南にとってどれほどの愛情を込めることが出来るだろうか?やってくる柵や厳かな気運が街に飲み込まれていったが、電車で一度街に出なければならなかった。蝕む苦痛な人達の中を歩いていった。見下す人々、空を見上げながら途方にくれる人々、覇気のないホームレス、あらゆる覚悟でビルから今にも飛び降りそうな悲痛な声、喘いでいる空間は苦痛の吐息で汚れていた。電車を乗り継いでいくとガレージ近くの駅に着いた。
公園から潮の匂いがし、新鮮な気持ちになった。もうすぐお姉ちゃんに会える。しきりと速足になっていく。

楓と勉は夕日を見ていた。地平線に沈む太陽を海の向こうから暁の光だった。全てに夕日が沈む光景をみているときが唯一勉と楓の共通する趣味なのかもしれない。夏が終わっていく景色を隣り合わせの夫婦がただ、佇みながら夕日を見ている光景は甚だ不思議な風情を齎していた。人通りのない岸辺でバックをガレージ、向かい合わせる太陽に今後とも仲の良い夫婦でありますようにと二人は見ていた。呼びかけながらも波が音をさらっていく。もはや、真空管も良き音として波打ち際で奏でている。

何やら近づいてくる女の子がいた「あっ」
「南だ!きっとわたしたちの場所が分かったんだ!こっちよ!こっち!」
楓は大きく手を振った!
南も気が付きこっちに走ってくる。
「おねえちゃん!」二人は抱きしめ合いながら泣いた。
「よくここが分かったわね。」
楓は言った。
「うん。いろいろ連絡したの、母さんに聞いたり職場が分かって、ここに居ることを教えてもらったの!」

二人を向かい合わせに夕日がスポットライトのように光で演出していた。
「おねえちゃん、連絡くれないんだもん、グスン、やっと見つけた!」
南は言った。
勉も笑顔でいる。
「姉妹達の再会だね、お互い連絡も取り合わずにそれぞれが大人になったんだね。ふと、気付くと、あっという間の時間、そして、距離もあった分、懐かしさを感じるね。」

ガレージの中に3人は入り10年間にお互い何があったかを眠らずに話した。

お互いの差を生む間には、きっと一期一会は存在する。存在するかしないかの人生なんて、分からない。厚かましくても却って来る愛情なら、なおのこと深い愛情の方がいい。照れ臭くたって恥ずかしく思われたって懸命に頑張る姿は美しい。

29 最終章

ガレージの前、楓はドレスともいえないビニール袋で作ったスカーフを着た。ゆっくりと浜辺の方へ歩いていく。BGMが流れ二人が壇上へ上がりきったとき、二人は向かい合った。
「おねえちゃん!おめでとう!」南はうつむきながら言った。
「仲睦まじく、寄り添い愛、また支え合いながら生きていくことを誓ってください!」

接吻を交わした。光は闇を越え、夏の終わりの初秋の風が吹いた。夕日がバックに見える。波の音が聴こえてくる!

「みなみ!ありがとう!」


2016年 初夏 イッシー

初夏

以前書いたものですが、どうか、読んでみてくださいね。